俺の部屋に入った葵は物珍しそうに周りをキョロキョロしていた。
「奇抜な物は特に置いてないんですね」
「お前は俺を何だと思ってんだ」
俺がそんな奇妙奇天烈な物事を好む好事家にでも見えるのだろうか。失礼しちゃうぜ。
「ひょっとして机の引出に面白そうなのが仕舞ってるんでしょうか」
「文房具とか学校でもらったプリントぐらいだな」
机の上ですることなんて基本的に勉強とか学校関連のことしかないのでそれで充分事足りている。
「えー、ホントですか? ちょっと現場検証してもいいですか」
「お前にそんな権限はない」
「隠そうとするなんて何か怪しいですよー」
「お前は人に机の中をあれこれ探られるのとか平気なのか」
俺だったら普通に不快だわ。変なモン入れてなくとも気分が悪い。
「……確かにイヤですけど。それならお返しに今度私の机の中でも調べてみます?」
「何のお返しだよ」
俺にとって葵の机の中を調べることに何のメリットがあるんだよ。
そんな調子でやたら俺の部屋を詮索してくる葵を適当に受け流し、俺は自分の机の椅子に座った。
お次に葵は部屋にある本棚をじっくり見た。
俺自身はそんなにお堅い本に興味がないため、もっぱらマンガやラノベの類いが並んでいる。
「あ、これ私も読んでます」
葵が本棚に並ぶマンガのうちの一冊を指差した。
「おお、そうか。やらないぞ」
「いや頂戴しようとか思ってませんよ。ウチにもありますし」
「そうか。
「先輩は私がそんなクズに見えるんですか……」
あ、何か後輩の様子がおかしくなってきたな。どことなく加賀見がキレたときに雰囲気が似てる。
「他にも読んだことあるマンガやラノベはここにあるのか?」
こういうときはとにかく話を逸らすに限る。それはもう高速道路をかっ飛ばしてようが構わずUターンするかのごとく強引に葵に質問を投げ掛けた。
「……そーですね。後はこの辺でしょうか」
葵が不機嫌そうにしながらも何とか俺の質問に付き合い、本棚の下の方のとあるマンガのシリーズを指し示した。
「そうか」
「何かもう少しで本棚が一杯になりそうですね」
ああ、このまま行けばな。
「最近は電子書籍で買うのがメインになってるな」
「あれ、そうなんですか?」
「ああ。使い始めたのは最近だけどな」
「何かきっかけでもあったんですか?」
「いや、別に。試しに使ってみたらスゴい便利だと思って使うようになったぐらいだ」
「へー……先輩方に勧められて、とかではないんですね」
「まあな」
安達は前から電子書籍を使ってたとか言ってた記憶もあるが、特にそれで自分も使おうって気分にはならなかったな。
葵は本棚の次にベッドの方へ向かった。
すると、俺のベッドに両手を押し当てた。
「わー、結構ふかふか」
「そうか」
「でも姉のベッドの方が使い心地いいかもですね」
「お前ホントに奄美先輩のベッドが好きだな」
この前家に訪ねたときもそれを言及されてたし。
あと寝っ転がったわけでもないのに手触りだけで使い心地までわかるもんなのか。
と思っているといきなり葵はベッドの上にダイブした。
「おいどうした。突然睡魔に襲われたのか」
「いえ、実際に寝てみたら感触とかもっと違うのかも、て思ったら試してみたくなっちゃって」
「いやお前そんな理由で人のベッドを」
「枕はどうですかね」
葵はうつ伏せになるや否や俺の枕に顔を埋めた。
あれ、この子こんな遠慮のない子でしたっけ。いや遠慮ないのは百も承知だったけどここの所は道行く人々の食べ物に
そのことを思うと今枕に頭をスリスリとしている葵の行為が縄張りに自分の匂いを擦り付けるという動物の姿に重なって見えた。いや葵にそんな意思がないことはわかってるんだけどね。ただ単に枕の感触を確かめているだけなんだろうけどね。
「枕も結構私にフィットしますね」
「俺の枕だけどな」
「よっと」
葵がベッドから起き上がる……と思いきや、ベッドからは離れずその上に座り直した。
「ふふ、すみません先輩、勝手にベッド使わせてもらって」
「許可した覚えもないけどな」
でもまあいいよ。どうせ今からベッドから剝がしたところで3歳児ぐらいにグズグズしそうだし、コイツの場合。……コイツ本当に15~6歳なんだろうか。