結局、第六異世界ダイロクノを巡る騒動のあと、四郎と太田は、天界への侵入魔法ライフ・ラプチャーに関する情報をリインカに教えることにした。
転界の大失態を体感したばかりだった彼女はそれを没収するとか上に報告するとかいう手段には出なかったが、「時間が欲しい」と、四郎たちが転界を調査することにもすぐには賛成しなかった。
返答待ちの一週間ほどあと。
自宅のダイニングキッチンで四郎がクルスと昼食を食べているときだった。
「ねぇ。おじさんってさあ、あたしに甘いけどやっぱロリコンなの?♥」
黙々と、太田を通じた元世界の材料でのシチューかけご飯を食べていたクルスが、唐突に訊いた。
「甘いつもりはないが、リインカにも指摘されたな」
向かいの席の四郎も、自身が作ったシチューライスを食べながら応じる。
「だとしたら、家族のようだからかもしれん。ウィリアム・ジェイムズ・サイディズ二世の頃から、クローン技術は死の間際に子孫へ研究を引き継がせる目的でしか使用してこなかったからな。教育も親代わりもほとんどAIロボット任せだ」
「えー、なにそれ。じゃあ娘とヤりたいとか思ってんの?♥ キモッ、へんたーい♥」
からかうホムンクローンに、創造者は苦笑いで返す。
「飛躍し過ぎだ、
「ふ、ふーん♥」
少女が多少怯んだような反応をした、ときだった。
ノック音。続いて、厳しい声が掛けられる。
「サイショノ女王国女王都騎士団です。四郎・サイディズ殿、スタアト城までご同行を願います」
丁寧にも先祖から継いだ苗字まで呼び、物々しい訴えをしてくる。
「クルス、警備魔法で確認を」
「もう、しょうがないなぁ♥」
指先から、微少な魔力をダイニングキッチンの端に置かれていたどでかい水晶玉に飛ばすクルス。四郎は自分でもできたが、これからに備えねばならないような予感が消耗を抑えさせていた。
第六感は確からしく、水晶に映された入り口外の景色によると、家の外観に仕掛けられた監視カメラの役割を持つ小さな水晶たちは、部分鎧で帯剣した女王国騎士団の兵士10名を映していた。どうやら包囲されている。
「封建社会だからな」四郎は顎に手を当てて独白した。「いつか歪むのではないかと警戒はしていたが、即座に襲ってくる装備ではないか。この国に定住している以上とりあえずは従った方が無難かもしれん」
「何やらかしたのおじさん♥」
玄関へ向かおうとした父代わりを、椅子から下りてからかう娘代わり。
「もしかしてクルスに似た女の子を襲っちゃったりしたとか♥」
相変わらずの口調だが、態度はどこかそわそわしていた。
そこに四郎は微笑み掛ける。
「留守を頼む」
彼が玄関に至って扉を開けると、先頭にいた兵士は女王の許可を示す判を押された書類を示して告げたのだった。
「サイショノ女王国スタアト宮廷錬金術師、四郎・サイディズ殿。隣国トナアリ帝国の国境警備隊虐殺の疑いで、貴殿を逮捕します」