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第206話 見つけに

「ね、この三人で面白いもの見つけに行かない?」

 何だかえらく雑な青春物もしくは冒険譚の入りを感じさせるセリフをほざいたのは日高だった。何? 今から壮大なファンタジーでも始まるの? そういうのは王子とやってくんない。


 春野と俺を人気ひとけのない校舎裏に呼び出して何かと思えばこれであった。

「どうした、今度はどんなアニメやマンガに影響されたんだ」

「いつもそうみたいな言い方してるけど、そんなのしたことないよ」

 そうか? 春野と俺をムリヤリくっつけようとするところとか架空の恋愛話に当てられたとしか思えない行動だったぞ。むしろ何もないところから自分でそんな発想に至る方が恐ろしいぞ。


「ゴメン皐月、私も意味わからない」

 おお、あの明朗快活な春野が真面目なテンションになってる。記念にスマホで撮っとこうかな。

「なーに、皆で街へ遊びに行こうって話だよ」

 何だ、じゃあ最初から普通にそう言えばいいじゃないか。何でいかにも意味深な表現をしたんだ。

「ただ何の目的もなくブラつくのもつまんないからさ。ちょっと街中で面白い出来事とか探してみるのもいいんじゃないかって思ったの」

 おお、また面倒この上ない企画を。


「じゃあ安達や加賀見も呼べばいいんじゃないか」

 ソイツらが入ってくれれば俺は用済みになって解放されるかもしれないんだしさ。ぜひ呼ぼうぜ。

「ミユマユを呼ぶのも考えたんだけど、ちょっと迷惑かもしれないなーって思ってさ」

「俺も迷惑なんだが」

 何でお前らとの遊びには喜んで参加するであろうあの二人を差し置いて、できることなら参加せずに家でまったり過ごしたい俺の方を参加させようとするのさ。理不尽にも程があるでしょ。


「まあ聞いてよ。推測なんだけど、あの二人最近ますます仲良くなってる気がして」

「それがどうした」

「あー、何て言ったらいいんだろ。えーと、二人だけの時間を過ごしたがってるように見えてさ。私達が遊びに誘うと邪魔かなって」

 ……あー、何となく言いたいことがわかった気がする。


 安達と加賀見については交流してから今まで距離を縮めていっている。

 加賀見が安達のために怒るような姿も何度か見てきたし、安達が加賀見を喜ばせようと動く姿もしかりだ。

 俺も徐々に親しくなっていく二人を間近でずーっと見てきた身として、コイツらがそういう関係・・・・・・なんじゃないかと邪推したこともあるぐらいだ。そういう関係がどういう関係かって? そんなこと一々説明なんてできるか野暮ったい。

 で、最近になって日高も二人の関係に特別なものを感じて配慮をしているというところか。


 日高の機微はわからなくもないが俺達が今更気を遣うことなのだろうか。

 安達と加賀見の関係は俺達がいようがいまいが関係なく醸成されていった間柄だ。

 二人きりで過ごしたいときがあるならあの二人は勝手にそうするだろうし、そうでなく春野・日高と皆で遊びたいときはお前らの誘いに乗っかるであろう。

 俺達が二人の関係に配慮してあえて最初から誘わないというのは余計なお世話ではなかろうか。

 まあ日高の気遣いが間違いとは断言できないからあえて口は挟みません。


「? えーと、どういうこと?」

 一方春野は日高の言いたいことがうまく伝わらないようだ。

 春野は安達と加賀見の関係についていぶかしむところもないのだろう。それなら日高の歯切れの悪い説明を聞いても理解できるはずがない。

「あー、ちょっとちゃんと説明するのは難しいっかな。凛華は気にしなくてダイジョーブ!」

 キャハッと小さく笑う日高。ごまかすつもり満々な様は傍から見ててもイラッとするが

「……まあ、いっか」

 春野は受け入れちゃった。こーなると問い詰めてもムダだと思ったのだろうか。春野は日高の幼馴染なだけに日高の性格はよく理解しているだろう。

「とにかく、ミユマユには内緒にしつつこの三人で行けないかな!」

 パン! と小気味いい音とともに日高が両手を合わせて頭を下げてきた。


 そんな日高を見て今度は何企んでんだろうと思った。

 冒頭の一言からして普段の日高からは考えにくい違和感を覚えたのだ。

 今までの流れとこの面子を照らし合わせるに一番可能性が高いのは例によっての春野と俺をムリヤリくっつける意図といったところだろう。もう何回目だこんな展開。


 ただ一方で前回と違うのは、日高も俺達二人に同伴するということだ。

 春野と俺をカップルに見立てるつもりならば二人きりにした方がよりそれらしい雰囲気に持っていけるんじゃなかろうか。俺としては気が進まないが、事実前回の植物園では俺達二人だけで行動していた。

 今回は三人で街中に繰り出すことになるだけに日高が何を考えているのか読みづらい。だもんで今回のイベントに参加するのも不気味だ。


 ……つっても、どうせ行かなきゃいけないんだよな。

 高校生活の間はどうあれコイツらから離れるのが難しい。

 難しい以上は最初から素直にコイツらの作る流れに従った方がまだ面倒が少ない。

 そう思って今も日高に呼ばれるままに春野とこの場へ集まってるんだから。

「……わかった。行くか」

「うん、私も行きたい!」

 春野、お前はいつも明るいな。


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