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第147話 遠慮

 先日の安達のやらかしにより、加賀見の誕生日パーティーは本人に事前通知の上で実施する運びとなった。

 誕生日プレゼントについても安達のときと同じく皆でお金を出し合って一つの品物を送ることになったのだが、

「もうバレちゃったんだし、マユちゃんに直接選んでもらお」

「え」

「さんせーい」

「その方が間違いないもんね」

「異存なし」

 というやり取りを経て、誕生日の主役たる加賀見さんに直々に選んで頂くことになりました。ちなみに上記メッセージの内、御本人の反応は「え」となります。


 今日がプレゼントを選ぶ当日である。

 いつものように丸船駅の待ち合わせ場所へ向かった。今日は一番乗りだ。

 少し待っていると加賀見がやって来た。

「ん、今日はよろしく」

「おう」


 残り三人を待つこと数分。

「おおどうした、今日は落ち着きないな」

「当たり前でしょ。まさか私へのプレゼントを私自身が選ぶなんて思わなかったし」

「よかったなー。まず要らないもんにならないぞ」

 折角友達の皆がお金を出し合って買ったものが自分には不要な代物だったとかやるせないだろうからな。お互いに。

 安達・春野・日高が加賀見に選んでもらいたがっているのも妥当な話だ。

「……すっごい楽しそう」

 そりゃあな。

 今でも加賀見は左足の膝から下を前へ後ろへブランコのように振っている。

 奴はいつも愛想がなく無表情だが、心なしかそのいつものときよりも強張ってるように見える。

 奴のこういう姿を拝むのはなかなかに新鮮だ。

 今日は一日中こんな調子でいくだろうから、いい機会に面白おかしく観察させてもらう。


「ところで、アンタに訊きたいんだけどさ」

「おはよー、お二人さん」

 加賀見が何か言い掛けると、そのタイミングで安達がやって来た。

「ゴメン、待った?」

「ううん、別に」

 加賀見は質問しようとしたのをなかったことにした。



 春野・日高もやって来て今はショッピングセンターの中。

 服飾や化粧品のように女性向けの店を一通り巡った後、

「ね、マユちゃんは買ってほしいものあった?」

 と安達が水を向けた。

「うーんと、アクセサリーなんだけど」

 ということでアクセサリー売り場を再訪して加賀見の案内のままにお目当ての商品の元へ行く。

 見ると、その場の中でも相当に安いものだった。


 うん、今のお前ならそうするだろうと思ったよ。でもな。

「ねーマユちゃん」

「どうしたの、ミユ」

「ホントにそれが欲しいものなの?」

「……」

 安達から目と目を合わされ、プイと顔を背けてしまう加賀見。やっぱ加賀見と長い付き合いのある安達にはお見通しだったようだ。

「ミユのときだってもうちょっとお金出してたでしょ」

「そんな遠慮することないんだよ、マユちゃん」

 日高と春野も加賀見の方を窘めた。二人にとっても加賀見の水臭さは心外だったんだろう。


 加賀見の心の内に友達である皆に買ってもらうのにあまり高いプレゼントを選べないという遠慮が働いたのは想像に難くない。

 だからと言ってあまりに安いものではコイツらにとってもプレゼントを送る甲斐はないであろう。

 何より加賀見が大して欲しがってるように見えないものを。

「……わかった。皆のお言葉に甘える」

 と言って加賀見は改めて別のアクセサリーを選んだ。

「へー、いいじゃん! マユちゃんに似合うと思うよ」

「うん、それにしようよ」

「そーだね」

 値段は安達に送ったプレゼントより少し高目のものだった。

「ありがとうね、皆」

 加賀見がお礼を言ったが、目は皆の方とは違う方向に反らし、その頬は赤らんでいた。

 女子達はそれを咎めるでもなく、ただニヤニヤしながら受け止めていた。皆もいつになく珍しい様子の加賀見を堪能しているらしい。


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