休憩時間になり、春野・日高・俺はプールの近くで腰を下ろしていた。
周りの人達も同様で暇を持て余したり、この時間を利用して会話に花を咲かせたりしているのが多かった。
また、プールの方を向いて座っているためか春野の水着姿は他の客達にはほとんど見えず、注目もそんなに受けていないようだ。
「休憩明けたらどうしよっか?」
春野が体育座りになりながら日高・俺に確認する。
膝を強く抱えている様子にあまり今の姿を人目に晒したくないという思いが伝わっていた。
「そうだねー。アレなんてどう?」
日高がとある方を指差す。
春野・俺が振り向いた先にはウォータースライダーが建っていた。
今日俺達が来たプールの名物はウォータースライダーだそうで、長さがおよそ100メートルあるらしい。
空を漂う蛇のようにぐねぐね曲がったスライダーには子供から大人まで水流に任せて威勢よく滑り、ときには楽しそうな悲鳴が上がっていた。
まあ、一度来たからには滑ってみたいだろうな。
気持ちはわかるが一応忠告しておく。
「今の春野の格好で滑るのは平気なのか?」
現在の春野は露出の多いビキニを身に着けており、そんな見るからに衝撃に弱そうな格好でウォータースライダーに挑んだら水着が外れやしないかというリスクが頭にあった。
「え、大丈夫だと思うよ」
「そうか?」
「うん、水着って結構丈夫なもんだし」
「私も、問題ないと思う」
「そうなのか」
女性用の水着、ましてや春野が着けているようなタイプの水着の構造や性能なんてよく知らないが、俺が思うほどヤワではなさそうだ。
「なら、ウォータースライダー行くか」
「うん!」
「行こ行こ!」
というわけで休憩が終わった後、すぐにウォータースライダーの入口へ足を運んだ。
ウォータースライダーを三人で並んで順番待ちしている最中の会話。
「滑る順番決めておこうよ」
「そうだな」
「希望する順番ある人ー」
春野が挙手を求めるように呼び掛けるも、誰も手を挙げない。もちろん俺も挙げてない。
「別に順番はどうでも」
「私も、最初でも最後でもいっかな」
「えー……」
俺はまだしも日高、言い出しっぺの割にテンション高くないな。
「特に希望ないならさ、黒山最初の方がよくない?」
と日高の弁。
「なぜ?」
イヤというわけではないが、理由は気になる。
「いや、下の方で待機して凛華を安全に受け止めてもらおうかと」
「絶対ダメなレベルで危ない行為だからな、それ」
監視員に確実に止められる奴だからな。
「皐月、やめない? そういうこと」
そりゃ真面目な春野さんなら苦言を呈しますわ。
「冗談だって、ゴメンゴメン」
冗談か? 仮に俺達が賛成に回っても止める気が
「とりあえず今並んでる順番でいいんじゃない?」
ウォータースライダーには現在一人一人縦に並んでいるが、その順は俺・春野・日高である。
「まあ、別にいいが」
「じゃ、そうしよっか」
「それじゃ決まり」
と、何となくな雰囲気で順番が決まった。
日高が多少面倒とは言え、この組合せだと基本的には平穏に事が進んでいいな、と思いました。
この前加賀見と葵という殊更厄介な連中と付き合わされた俺には特に応えます。
俺達がウォーターでスライドする番が巡ってきた。
「じゃ、お先に」
「うん」
「頑張ってー」
春野が謎の応援。やめろ、妙に恥ずかしくなる。
とりあえずウォータースライダーの上に仰向けに倒れながら、水流に身を任せる。
間もなく体がスライダーのコースに沿って滑り出し、次第に速くなっていった。
水を目一杯浴びながら滑っていくとやがてゴールのプールにザブン、とダイブした。
プールの底近くまで沈んだ感覚がしながらも水上に頭を出した俺はさっさとよそへと避難した。
……うん、こんな感じだよな。
ウォータースライダーに対する感想を頭の中で振り返っているうちにまたもやザブンと水の弾ける音が。
見れば春野がむせながら顔を上げ、俺を見つけるとそちらに近寄ってきた。
「いやー、水が口や鼻に入っちゃった」
春野、楽しんでるようで何よりだな。
水着についてもさっきのくだりがあるのであまり春野の全身に目を向けないようにしていたが、春野が水着を直している素振りは見られない。
どうやら本当に脱落することなくしっかり春野の体をガードしていたようだ。特殊な能力でも付与されてるんだろうか。水着ってスゴい。
「あれ、どうしたの黒山君」
俺の視線がよほど泳いでいたのか春野が聞いてきた。
「どうもしてないぞ。ほら、モンシロチョウがウロチョロしてるからつい目で追いかけてたんだ」
「え、プールの中にモンシロチョウって珍しくない? どこどこ?」
キョロキョロとモンシロチョウを探す春野。冗談とわかって悪ノリしてる感じじゃなく、まんま素直に信じちゃってる感じだなこれ。異様なまでにアグレッシブな姿でも調子はいつもの春野で何か安心した。
最後に日高がウォータースライダーからプールへゴールイン。これで俺達全員はウォータースライダーを滑り終えた。
「いやー、結構楽しいねスライダーって」
「よかったな」
「凛華、ポロリとかしなかったの?」
「え、何ともなかったけど」
特に慌てるでも何でもなく、質問の意味がよくわからないと言わんばかりの表情で平常通り答える春野さん。
「えー、残念」
日高さん、この水着といい幼馴染に結構なこと求めてきてるね。