……全てが終わったあとに新たに創られたのは、最初と同じ無限の空に島が浮くだけの空間だった。
その唯一の大地に寝そべり、花魁は退屈そうに独白する。
「さて。わっちの情報漏洩は防いだが、他の冒険者もいずれ来るやもしれぬな。ここは捨ておき、別の異世界内でやり直すか」
優雅にキセルを吹かす彼女に、どこからともなく空耳が届いた。
「〝アルクビエレ――」
「ん?」
「――ドライブ〟!」
驚いて身を起こしたセイゾウは、自身の築いた無限の空と有限の大地しか目にできなかった。
「世は何ぞ さ迷い歩けど ついぞ虚し」
ただ最期を予感して辞世の句だけを残す。
かくして元上位神の魔王セイゾウ・セイコは、自身の創造したダイロクノごと跡形もなく一瞬で消滅した。
――ダイイチノの未開地域上空ではこの日、浮遊島が唐突に消え去る異変が観測できたが、未開の地ゆえに直接視認できたのは三人だけだった。
未踏洞窟天井をアルフレートが崩してできた穴の外周。森との境界辺りの崖っぷちにへたり込んでいた、四郎と太田とリインカである。
「〝中位神は自らを転生できる〟」
冷や汗まみれになりながらもオタクは語る。
「強敵でしたが。自分でそう教えたくせに死んでも生まれ変われるリインカ嬢と、転生の女神として他者を生まれ変わらせることができるのを見落として、死なねば脱出できない世界を創造するとは。案外、頭はリインカ嬢たちレベルのままだったのですかな」
それを張り倒して、やはり脂汗まみれの女神は訂正する。
「たぶんはずれよ。下位神でも他者の転生や転移は基本的能力だけど、転界の許可がないと封印されてる。あの人はその頃に魔王になったから、あたしが中位神に出世したのを知らなかったのよ」
「な、なるほど」
起き上がる気力もなく、太田は岩土の上に寝そべってもう一人に訊く。
「で、四郎氏はどうやって勝ったのでござるか?」
「……
もう一人、そばで座り込んでいた四郎もさすがに汗をかきながらも答えた。
「ビッグバン宇宙では、宇宙の果てのような事象の地平線で隔てられた外側の情報は、内側の基本的な物理法則では把握しきれない。EPRパラドックスで量子化してそこに脱出し死を偽装後、自身の世界内しか観測できない異世界ネットで倒したと錯覚させ、防御を解いたところを外側から奴の存在するダイロクノごと消した」
「「……」」
二人は理解できなかったが、とりあえずセイゾウが認識できる宇宙内で死んだふりをして外から逆転勝利したとはどうにか伝わったので、次はリインカが尋ねてみる。
「け、けどどうやって攻撃したの。アルクビエレ・ドライブは使い切っちゃってたんでしょ?」
「浦島効果だ」
四郎は、かつて浮遊島があった辺りの空を眺めて明かした。そこには、もはや
「相対性理論では光の速さに近づくほど時の流れは遅くなり、完全な光速では外部と比べて相対的に時間が止まる。わたしがアルクビエレ・ドライブで宇宙の100億倍のエネルギーを使えるのは日に一度、なぜか地球時間と同じ自転周期なダイイチノの24時間に一度だ。
肉体は所詮素粒子の集まりだからな。いったん、奴がやったように自分の形をした有機物製の人形を作って入れ替わり、事象の地平線の向こうに逃れ、光速運動で相対的に一日を過ごしたことにしてユニーク・スキルを回復した。それを使ったんだ」
「「……」」
のどかなカラスの嘲りがそばを通りすぎた。
やっぱり、二人は理解できなかったのだった。
「それよりもだ」
自らのもたらした沈黙を、四郎は破る。
「リインカ、今回の件でもう言い逃れはさせんぞ。セイゾウ・セイコは異世界ダイロクノを100億回ほど創り直した、同等の数滅ぼしたわけだ。魔王になった転界神の被害に遭った世界より救った数が多いといっても、まさか100億以上の実例を披露するわけにはいくまい」
「そりゃ、そうだけど」リインカは縮こまって弁明した。「上位神の魔王なんて行き先もつかめてなかったから、あそこまでの被害をもたらせるなんてあたしは本当に想定もしてなかったのよ」
太田は疑問を呈す。
「世界創造の力を無制限でつかえるなんて基本をおさえていれば、普通にとんでもないことになりそうなものですがな」
「そう言うなオタク」
「……四郎」
疑いを制してくれた科学者に、女神は嬉しくなったが
「間抜けなリインカだぞ。無理もない」
「そうでしたな」
「この野郎共が!」
怒るも、転界のもたらした被害が後ろめたくて暴力に訴えられない女神だった。
「ともかくだ」
四郎は話題を戻す。
「こうなったからにはオタクが預かっている神魔法、
「やむを得ないでしょうな」
太田が同意するや、リインカは首を傾げて尋ねる。
「……神魔法を預かってるって、どういうことよ?」
「「あっ」」
そこで男二人はようやく気付いたのだった。
もともとそれをごまかすために浮遊島の調査のふりをしてしていたことを、すっかり忘れていたと。