プール遊びを終えて帰宅しました。
久しぶりに水泳をやりどっと疲れが出た俺はすぐさまベッドにダイブ。あー癒される。
布団の柔らかさにそのまま寝てしまいそうになっているとスマホがブブブ、と震える。
メッセージの新着通知だった。
「黒山、家に着いたー?」
日高が春野・俺のいるグループチャット宛にそんなメッセージを送っていた。
「こっちはとっくに」
「そっか。今日は楽しかったねー」
「ああ」
とりあえず心にもないことを社交辞令がてら返信。ひたすら頷いてさっさと会話を終わらせよう。
「凛華の水着、また見てみたくない?」
あ、これうんうん頷いてたら面倒になるパターン。
「ちょっと、皐月やめてよ」
「えー、いーじゃん聞くぐらい」
春野がすぐさま止めに入るが日高さん聞く耳持たず。相変わらず狂気の野次馬っぷり。
春野も見ているなかでどう返信するのが最も無難なのかと検討に時間を掛けていたら
「あれ、凛華の水着姿想像しちゃった?」
こんなオッサンじみた煽るメッセージが。これ時間置くとどんどん面倒になりそうな。
「春野が着たいんなら別にいいんじゃないか?」
イエスかノーかは言わず、とりあえず春野に水を向けた。すみません春野さん、後お願いします。
「だってさ。どうするの凛華?」
日高が春野に催促する。
春野が自分から着たいわけでもなかったのは今日の春野の様子から見ても明らかだった。
だから春野が日高へきっぱり断るだろうと予想してさっきのメッセージを送った算段もあるのだが、
「また、考えてみるよ」
春野は妙に曖昧な返事をした。
この場合、もう着ないというのを遠回しに伝えているのだろうか?
でもまたそうする可能性も考慮して濁したような書き方にも見えてくる。
まさかと思うが春野自身、またあんな大胆な出で立ちにチャレンジするつもりなんだろうか。
何とも春野の意図が掴めないなか、
「おお! また楽しみにしてるよ!」
日高が既に春野の挑戦を前提にしたようなメッセージを送り、その後軽い雑談を交わした後でグループチャットを閉じた。
グループチャットからしばらく時間が経った頃。
俺はメッセージの通話機能を使った。
『黒山君?』
連絡先は春野だった。
「ああ、突然ゴメンな。今忙しいか?」
『ぜ、全然! 珍しいね、黒山君から電話って』
ああ、そうかもな。俺としては自分から春野に通話したのは初めてかもしれん。過去にあったとしてももう忘れた。
「ちょっと話があってな」
『え、ど、どんな?』
「あー、今日の水着だが」
『うん』
「ああいう刺激の強い格好って、人前でするのは控えた方がいいんじゃないかって思った」
『え……』
春野の声から幾分か元気がなくなる。今の発言をネガティブな方向に捉えたようだ。
「一つ確認しておきたいんだが、あの姿で人前に出たときに人目がいつもより多いとか感じなかったか?」
『……確かにちょっとは感じた』
「仮にあの場にいたのが春野と日高だけだったら厄介な野郎から絡まれてもおかしくなかったんだぞ」
今日は特にそんなシーンもなかったが、俺がトイレに行ってる間でも変な事態にならないか懸念したぐらいだ。
『そうなのかな』
「俺はそう思う。余計なお世話で悪いが、一応それだけはちゃんと話そうと思ってな」
こんな話を日高のいる前でしても邪魔されるのは目に見えていた。
春野の挑戦的なファッションに対して周りに注意を払うのは俺になるんだし、このぐらいのアドバイスはさせてもらおうと思い、こうして通話したのだ。
『黒山君、心配してくれてありがとう』
春野はやや時間を空けてからそうお礼した。
『でもゴメンね。私がどんな格好してくるかは、私が考えるよ』
そして、やけにハッキリとした声でそう続けた。
「……なあ、あの服って日高に言われてしてるんじゃないのか?」
ずっと気になってたことをこの際確認してみた。
踏み込みすぎたかもしれない、と口にしてから思った。
『皐月にも服選びを手伝ってもらってるのは確かだよ。でも最終的には自分で決めてるから』
まあ、春野にすればそのつもりなんだろうけどさ。
疑問に思わないのか?
今まで自分がしてきたものよりずっと露出の多いデザインになってることに。
悪い表現だが、俺から見たら今の春野は日高の着せ替え人形になってる感さえあるぞ。
……しかし、本人がそれでいいというのならしょうがないか。
これ以上は口を挟んでも意味がなさそうだった。
「そうか、悪かったな」
『ううん、黒山君も私のことを思ってくれてるんだよね』
春野は強い口調から優しい口調へと変わっていた。
普通なら余計なアドバイスを挟んできたら気分を害しそうなものだし、さっきの言葉にしてもそんな感情がそこはかとなく察せられた。
しかしすぐさまこうして相手の気持ちに寄り添う点が、春野の性格をよく表していた。
そりゃ男女問わず人気にもなるだろうな。
最終的に誰が捕まえるんだろうな、このいい女。