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第143話 受け入れる

 今回のクリスマスの件について、俺は考えていた。

 女子四人コイツらとの付き合い方について。


 コイツらとはもう半年以上の交流になるのか。

 短いとは特に感じなかったが改めて期間を整理するとその長さに少し意外の感を受ける。

 その交流の中での出来事を振り返ると最初に思い出したのは加賀見の言葉だった。


『アンタが私達と一緒にいるのを嫌がってるから一緒にいるだけ』

『私の気が済むまでアンタが嫌になるような学校生活を徹底的に味わわせてやる』


 前者は俺が加賀見へ交流を持つ理由を問うたとき。

 後者はどういうわけか激怒した加賀見が俺に対して堂々と宣言したとき。

 いずれも俺と加賀見が交流を始めた頃に出てきたものだった。

 その前に安達、その後に春野・日高と接するようになり、そして加賀見を含めたグループといつしか学校生活をともに過ごすようになり、加賀見の意向で俺がその場に巻き込まれるのが日常茶飯事となった。


 俺はそんな日常を脱却しようとあれこれ手を尽くしてきた。

 時には奄美先輩のことを利用し、二学期の少しの間や今日のように奏功することもあった。

 しかしそれらは最終的に女子四人によって阻止されてきた。主に加賀見によってと言い換えてもいい。

 今日こんにちに至るまで幾度となく試みてきた奴らとの断交は、いずれも失敗に終わったのである。


 そして加賀見がついさっき放った言葉。

『私達のことを、簡単に引き離せると思うなよ』

 そんな言葉を受けて俺は一つの結論に達した。


 もう、今の高校生活を受け入れるしかないんじゃないか、と。


 前から薄々思っていたことでもある。

 今までのように奴らとの断交を図ったところで安達も春野も日高も、何より加賀見も結局俺を巻き込もうとするだろう。

 この女子四人の執念が一体どこから来るのか俺には全く見当が付かない。

 しかし、今までの経験からその執念の深さだけは嫌というほど思い知らされた。

 そうなると俺が女子四人と真っ向から対立することはいたずらに体力を消耗するだけに過ぎないと思えてくる。

 なら奴らの誘いは素直に受けた方がまだ疲れなくて済む。


 それに女子四人との付き合いも高校生活の間だけだ。

 まさか高校卒業後も続くとは考えられないし、万一のときは奴らから遠く離れた地で進学なり就職なりすれば間違いなくお別れである。

 それまで今の生活を享受することにしようか。

 どうせ残り二年半の辛抱だ。長いと言えば長いが、人生80年ぐらいと考えればほんの僅かなことである。

 高校を卒業した後に目一杯自分の理想の生き方を送ればいいじゃないか。


 考えを新たにする内に、不思議と感情が穏やかになっていった。



「――ねえ、黒山君」

 春野の声で俺は思考の海(誇張)から呼び戻された。

「ん、どうした春野」

「いや次黒山君の番だよ」

「そうか」

 俺は安達・加賀見・春野・日高とともにカラオケボックスへ来ていた。

 一学期のときにこの五人で行ったことがある店だが、今回久しぶりに行きたいという声が安達から上がったらしい。

 春野の歌が終わり、歌う番となった俺は所定の位置に戻されていたマイクを手に取り、選曲用の機械のディスプレイに映った曲を適当に選んだ。別にどれでもいいしな。

「初めて聞く歌だー」

 安達が感想を漏らす。うん、俺も初めて聞く。

 やけに明るい曲調だな。ある意味クリスマスで盛り上がるのには相応しいのか。

 とりあえずディスプレイに出た歌詞をもとに適当に口ずさんだ。

「おー、相変わらず上手だね」

 日高の呟く声が、俺には聞こえていた。

 何とか一曲歌い終わり、俺はマイクを仕舞って席に座った。

「アンタ、何か清々しい顔してる」

 加賀見が戯言をほざく。

「んなわけあるかよ。今でも早く帰りたいってのに」

「ふーん」

 加賀見はつっけんどんな面構えになったが、これ以上何か訊くこともなかった。


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