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第237話 贈ってくれたら

 奄美先輩のプレゼント選びにあたって、まずは葵と相談することにした。

「さて、奄美先輩が好きなものって知ってるのか?」

「え、胡星先輩は知らないんですか?」

「いや、特には。あえて言えば榊が好きということぐらいだ」

「えー……」

 えー、て何だ。あの人については本当に榊が好き以外の特徴を知らないんだぞ。の存在だって葵から俺へじかにコンタクトを取ってくれなきゃ一生知らずじまいだったと思うぞ。


「あ、そうか。榊をプレゼントすればいいのか」

「榊先輩の人権を無視するのはやめませんか」

 え、何で? 俺は加賀見やお前に人権を無視されたかのような扱いを受けてる気がするんだけど。この前なんて殺すとか脅された覚えがあるんだけど。他の人にはやっちゃダメなの? ねえ何で?


「まあ、姉の好きなものについてですけど、多分そういうのは大方既に自分で買ってると思うんですよね」

「そうなのか?」

「ええ。あの人結構バイトで稼いでますんで」

 ほう。そう言えば奄美先輩バイトしてるって話だったな。結構羽振りがいいのだろうか。実は車を買えるぐらい貯め込んでたりして。


「……まさか姉のバイトの内容も御存知ないとか?」

「そのまさかだ」

「貴方や姉は一年近くどういう交流してきたんですか」

「お前が空き教室で見てきた様子のまんまだが」

「……納得しました」

 そうか納得してくれたか。


 葵はこれ見よがしに額を手で押さえる仕草を見せた。その悩ましい様子もさすがは美少女と言うべきか何だかサマになっていた。

 最近そろそろ忘れそうになってるけど校内でも春野や王子に匹敵するクラスの美形なんだよなコイツ。春野にも言えるが、そろそろいい男が葵にアプローチしてゴールインして、俺よりその男へと軸足が移ってくれてもいい時期だと思う。葵ももう飽きたでしょ、俺のことは。


「とにかく、あの人が普段買わないようなものをサプライズ込めて贈りましょう」

「わかった」

 話を戻し、改めて奄美先輩へのプレゼントの方針を提示した葵に同意する。

 俺としてはさっさと済ませたいし、葵様の言うことに従って手早くプレゼントを選んでしまおう。


「葵は何か心当たりあるのか?」

「うーん、すぐには出てこないですね」

「カット野菜とかどうだ? 炒め物とかにすぐ使えるし喜ばれそうだ」

「生鮮食品を誕生日プレゼントにするのはいかがなものかと。そもそも姉は普段料理しませんよ」

「なら六角レンチは? 奄美先輩持ってないと思うんだが」

「私も持ったことないです。あと姉も要らないと思います」

「テレホンカードならどうだ? あれば便利だろ」

「先輩それ使ったことあるんですか? 私も実物とか見たことないですよ」

 え、そうなの? と思いつつも考えてみたら俺もネットでたまたま知っただけで使ったことあるどころか肉眼で見たことないレベルだった。俺の親とか使ってたんだろうか。



 とりあえず、奄美先輩に似合いそうなアクセサリーを候補として、その売り場に行くことになった。

「周りからは彼女のアクセサリーを買いに来たカップルに見えるでしょうね、私達」

「どうだかな」

 俺達がいるのは女性向けの髪飾り・耳飾り・首飾りやらが置いてあるコーナーであり、当然女性のお客さんが多い。

 そう考えれば確かに俺は葵の付き添いには映るだろう。


「友達とか兄妹に思われてるかもだぞ」

「私は男友達とこういう買い物に付き合わせたことないんですが」

「お前はそもそも男の友人は少ないんじゃなかったか」

「まあ」

 そうだとしても周りからしたら俺達の内情などわかりゃしない。


 そう思ったところで葵が突然俺の手を握ってきた。

 何だ何だ、と思っていると

「これなら周りも少しは見る目を変えるんじゃないですかね」

 葵が挑発してくるかのようなニヤけ顔で俺を見てきた。

 ……コイツ、俺をからかうつもりか。


「お前自身が勘違いされていいなら止めやしないが」

 お前も外聞がよくないということを暗に伝えたものの

「私は大丈夫ですよ♪」

 葵は平然と俺の手を握った手を振りながら俺の横に歩いていた。

 恋人繋ぎではない、普通の握り方だった。



「あ、これってどうですか?」

 売り場を物色すること数分、葵が耳飾りの一つを手に取った。ちなみに葵に握られていた手はとっくに解放済み。

 緑に光るしずくの形を模したガラス玉であり、目立ちつつも落ち着いた雰囲気を放っていた。

 それを葵は耳元へ寄せ、自身が着けた場合のシミュレーションをしてみせた。


「いや奄美先輩のプレゼントにするんだろ。お前が着けようとしてどうするんだ」

「あれ、そうでしたっけ?」

「当初の目的すっかり忘れてんな」

「まーまー、ちょっとした冗談じゃないですか」

 あーそうかい。

 葵は自分の耳元から耳飾りを離した。


「でも、私の誕生日にこういうアクセサリーを贈ってくれたら素敵ですね」

「おいおい」

 いきなり自分の誕生日をアピールしだしたよ、このコ。

「自分の誕生日プレゼントを関係ないときに所望するとかなかなか図々しいな、お前」

「胡星先輩相手なら何かいっかなと思いまして」

「先輩としての敬意もへったくれもないな」

「ちなみに私の誕生日は11月6日なのでお忘れなきよう」

「後で他の奴らもいるグループチャットに送っといてくれ。それなら誰かは思い出すだろ」

「他の先輩方へそのような自己主張激しいことをわざわざするのはちょっと」

「おい」

 なるほど。コイツ俺のことを先輩じゃなくてパシリに見てるな。


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