一旦、状況は落ち着くかと思っていた。
しかし、次の休み時間にはまた周りがうるさくなった。
「ねえ、黒山君」
業間や昼でもない、短い休み時間に再び女子四人が俺の席に集まった。
女子四人が同じクラスになったのが実に面倒である。
最初に俺を呼んだ安達が質問を発した。
「さっきの子達って誰?」
予想通りの内容だった。なので俺も前もって用意してた回答をば。
「岸っていう双子だな。姉が奈央で妹が深央」
「うん、名前はさっき聞いた」
「そうか、よかったな」
「黒山とはどんな関係?」
どうやら
「同じ中学の後輩だな」
「深央って子は黒山のこと先生って呼んでたけど何で?」
「奈央って子も親しげに胡星さんって呼んでたね」
「訳あって奴らの演技指導をしていたらいつの間にかそう呼ばれてた」
「訳?」
次から次へと、長芋でも採取するかのように細かく深く掘り下げていく女子四人がうっとうしい。
よくよく考えたら聞かれたからといって逐一律儀にものを答える必要が果たしてあるのだろうか。
コイツらにとっては岸姉妹に興味津々であっても、そのために俺が奴らのことを細かく説明させられるのは正直煩わしい。
それに、岸姉妹の知らないところで岸姉妹の事情を俺が独断で他人に教えていいのかという疑問もある。
俺にとっては何ともなくても岸姉妹にとってはあまり他人に知られたくない、触れられたくないような事情だって多分あるだろう。岸姉妹に関することを話していくとそういうデリケートな部分を俺が話してしまいかねない。
そうでなくとも自分の
それなら岸姉妹に自分が嫌に思うことをするわけにもいかないな。
……うん、理論武装はこれでバッチリ! というわけでさっさとこの話題を切り上げよっと。
「アイツらのプライバシーにも関わる問題だ。聞くならアイツらからにしてくれ」
「……そう、だね」
春野が返事すると、他の女子達もこれ以上追及することはなくなった。
「でも、こうなるとこの集まりも一気に賑やかになりそうだよね」
「賑やかに?」
春野の言葉に加賀見は疑問を返す。補足すると俺は加賀見という悪意に満ちた人間がなぜ存在しているのかいつも疑問に思っている。
「そ。だって一年の女の子たちが新たに三人ここに来るんだよ」
うん、そうだね。断言できないにしても、そうなる可能性は高いよね。
「葵ちゃん、奈央ちゃん、そして深央ちゃんの三人ってことね」
安達が一年女子の三人の内訳を整理した。むしろソイツら以外が突然やって来たら怖いな。昨日まで誰ともまったく面識のない奴が当たり前のように談笑に混じってそれに誰も疑問や違和感を抱かないシチュエーションとかまんまホラーだな。
さておき、人数が増えるのは歓迎である。
さっきも頭の中で確認した通り、遊ぶ人数が増えればそれだけ俺がコミュニケーションに掛かる負担は減る。
女子四人も葵との関係が良好で、岸姉妹に興味があるのは充分わかったし、俺のできる限りで仲介はしてやろう。しめしめ。
しかし、そうなるといよいよ女子の割合が多くなってくる。
男子一人に女子七人の構成とかおかしいと周囲に思われるんじゃないか?
俺自身の経験則を踏まえれば古典的なラブコメよろしく変に因縁を付けてくる野郎が出てくるとは思えないが、場違い感はますます強くなりそう。何で俺ここにいるんだろ。
こうなっては男子が一人か二人加わってもいいんじゃないかな。
そうすれば今いる女子四人および後輩女子三人の誰かと、新たに加わった男子でカップルが生まれるかもしれない。
同じグループ内の男女(俺を除く)でキャッキャウフフな恋愛劇を繰り広げた挙句に円満な形で交際が成立するかもしれないじゃない。
候補にサクライ君(仮)は……葵がブチ切れそうだから除外するにしても男が加われば男女比のバランスは取れる。
何とか新たにグループへ入れる男を見つけるときが来たのではないか。……と言いつつもそれを俺の手でやるのはすこぶるメンド臭い。女子達も積極的にはそんなマネしないだろうし。
「聞いてる? 黒山」
おっと、これからの展望を考えるのに夢中で何も考えてなかった。
「おう、バッチリさ!」
バッチリ聞き逃したぜ!
「じゃあ私達の直前に話してたこと言ってみて」
お、何か説教中の親みたいなことを言ってきたぞ。
「……今日はあっちのスーパーで大根が安いとか何とか」
「は?」
ひぃ、加賀見さん怖い。だから関わりたくないのよ!
こうなったら正直に告白して許しを乞おう。そうしよう。
「すみません、これから入ってくる後輩達のことをいろいろ考えてて聞いてませんでした」
とりあえず白状してみたところ、
「……後輩達のことを?」
「何で?」
なぜか加賀見や春野が食いついてきた。
「ますます騒がしくなりそうでしんどいなー、と」
「……はあ、まったく」
「何だいつもの黒山君か」
安達、それはどういうことだろうか。