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第209話 撮影

 春野と並んで街中を散策することおよそ10分。

「いやー、なかなか見つかんないね、面白いもんって」

「そりゃな」

 企画内容を聞いた当初から成立しないと思ってましたよ。


「そもそもお前の言う面白いもんって例えばどういうのがあるんだ」

 それがわからなきゃ今のように何の当たりも付けられず街をただウロウロするばかりである。何で最初の方で聞かなかったんだ俺のバカ。

「えーとそうだなー」

 なぜか俺の方を、いやよく見たら俺と春野の二人の間辺りに視線を向ける日高。

「やっぱカラオケとかゲームで皆と遊ぶのかなー」

「なら最初からそうすればよかったんじゃないか」

 カラオケとか安達・加賀見も含めたお前ら女子四人でよく行ってるイメージあるしな。


「それも楽しいんだけど、今日はもうちょっと目新しさが欲しいんだよ」

「目新しさ?」

「そ。いつもやってる遊びだと段々刺激がなくなるっていうかさ。もっと普段見ないようなことを体験したいのさ」

 おお。日常に満足できず刺激を探し求めるタイプですか。

「……何かお前将来色んなモンに手を出しそーだな」

「え、どういうこと?」

「アウトローなモンに興味惹かれて自分もやってみようってなったり」

「あれ、よくわかんないけどバカにしてる?」


 お、日高の声の調子が少し低くなった?

 さっきから俺達の様子を見てニヤニヤしてたから今の変わり目にちょっと面白いと思ったが、あまり図に乗るのも妙な事態を招きそうなので自重しようとしたら

「……皐月、あんま変なことやらないでね」

 意外にも春野が日高に釘を刺してきた。

 俺の言いたいことが抽象的ながらも察したのだろうか。ということは春野も日高を長年見て似たような心配をすることがあるんだろうね。

「凛華まで、もう、大丈夫だって!」

 日高は笑顔を作りながらちょっと大きな声を出した。



 そんなやり取りがあって数分後のこと。

「ちょっと近くの公園の方行ってみる?」

「別にいいが何でだ?」

「ちょっと休憩したいなーっていうのとそこだと色んな人が色んなことしてそーだし」

 公園のことを何だと思ってるんだ。周辺に住む奇人変人どもの集会所じゃないんだぞ。

「うん、私も賛成」

 春野も同意したことで俺達三人はひとまず近くの公園まで足を運んだ。


「じゃ、さっそく撮影しよ!」

「待て待て」

 日高さん、公園に着くなり何ですか。グラビアの仕事に来たんですか? ああ、だから春野さん呼んだんですか。なら俺要らないでしょ。帰らせてよ。

「撮影って何で?」

 俺が疑問を呈するより早く春野が疑問を投げ掛けてくれた。いいぞ春野。

「いやー、どうせなら忘れないうちに今日の思い出を残したくってさー」

「まだ今日の目的達成してないぞ」

「だからだよ。面白いもん見つけた頃には疲れて忘れちゃうかもじゃん?」

 はあ、そういうもんですか。


「じゃあもうさっさと済ませようぜ」

 俺の方からスマホを日高に向ける。俺のスマホだが後でメッセージなりに撮った写真を送信すればよかろうよ。

「私は最後の方でいいよ。まずは黒山から」

「俺は撮られるの好きじゃない」

 コイツらには一年のときに話した記憶あるんだがな。

「私達がこの三人全員で記録に取っておきたいんだよ。ね、凛華?」

「う、うん、私もそうしたい。ゴメン黒山君、いいかな?」

 春野が遠慮しいしい俺に頼んできた。

 このときの春野は一見断れば引っ込みそうだが、その実はなかなか強情である。なまじ付き合いが長いせいで察してしまった。


「はあ……じゃあどうぞ」

 ため息を出しながら俺は日高に体を向ける。

 小さな公園をバックにしたアングルで日高はスマホを一人で立っている俺に向けた。

「じゃあいくよー」

 と日高が言った直後のこと。


 春野が突然俺の隣にやってきて二の腕を掴んできた。


 パシャ。

 俺が驚くと同時に日高のスマホから撮影音が放たれた。

「おー、びっくりしたよ凛華!」

 ああ、俺もびっくりしたよ。でもお前、ホントにびっくりしたときはそんな嫌らしく口元を歪めないよな。こっちも付き合いが不本意にも長いせいでわかってんだよ。


 日高の表情を見て何が起こったのか大体察しが付いた一方で春野は

「……サ、サプライズだよ。ほら、こうした方が面白いと思ってさ」

 サプライズを仕掛けた本人とは思えないぐらい動揺した口調で先程の行為の動機を話していた。何なら俺より心臓バクバクしてない?


 撮影された写真を改めて確認。

 俺は急に腕に飛び付いた春野に顔を向けていた。当たり前だ。

 春野は俺の腕を左腕で組み付いたポーズのまま、日高のスマホへ顔をチョキにした右手を向けていた。

 顔はスマホの方へ向いていたが両目をギュッとつぶり、愛想笑いもなくこわばった表情だった。

 少なくとも写真の中の春野から心の余裕は微塵みじんも感じられなかった。


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