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第146話 珍しく

 正月のときから本格的に冷え込んでいたが、二月に入ってからはそれよりさらに寒さが身に染みるようになってきた。

 葉を全く付けていない木々や雑草を白く化粧する霜を見ていると寒気が辺りを支配しているのがよくわかる。


 そんな二月の初め頃、安達から届いたメッセージから会話が始まった。

「皆、マユちゃんの誕生日憶えてる?」

「今月の8日だよね」

「もう来週じゃん」

 そう、加賀見の誕生日が近くに迫っていた。

 俺も忘れてたわけじゃない。できれば忘れたかったが、安達の誕生日以来必ず何かしらのイベントをやることが予想された以上、忘れられるわけがなかった。


 安達の誕生日のときは確か加賀見が俺達に向けてメッセージを発して、そこからパーティーやらプレゼントやら諸々の準備が始まったんだよな。

 今回は二人の立場が反対になっている。つくづく仲睦まじいことだな。バトルものなら合体技を繰り出せるタイプに違いない。


「うん、だから皆でマユちゃんの誕生日を祝いたいなーって」

「そうだね」

「それなら早速準備しないと」

 春野と日高が即座に受け入れる。うん、そういう流れになるよね。


「黒山君は?」

 返信を出さない俺に向けて安達が催促する。

 俺はというと、当然乗り気ではない。乗れるわけがない。

 奴に今までどれだけ苦しめられてきたかと思うと奴の誕生をお祝いできる気分には到底なれない。

 だが参加するさ。奴との付き合いも高校にいる三年間まで。なら今日を含めて、多くとも三回出れば終わる話だ。

 当日はひたすら加賀見のことを人間以外の何かだと思うことにしよう。加賀見が何をしてきても人間のすることじゃないからと割り切ることにしよう。我ながら大分ヒドいことを考えてる気がしなくはないが、アイツの悪行の数々を受け流すにはそのぐらいの認識でいないと厳しいんです。わかってください。


「ああ。俺も参加ということで」

「わかった! これで全員参加だね」

 どうせ俺の不参加は受け入れないつもりだったんだろーに。

 安達のメッセージに思うところが出てきながらも、次の話題はもう誕生日当日の内容を考えることに切り替わっていた。


「で、私の誕生日祝いもサプライズで皆準備してくれたでしょ?」

「そうだね」

「だからマユちゃんのときもサプライズでやれば喜んでくれるんじゃない?」

 え。

「え」

 日高のメッセージが俺の心の声にシンクロした。

「ミユちゃん、ひょっとしてだけどさ」

「どうしたの?」

「このグループにマユちゃんいるの気付いてない?」

「え」


 そう、一連のメッセージは安達・春野・日高・俺・加賀見・・・のいる五人のグループチャットで行われていた。

「あれ、ここってマユちゃんいないグループになってない……⁉」

 という安達のメッセージから察するに加賀見のいないグループチャットを新たに作成したものの、メッセージ自体はいつも俺達五人が使う方に誤爆してしまったのだろう。


 で、自分の話題なのに何故か一言も発しなかった加賀見がようやく発信する。

「ゴメン、何か話に入っていきづらくって……」

 加賀見にしては大変珍しく弱気な内容だった。おい、俺に対するときの尊大かつ理不尽な態度はどうしたんだよ。

 とも思ったが、加賀見が宝のように大事にしている親友・・の安達へそんな態度を取るわけないかとすぐ諦めて受け入れた。ホント親友には甘いことで。


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