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第201話 公園に

 空き教室に入ってきた奄美先輩が、とある提案をしてきた。

「今度、榊君を野沢のざわ公園に誘おうと思うの」

 ああ、湖に面したあの公園ですか。この学校のある地域では定番のデートスポットでしょうね。多分。

「いいんじゃないでしょうか」

 その手のどこそこに誘うという案、もう何度聞いたか覚えてないけどね。

 そしてその手の案が何度お流れになったことかもまた記憶にございません。


 だが今回はだいぶ毛色が違うようだ。

「で、下見をしたいと思うんだけど黒山君も手伝ってくれない?」

 何せ現地へ赴いてまでの調査などしたことがなかったんだから。

「「え」」

 葵と反応が重なるが構わない。俺は言葉を続けた。

「そこまでする必要あるんですか。それよりまずは榊を誘う手段を考えるのが先だと思うんですが」

「いつもそれで行き詰まって『じゃあ今回この作戦はナシで』ってことになってばかりじゃない。毎回そうなるなら切り口を変えてみるのも悪くないと思うわ」


 そう、結局肝心の王子の勧誘の仕方が思い浮かばないのである。

 奄美先輩と王子が交流した回数がそもそも少ない。俺の知る限りそれこそ片手の指で数えられる程度しかない。

 一年上の先輩ということを遠慮してか王子も奄美先輩を遊びに誘うことはなかったし、奄美先輩も王子を遊びに誘う勇気がなかなか出ないようだ。

 ただ、奄美先輩は去年王子と接点がなかった中で王子に告白したことがある。

 結果? 今のこの状況を見て察してくださいな。

 正直意中の相手に告白できるぐらいなら遊びに誘うぐらい訳ない気がするんだが、それでも本人はなかなか踏ん切りがつかない具合だ。もうこれ王子と結ばれるの一生ムリなんじゃないの。


 さて、奄美先輩の話を聞いた葵が

「なら私も行くよー」

 と元気よく手を上げる。

「葵?」

「ちょうどまた遊びに出掛けようって胡星先輩と話をしてたところだからさ」

 な、コイツ……!

「そう。でもコレは私と黒山君だけでやらせてもらうわ」

「へ、何で?」

 葵が上げた手をすっと下ろした。手の上げ下げがバロメーターになっているかのようにテンションも落ちているのが察せられた。


「これを機会にデートの練習をしたいと思ってたところだから」

「へ?」

 という葵の返事に、俺も同調した。

「え、単にデートスポットの調査をするだけじゃなかったんですか」

「それを説明するところだったんだけど葵が邪魔しちゃったわね」

「いや、どういうこと?」

「そのままの意味よ。私も何度か榊君と話をしたことはあるけど、それって榊君のお友達が大勢いる状況のときぐらいで、二人きりで何か接したことはほとんどないのよ」

 そうだっけ。言われればそうだった気も……いや。

「告白のときはお二人だけでしたよね」

「あのときは別よ。告白のときの一瞬と一緒に遊んで過ごす時間は全然勝手が違うでしょ」

 はあ、そんなもんですか。俺異性に好きですとか告白したことないからわかんねーや。


「で、黒山君には悪いんだけど男の人と二人きりで遊んでみて問題ないかも試してみたいのよ」

「そうなんですか」

 春野といい葵といいこんなにデートの練習ってしたがるもんだろうか。何となく俺の知り合いだけがこんな傾向強い気がする。

「ダメかしら?」

 堂々とした佇まいで俺の意思を確認しに来る奄美先輩。どうもこうも、

「わかりました。協力させて頂きます」

 こう言わざるを得ないでしょう。奄美先輩の恋路に協力すると取り決めしてしまった以上は。


「何か私のときと違ってあっさり頷きましたね」

 葵が俺の奄美先輩に対する態度に不服らしいが仕方ないだろ。

「お前とのデート練習もやるって言っただろ」

「え、そうなの?」

 おっと、奄美先輩には説明してなかったな。

「はい、さっき奄美先輩が入る前にここで」

「びっくりしちゃったよ。私のすぐ後にお姉ちゃんが似た話するんだからさ」

 全くもって。血は争えないをここまでわかりやすく体現した姉妹もそうそういないんじゃない。


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