春野・日高――近頃この二人のコンビについてハヒと称するのはどうかと思っている――とのお出掛けの後日、某図書館の入口にて。
「おはよー、黒山君!」
春野が俺を見るや挨拶を掛けてきた。
「おはよう。朝から元気だな、お前」
「えー、そうかな」
うん、今の時間だと外に出ているにはわりかし早い方だと思うんだが。
春野の服装はいつものような露出の少ないものだった。
夏の暑さに合わせて上は半袖になっているものの、下は膝をすっかり隠すぐらいの丈のスカート。春野の普段の雰囲気に合った落ち着いたデザインだと思った。
その姿を見てやっぱ前回のあのトチ狂……おっと、冒険的な服装は日高に唆されて挑んだものなんだな、とも思った。今回は自分の主張を通せてよかったね!
とはいえ春野の服にツッコむのも気が引けたので
「朝早いのか?」
とりあえず他愛もない質問を春野にしてみた。ひょっとしたら以前にも聞いたことあるかもしれないけど忘れた。だから今日答えを聞いてもまた忘れるんだろうな。まあいいか!
「いや、そうとも限らないよ。でも、学校あるときはこのぐらいには皆目覚めてるでしょ」
うん、平日ならね。
でも今日は休日だ。人によってはまだ寝てるか、起きてもまだ家で過ごしている高校生がいてもおかしくない。
というよりそういう奴の方が多数派じゃなかろうか。
「……休日はいつもどうしてるんだ」
「うん、だから学校あるときと同じくらいに起きて、友達と遊んだり勉強してるかな」
おお、至って真面目な学生生活だ。そういう話を聞くとつくづく俺みたいな不真面目そのものな人間とは気が合わないと思うよ。今からでもいいから交流する相手を俺以外に変えた方がいいんじゃない? 例えば王子とか……はムリとしても。
「黒山君はいつも休みの日の朝どうしてんの?」
今度は春野が俺の朝の様子を聞き返してきた。当然と言えば当然の疑問か。
「特に何時に起きる、とかはないな。日によってバラバラだ」
朝10時頃まで寝てることもあれば5時前に目が覚めることもある。寝てる時間がバラバラなのでそうなるのもしょうがない。
「へー。知らなかった……」
そうか。まあ俺の情報なんて基本的にどうでもいいじゃないか。世間一般の人達、例えば春野や俺のクラスメイト(特に男)だって俺の情報なんかより春野の情報にずっと興味あると思うよ。流出したらヤバいから情報管理はしっかりしてね。
そんな元気一杯で人からの興味を引くであろう春野のことはともかく、
「で、お前はどうなんだ」
見るからに元気のなさそうな春野のツレに声を掛ける。ここへ春野とともにやって来てからまだ一言も発してないがどうした。具合悪いのか? それともまだ眠いのか? なら今日は帰って家で安静にしていたらいいんじゃない。俺も自分の家に帰るから。
「……あー、どうだったかな」
心ここにあらず、という雰囲気で返事をする春野のツレ。俺達の話まともに聞いてないなコイツ。
「あはは、皐月は私より遅いことが多いかな」
春野が代わりにちゃんと答えてあげる。今日はコイツのフォロー大変そうだな。
春野のツレこと日高は先日俺に指摘されるまでまたテスト勉強をすっぽかしてしまったとのこと。
俺が指摘してから今日までのほんの数日はさすがに一人で勉強を頑張ったらしいが、それでもこの憂鬱そうな気配を見るに
まあそりゃな。独学で何とかなるなら苦手な教科なんてとっくの昔に克服してるんだろうし、限界はどうしても出てくるよな。
「……確認するが安達と加賀見は呼ばなくて大丈夫なんだな?」
これまでも俺達がテスト勉強をする機会があったが、今回違うのは安達・加賀見(二人合わせてミユマユと称されることも)がいないことだ。
あの二人は人に勉強を教えるのがとてもうまく日高も去年の一学期末、いや恐らくは他のテストにおいても凌げたのはあの二人の力によるところが大きいと見ている。
「……うん。理由は前も言った通り」
だが日高は頑として安達・加賀見を今回の勉強会には誘わなかった。
あの二人の関係を配慮して前回の外出に引き続き俺達三人で、とのことだがそれでお前が赤点取ったら世話ないぞ。
「まあ、俺は構わないが」
「本当に大丈夫? 私もそんなにわかりやすく教えられる自信ないよ」
「うん。黒山、凛華、申し訳ないけど協力お願いします」
日高が傍らにいる幼馴染の心配を掛けまいとするかのように笑顔を見せて、俺達に頭を軽く下げてきた。
「うん、わかった!」
「前より成績落ちても知らないぞ」
とりあえず今日の舞台である図書館まで来たのだ。そりゃ付き合うが、安達や加賀見ほどの期待はするなよ。
「ありがと!」
顔を上げた日高の笑顔に青空へ力一杯に咲く