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第196話 ついつい

「胡星先輩に確認したいことがあります」

「そうか、今忙しいから1か月後に頼む」

「スマホいじってるだけじゃないですか」

 何を言う。今は同様にスマホをいじってる奄美先輩とともに王子を落とす方法をインターネットで調査しているところだ。気分転換にそれとは関係ないゲームやらラノベやら漫画やら触れてるだけで遊んでるわけでは全くないんだ。ちなみに気分転換の時間が調査より数倍掛かっていたとしても必要経費なんだ。仕方ないんだ。


「あ、このケーキおいしそうじゃない?」

「どれどれ……いーんじゃないですか」

 奄美先輩からスマホに移ったケーキの画像を見せられ適当に同意する。

「二人とも作戦会議はどうしたんですか」

 おやどうした、今日の葵はえらく冷めているようじゃ。願わくば永久に冷めたままでいておくれ。

「いや、今榊をケーキ屋に誘おうという案が浮上しててな」

「そんな流れにいつなったんですか」

「昨日辺りに」

「昨日二人ともろくにアイデア出してなかったでしょ」

「じゃあ記憶違いか。数日前ぐらいだな」

「私がここに毎日出入りしてるのお忘れですか? 普段の会議の様子知ってますからね」

「葵、アンタ今日お友達と遊ぶ予定大丈夫?」

「私の予定よりもお姉ちゃんのごまかしの下手さが心配になるんだけど」

 奄美先輩でも止めきれないか。でもごまかし方の下手さ加減はお前や春野も変わんないと思うの。


「で、もう一度言いますが確認したいことがあります」

「後百度ぐらい言ってくれ」

「先輩が前に仰った私に一人で過ごすことの楽しさを教えてくれるっていう件、計画は立ちましたか?」

 俺のお願いを非常に滑らかにスルーして確認事項をさっさと伝える葵。ん、計画?

「あー、すっかり忘れてた。メンゴ」

「……加賀見先輩が貴方に悪魔じみたマネする理由が何だかわかった気がします」

 え、何それは。意図がいまいち読み取れないんだけど、放っとくと葵が加賀見に次いで新しい悪魔に化けて出るの? 悪魔って量産型なの?


 ただならぬ雰囲気を無表情の葵から感じ取った俺は即座に事態の収束を試みる。

「いや最近色々なことがあったろ。日高の誕生日もやったり加賀見の体力テストの特訓にも付き合ったり」

「ああ、加賀見先輩については先日仰ってましたね」

 だろうね。俺も性懲りもなく休みの日に遊ぼうとかねだってたどこぞの一年生に伝えた記憶があるね。

「でも、余暇は放課後とかイベントの無い時間にもあったはずですよね? そこでも少しも気に留めなかったんですか?」

「まあ、疲れを取るのに費やしたからな」

 さすがに24時間戦えないんで。食事や睡眠の時間はしっかり取らないと体も頭もおかしくなるんで。具体的には1日24時間ぐらいは仕事せず休みたい。


「はあ、それなら今日先輩の家に行きますか」

 へ?

「いやいやいやちょっと待ってくれ奄美妹。突然何を」

「その呼び方やめろっつってんでしょ」

 驚いてついつい久しぶりの呼び方を奄美妹、じゃなくて葵にしたら後輩とは思えぬ口の利き方をしてきた。やだこの子、やっぱ段々おっかなくなってきてるぅ。


「なので放課後終わり、引き続きよろしくお願いしますね」

「だから待てって。俺は承知してないぞ」

「帰った後の予定はダラダラして漫画読んだりゲームしたりとかでしょ」

「たまにオーケストラをやったりもあるな」

「オーケストラをやるって何なんですか」

 さあ、俺も知らんよ。口から出任せなのに。


「ちょっと葵、いくら何でも急過ぎるわよ」

 おお奄美先輩が止めに入ってくれたか。

「ちょっとの時間いるだけじゃん。先輩の部屋が片付いてなくても今回はしょうがないと思うし」

 失礼な物言いを何の躊躇もなく放つ葵。

「それに、胡星先輩このまま放っといたら永遠にプランの件先延ばしにしますよね」

 ち、さすがに感付かれたか。このまま葵の方もやる気をなくしてフェードアウトを目論んでいたのに、予想以上に本人のモチベーションが高かった。

「……」

 奄美先輩も反論できなかった模様。え、もう言い負かされたんですか。


「……学ぶだけならこの空き教室で今すぐにでもよくないか?」

 家に上がられたらいつまで時間を食われるかわからないので妥協を模索。

「座学だけでなく実践もしてみたいので、色々揃っている先輩のお部屋がいいと思います」

 妥協失敗。何だその絵に描いたような営業スマイル。加賀見がろくでもないこと考えてるときに見せるのとそっくりだな。実は親戚とか?

「……あんまり期待はするなよ」

 こうなったらさっさと済ませてさっさと終わらせてしまおう。

「はい! とっても楽しみにしてます」

 朗らかに皮肉たっぷりな返事をどうも。普段やらないようなとんでもない過ごし方でも叩き込んでやろうか。

「……ゴメンね、黒山君」

 奄美先輩、お気遣いありがとうございます。でも贅沢ぜいたくを言えば奄美妹をしっかり止めてほしかったです。


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