『チ、チュセイシバクダン!?』市民たちは驚愕するも、同時に疑問を揃えた。『……ってなに?』
「最悪レベルの核爆弾だ」
四郎は教えた。
「水爆だが、爆発による熱風の放出よりも中性子線の放射割合を高め、生物の殺傷力に重点を置いた兵器だよ。敵地インフラの損害を抑え、敵人間だけを排除して占領後にそこを円滑に強奪できるという殺傷目的を主眼に置いた発想は国際的批判を浴び、禁止される兵器となった。半減期は短いも数日は放射線も残存するが、それも変換したユニークスキルで除去したんだろう。調査隊にも被害が出たら怪しまれるからな。
中性子爆弾自体が当初、中性子線での障害誘発による弾道ミサイル迎撃手段として考案された上に、核爆発による電磁パルスが電子機器を狂わせもする。これに応用したもので我が家の防犯システムも欺いたというわけだ」
広場を囲む市民たちはぽかんとしている。
ダイイチノでは科学が未発達なのだから仕方がないだろう。だからこんな推理の披露もまず意味はないのだが、科学法則が通じて犯罪が行われた以上、みなにそこまで学習してもらい理解させることも可能ではある。
だが、そんな手間を掛けるまでもないと四郎は確信していた。なにせ、冤罪を着せるときに自ら転生転移を匂わせる情報も露呈したヤス大臣だ。
こういう推理もので追い詰められた犯人は――
「……ふふふふふ」
不充分な証拠で、なぜか自供する。
「バレては仕方がない。ああそうだとも、おれの前世は地球での異端の科学者。マッドサイエンティストとも呼ばれたな。大量破壊兵器の研究が認められないことに怒って憤死したが、当時の記憶を取り戻した転生者だ!!」
大仰な身振りで、大臣は正体を暴露した。
市民に衝撃が走る。
「犯人はヤスだったのか!!」
「疑ってごめんなさい、四郎さんとお仲間の方々!」
「最初から信じてたぜ!」
「でもオタクはキモい」
「メアリアン萌え」
「そうとわかれば、大臣一味を捕まえるべきだ!」
「おっと」
大臣は大声で警告する。
「トナアリ帝国国境警備砦を壊滅させたユニークスキルが我が手中にあるのをお忘れなく! あれでも威力を抑えたんだ。やろうとすれば女王都スタアトの壊滅なんてわけはない。無論、自分達の身だけは護るよう一部エネルギーも変換可能だ。宮廷錬金術師殿はご存じだろう?」
その通りだった。
転生で授けられたユニークスキルが〝中性子爆弾〟だからといって、それにしか用いれないわけでもない。アルクビエレ・ドライブがそうであったように、その分のエネルギーを自由に変換して使えるのだ。どれ程の威力の中性子爆弾を頭の中で組み立てきれるかでも、扱える力は大きく変わってくる。
「道を開けろ!」
大臣ヤスは吠える。
四郎たちを含む市民は歯噛みしつつも従うしかなく、モーセに割られた海のごとく前を退いた。
そちらの街を出る方向に、自身に従順な兵たちを伴って歩みながら大臣は語る。
「どのみち、全面戦争になれば女王国は帝国に敵わんのだ。単に、宣戦布告の正当性が欲しかっただけのこと。四郎を処刑できなかったのは残念だが、ユニークスキルも没収されたのならさしたる脅威でなかろう」
「そこまでご存知とは」太田とメアリアンが交互に驚く。「あなたいったい、何者なんですの?」
「お察しの通り、転界神が最近前世の記憶をよみがえらせてくれたのさ」
広場を出たヤスは、もはや後方の人となった四郎たちを振り返って言う。
「教えてやれるのはそこまでだな。冥土の土産などと、死亡フラグを立てるほどおれは甘くない」
後ろ歩きをしながら兵たちを先導し、大通りをいくらか進んで、彼は邪悪な発想をした。
「そうだ。ここで女王都ごと消し去れば、今回のバカげた推理ショーの証人もいなくなるな!」
「まずい!」
悟った四郎と共に、太田とメアリアンは大臣へと駆けだす。
「もう遅い」ヤスは嘲笑い。「ユニークスキル、〝
「〝
詠唱は四郎の方が早かった。
錬金術でヤス大臣の周りに真空を生む。音の伝わる媒体を失い、彼は声をなくして喉を押さえる。
だがこんなのは気休めだ。ユニークスキルは心の中で唱えても発揮できる。
それを物語るように、ヤスは微笑で四郎を睨む。
間に合わない。――奥の手を使うか?
「〝
「ぶごっ!?」
科学者の覚悟をよそに、突如背後から上級火炎魔法がぶつけられ、大臣は黒焦げになりながら斜め上にぶっ飛ぶ。
「〝ファイアウェーブ〟♥ 〝アイスウェーブ〟♥ 〝ダイヤダスト〟♥ 〝ブレインパニク〟♥ 〝
間髪容れないいつものコンボで大臣派の兵団は全滅して倒れ伏し、ヤスは対応する暇も与えてもらえず空の彼方に吹き飛ばされて星になった。
呆気に取られる四郎たちと市民。
もちろん有無を言わさぬ魔法連発を行ったのはさらに奥からやって来たクルスで、彼女は威張るような態度でない胸を張った。
「なにざぁこに苦労してるの、よわよわだね♥ あんまり遅いから、迎えに来ちゃったよ。パパ♥」
その後、クーデターを企てたヤス一味に監禁されていたサイショノ女王は解放された。
トナアリ帝国は女王都スタアトで暴露された陰謀を報道機関の遠隔透視魔術を通じて世界中に拡散され、ほぼ全ての国々から非難されるはめになった。
さすがに多勢に無勢なためこれを受けて帝国は及び腰となり、チョイサキ大草原を含む多数の空白地帯の領有権を放棄し撤退。国境警備砦での反皇帝派虐殺はかえって反感を買い、さらなる反皇帝派を増やして以降内乱に突入していくことになる。