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第257話 帰りましょう

 岸姉妹と別れて帰宅した後、夕飯と風呂を済ませてベッドの上で横になった。

 今日は疲れた。

 休み時間には女子四人といつも通りに雑談。

 そこに昨日宣言した通りに現れ参加した葵。

 極め付けは二年ぶりの再会となった岸姉妹との対話。

 その後女子四人から岸姉妹関連の追及を受けてやっと終わりと思いきや岸姉妹と一緒の下校。

 今日だけでそれはもう充実した内容のタスクをこなしたものだ。日給0円なのに。いやお金が貰えたとしてもやりたくないのに。


 もうマンガもラノベもいいからとにかく寝ようと目をつむっていたら少し後にスマホが震えた。

 何だよもう。疲れたって言ってるじゃん。

 俺の体調に配慮しないスマホに不満を抱きつつスクリーンを確認すると、スマホがバイブを鳴らした理由がすぐにわかった。

「胡星先輩、聞きたいことがあります」

 葵がダイレクトメッセージを投げたのだ。

 既読が相手に通知されている以上、無視すると余計面倒になるのは明白だった。

 仕方ないのでさっさと付き合ってさっさと解放されることにしよう。

「ああ、いいぞ」

 と返した途端、メッセージで葵から通話が発信された。

 え? テキストベースじゃないの? 口頭でダイレクトなの?

 元々疲れた体にさらなる疲労が上乗せされそうでため息を吐くも、やはり仕方ないと思い直して葵との会話に臨んだ。


「葵?」

『こんばんは、胡星先輩』

「なぜ通話?」

『これなら色々聞くのに便利ですから』

 長丁場になりそうなことを言われ、ついつい通話を切りそうになった。

『ちなみに通話を切った際は明日学校で……』

 そこで葵が一旦言葉を切った。

「いや、学校で何するつもりなんだよ」

『さあ何でしょうね』

 フフフ、と人を虐げるのが楽しくて仕方ないサディストが発しそうな笑い声がスマホの向こう側から聞こえてきて大変不気味。

 こう言っておいて実は何もしないんじゃないか、とハッタリかましてる可能性もあるにはあったが最近加賀見サディスト化の著しい葵に対してそういう楽観に賭ける気にはどうにもなれなかった。


 かくして俺は葵の質問を受け付けることにした。

「手短にな」

『すみません、確約はちょっと』

 俺の望みもむなしく、葵は本題に切り出した。

『まず、あの岸って双子は何者なんですか』

 ……あー、お前も気になるのか。

 女子四人と同様に葵も岸姉妹へ興味を示してたもんな。

「俺の中学時代の後輩だ」

『胡星先輩とはどういう関係だったんですか』

「ちょっと演技を教えただけだな」

『なぜ?』

「これ以上は相手のプライバシーにも関わるから話せん。知りたいならあの姉妹に直接聞いてくれ」

 女子四人をはねのけた言い訳をここでも使わせてもらう。

 言い訳でもあるが、一方で本当にそう思ってる部分もあった。

『……わかりました。答えてくれてありがとうございます』

 これで終わりかと思ったが、


『話は変わりますが胡星先輩、明日からは一緒に帰りましょう』


「へ?」

 あれ、電波悪いのかな? すごく変な言葉が聞こえた気がしたんだけど。 「話は変わりますが胡星先輩」の部分は明確に理解できたけど、その後に続く「アスカラハイッショニカエリマショウ」って何語なんだろう。

『姉との会議もなくなって、放課後暇なんでしょ?』

「いや、特に暇ということはないが」

 奄美先輩とは月に一回の外出も控えてるし。

『なので、放課後は私が遊びに付き合ってあげます』

 え、まさか下校後も俺の家で遊ぼうとしてる?

 それって今まで以上に俺のプライベートの時間が削られることにならない? 本当に大丈夫?


 このままではマズい、という予感が唐突に頭をもたげた俺は疲れも構わず回避を試みた。

「いやお前、同じクラスや学年とかにお友達沢山いるんだろ?」

『言い方に悪意を感じますが、友人はいますね』

「ソイツらとの遊びの時間はどうするんだ」

 奄美先輩と作戦会議してた頃は毎日のように空き教室に入り浸ってたが、その会議が消えたんならお友達と遊ぶ時間をもっと増やすべきだろ。

『ええ、その子達との遊ぶことも多くなると思います。なので時々先輩と一緒に帰ろうかと』

「余計なお世話だ」

 時々でもゴメンだそんなもん。

『いえいえお礼なんて結構ですよ』

「俺の言葉を思いっきりシカトすんな」

 どう解釈したら俺の物言いがお礼に聞こえるっていうんだ。

『というわけで放課後、よろしくお願いしまーす』

 葵の方から通話が切られた。


 俺は明日からの下校風景を想像した。

 少なくとも俺は承認した覚えは全くないが、葵は間違いなく下校する俺を捕まえて「一緒に帰りましょう」と声を掛けてくることだろう。

 葵を見た瞬間に全力疾走で逃げることも考えたが、それをすると葵も対抗してもっとえげつない手を使ってきそうな気がした。同じ学校に通っている以上葵からは卒業まで逃げられないのだ。


 明日からの学校生活にますます悩み、もう思考も放棄してさっさと目を瞑った。


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