加賀見の誕生日パーティーがつつがなく終わった帰り道。
春野と日高が前列を、加賀見と俺が後列を歩いていた。
前列の方は今日のパーティーについての話で盛り上がっていた。コイツらの体力すげー。
後列の方は特に喋ることなく無言で前列にくっついていた。落差がヒドい。
駅まであと少しの所に差し掛かったとき、加賀見が俺の方を向いた。
「黒山、ちょっといい?」
仏頂面にそう言う加賀見からはそこはかとない迫力を感じた。
「え、マユちゃん?」
「いきなりどうしたのさ」
加賀見の声が聞こえた春野と日高から疑問が飛び出した。
唐突にどうしたんだろうか。まさかここへ来て誕生日プレゼントに無茶振りをかまそうと言うのか。だとしたらホントにいい性格をしている。
「ゴメン二人とも、今日は先に帰ってもらっていい?」
加賀見が春野と日高に対してそうお願いをする。いやオイ、一体どうしたんだよお前。
「そ、そう……」
「うーん、しょうがないか。また明日ねー」
二人も納得がいかない様子ながら、加賀見の気迫に打たれたか引き下がるように帰っていった。
加賀見が俺を連れて駅の近くのビルとビルの間にある路地裏へ向かった。
ああ、いつぞやのときもこんな雰囲気の場所でコイツと二人になった記憶があるな。
あのときは確か俺が加賀見を呼び出した側だったと思うが、今回は立場が逆か。
俺を呼び出した加賀見が口を開く。
「一つ、訊きたいことがあるんだ」
「……何だ」
呼び出した側が質問するところまで以前と同じだ。何これオマージュってやつか?
「アンタ、最近ゴネなくなったよね」
ほう、さすがに気付いてたか。
「そうだな」
「それって何で?」
何で、か。まあ加賀見に隠すメリットもデメリットも特にないし、教えてもいいか。
「万策尽きたってところだな。お前らと何度縁を切ろうとしても失敗してんだ。いい加減諦めもつく」
「……ふーん。ちょっと意外」
「何?」
「アンタのこと、もっと諦め悪いと思ってたから」
「これが永遠に続くならそうしてたな」
間違いなくな。こんな修羅場が一生ものならどんな手段を用いても回避に務めていた。
それこそリスクを承知の上でアクの強い手段を取ることも視野に入れていたと思う。
「しかしまあ、所詮は高校生活を送る三年間だけだ。人生の内のほんのちょっとぐらい、辛抱してみせるさ」
「何か前も似たようなことを聞いた気がする」
「奇遇だな。俺も似たようなことを言った気がしてるよ」
いつだったかな。ああ、加賀見が
あのときの俺は本気でそう言ってたわけでもなく、ただ苦し紛れの強がりで言い返してたっけな。
「にしても随分大人になったんだね」
「ああ。だからよ、加賀見」
「何?」
「高校生活で仕掛けてくるお前の嫌がらせなんざ全て笑い飛ばしてやるまでだ」
加賀見に対して俺は、そう言わずにいられなかった。
以前の俺だったらそんなことする余裕なんて到底持てなかった。
口だけは達者にそう述べても、内心は相当やられていたように思う。
しかし今の俺なら、今言ったことを余裕でこなせそうな気がしたのだ。
根拠は全くない。
加賀見は目を見開いていた。
呆気に取られたような表情に見えた。
やがて奴の表情が変わった。
どこか慈愛を
「そう、じゃあ音を上げるのを楽しみにしてる」
そう答えた加賀見の声は、俺と話すときによく出るやけに抑揚の利いたものではなかった。
安達や春野や日高と話すときに近い、飾らない平坦なものであった。