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第148話 相手

 加賀見の誕生日当日になった。

 隠し立てをすることもなくなった俺達は業間休みでも昼休みでも加賀見の誕生日に何を用意するか、何のゲームをするかを話し合った。無論加賀見の目の前で。

「マユちゃんこういうの喜びそう」

「マユって意外とこういうのもイケるんだよね」

 といった話をずっと聞かされている張本人は顔をあまり上げず、頬も耳も赤くして黙りこくっていたよ。何でだろうね。

 で、張本人こと加賀見は

「あの、そんな気を遣わなくても」

「私は皆の気持ちだけで充分だよ」

 と借りてきた猫のような態度でへりくだっていた。

 加賀見の誕生日なんて俺にとっては厄日だとばかり思っていたが、予想に反して大いに愉快な一日となっていた。今にして思えば加賀見のいる場で加賀見の誕生日を(図らずも)企画した安達がグッジョブだな。



 場所はいつもの安達家ということで、最寄りの駅からいつものように遠めの道を歩いていく。

「マユちゃん、自転車使う?」

「え、いいの?」

 加賀見がその半目を光らせる。

「うん、いつも使いたがってたでしょ。今日はマユちゃんのお祝いだしね」

「……」

 加賀見がすぐに乗っからず口を閉じた。

「ありがと、ミユ」

 少し時間が経って加賀見が答えた。


「でも、私だけ先に着いたらお喋りする相手いなくなっちゃう」


 加賀見は安達の申し出を丁重に断っていた。

「そっか」

「そう」

 安達もこれ以上は押して勧めることもなく、加賀見の答えを受け止めた。

 春野・日高はミユマユのすぐ後ろに並んで歩いていた。俺は最後尾であり、要は俺達揃ってミユマユの様子が丸わかりだった。

「……へー」

「仲良いね、お二人さん」

 日高がミユマユを見てニヤニヤしていた。

 春野がミユマユの関係を見て囃し立てていた。

 俺に言わせれば春野・日高のコンビも大概だ。お前らが別々に行動してるのなんて片手で数えられるぐらいしか見たことないぞ。

 しかもこの二人の方が幼馴染という年季の入ったものだけに結び付きがより強固だと思う。幼い頃に大きくなったら結婚しようね的な約束を取り付けててもさもありなんだな。

 さて、ミユマユの方のお二人さんはと言うと、春野・日高の言葉を受けてなのかお互いに顔を反らしていた。

 俺達には頬を少し赤らめている二人の横顔が視界に映っていた。



 安達家に着いた俺達は、加賀見のための誕生日パーティーを開いた。

 と言っても内容は安達の誕生日のときと一緒で適当に買ったお菓子やら料理を広げ皆でワイワイ騒ぐだけのことだった。

 あと安達の部屋にてトランプやらテレビゲームで遊ぶといったぐらいのことであり、普段の遊びの延長のような催しだ。

 あと、飾りは特に用意していないのも同じだ。

 飾り付けも後片付けが面倒なのと、友達とはいえ人様の御宅に対して勝手にそこまでするのはいかがなものかという俺の意見に皆が賛同した賜物である。


 加賀見についてはいざパーティーが始まると先程までのしおらしさはなくなり、素直に楽しんでいるようだった。

 まあ、加賀見にとってはパーティー前は自分の前で自分の話をされるという特殊環境だったが、今のこのパーティー中は平時とそんな変わらない雰囲気だからな。奴の気持ちも落ち着いてきたのだろう。

 そして俺は加賀見から特に何か無茶振りされることもなく、時折話に参加する程度で済んだ。

 正直拍子抜けだった。奴のことだからここぞとばかりにあり得ないことを要求してきて俺の困る姿をさかなに楽しむのかと思っていたから。


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