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第144話 年の瀬

 年の瀬を控えたある日のこと。

「ね、来年の正月に皆で初詣でしない?」

 春野が俺達五人のいるグループチャットでメッセージを打った。

「うん、行こ」

「私も大丈夫だよー」

「私も」

 加賀見・安達・日高が揃って参加を表明。皆ご両親のどちらかの実家に帰省する予定とかないのかしら。かく言う俺も今年は特に帰省の予定はないんだけどさ。

「俺も参加で」

 俺も皆に合わせて返信する。ここに送ってきたってことはどーせ俺も参加する前提だろ。しょーがないから付き合ってやるさ。

「了解!」

「あれ、意外。てっきりまたゴネるかと」

 春野の快諾に対し、加賀見の反応が対照的だった。

 少し前の俺だったらここでどうにかして正月の集まりを回避する策を編み出してダメ元でもチャレンジしてたと思う。そんでもって加賀見が俺の策を破って結局女子四人に付き合わされるオチになったと思う。

 しかし、そういう不毛な流れをいい加減変えようと先日・・決めたのだ。

「俺が来ちゃマズいのか?」

 加賀見に向けてメッセージを送ると

「いや、歓迎。正月のときはよろしく」

 本人から間もなく返事がよこされた。

 そのやり取りの後は女子四人がグループチャットで適当に盛り上がっていた。



 大晦日の夜、グループチャットでメッセージの応酬が行われていた。

「いよいよ今年も終わりかー」

「毎年どっかで聞くフレーズだな、それ」

「お望みなら毎日でも毎分でも聞かせてあげるけど」

「どんな嫌がらせだよ」

「『いよいよ黒山も終わりかー』でいいんだっけ?」

「自分の終わりを毎分告げられるとか精神どうにかなりそうだわ」

「アンタなら『へー、それで?』で済ませそうだけど」

「へー、それで?」

「おちょくってんの?」

 会話が見る見るしょうもない方向に転がっていくのを感じながらメッセージを打っていく。早く誰か話題を年末年始に戻してくれ。

「明日集まる時間って朝9時だっけ?」

 日高が加賀見と俺の会話をぶった切り明日の正月の件を確認する。いいぞ日高。

「そーだよ」

「やっぱ早いなー」

「まあね」

「午後だと混雑が激しくなるだろうって朝に決めたんじゃなかった?」

「そうなんだけどさー。朝起きれないかも」

「えー、もう少し頑張ろうよ」

「遅刻したらゴメン」

「遅れる気満々のコメント」

「あ、わかる?」

「ねー皐月、ちゃんとしようよ」

 女子四人は正月の話題でグループチャットを埋めていく。

 俺はそれを流し見しつつ、同時にラノベを読んでいた。

 右手にはメッセージの画面が映ったスマホを、左手にはラノベをといった案配だ。

「黒山、当日遅刻したら承知しない」

 加賀見が釘を刺してきたので

「ああ、了解了解」

 こんな感じで適当に返信しておく。この日はそれ以降加賀見から何か話を振られることはなかった。


 このやり取り、元日の0時を迎えても続くかと思ったのだが、

「ねえ、そろそろ寝ない? 明日早くに初詣で行くんでしょ」

「そーしよっか」

「ん、続きはまた来年」

「うん、おやすみー」

 21時を回ったところで入った日高のメッセージにより、俺達全員夜更かしをせず就寝することになった。

「おやすみ」

 就寝の挨拶だけ送信して俺もメッセージを閉じた。よかった、想定よりは早く終わったぜ。


 それにしても日高、お前遅刻する気ねーじゃねーか。


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