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破滅フラグしかない悪役令嬢にされる異世界

転界へ秒で潜入する

 四郎の疑いが晴れてから数日後。彼の家のダイニングキッチンで、家主とクルスと太田とメアリアンがテーブルを囲んでいた。


「で、パパ♥ 作戦はどんななの?♥」


「あ、ああ。メアリアンの話によれば」

 隣で娘ぶるクルスから腕にしがみつかれ、四郎はまんざらでもなさそうに答えた。

生命携挙ライフ・ラプチャーは転界内に築かれた牢獄用の第七異世界ダイナナノにわたしたちを転移するようだ」


 キリッとして向かいの席の太田が推理する。

「まるで拙者たちが七番目に行くのがわかっていたような名称ですな。まさか、全ては奴らの計略!?」


「いつものご都合主義だろう」

「でしょうな」


「構造としては」オタクの隣でメアリアンが話を戻す。「あなた方が戦ったという元上位神の魔王セイゾウ・セイコが築いたダイイチノ内の第六異世界ダイロクノに似ていますわね」


 セイゾウのトンデモなさを想起して、四郎は深刻そうに言及する。

「転界だけに、管理するのは上位神クラスといったところか」


 テーブルに身を乗り出してたクルスは、向かいのメイドに訊いた。

「そこにリインカおばさんはいるの? メアリアンおばさん♥」


「おばっ!? これでもリインカ先輩より若いんですのよ、この貧乳!」

 テーブルを叩きガタンと立ち上がるメアリアン。彼女は巨乳を揺すって誇るが、ホムンクローンは怯まない。

「ぺったんこがいいって人もいるんだよ、パパとかピザデブとか♥」


 四郎は首を横に振って断固否定したが、太田はなぜかカッコつけた。

「ええ、拙者はツルペタもいけますからな。お兄ちゃんと呼んでくれても、いいんだぜ」

 ジト目で睨む隣人に気付き、

「無論、マシュマロパイ乙も大好物ですぞ」

 などと付言したが、さらに視線は険しく突き刺さるだけだった。


 スルーして、女児は煽りを重ねる。

「もうすぐばばあだから垂れ乳になるでしょ、ざぁこざぁこ♥」


「話題がそれる」ため息をつき、仕方なく四郎は両者を制した。「クルスもメアリアンも配慮してくれ」


「こほん、失礼いたしましたわ」

 四人分出されていた紅茶の自分のを飲み、わなわなと震えながらもメイドは座り直した。

 説明は再開される。


生命携挙ライフ・ラプチャーは、人であるが故に魔王が排除されたあとも消滅しないアルフレート卿に救出させるため、ネーションが託した神魔法。転界では、設定した対象のそばにならばどのような障害も超えて行けるものとされていましたわね。まず、ネーションのもとに出るはずですわ。

 あたくしは最近こちらのバイトで忙しかったから転界には久々に戻って聞き込みをしてみたのですけれど、リインカ先輩はどこにいるかも定かでない上、知らなかったり教えてくれなかったりする同僚の神ばかりでしたの。何だか気まずそうな方たちもいましたし、彼女も牢獄にいる可能性はありますわ。でなければ、囚人たちに訊いてみても成果が得られるかもしれません。そこはまだ調査していませんし、下位神のあたくしでは牢獄には入れませんから」


「全ては侵入してからということか」

「行き当たりばったりですな」

「いつものことだろう」

 同調するオタクに、同意する家主。


 そこにまた娘もどきが口を挟む。

「警備状況とかはどうなの、おばさん?♥」


「ぐぬぬ、ガキ相手にマジになるほどあたくしは未熟でなくてよ。見逃してあげるとして」

 メアリアンは堪える。

「詳細はあたくしの権限では学べないものの、上位神までの裏切り者から転神以外の転生転移能力で異世界への侵略を行ったゴッドブリンのような大魔王まで幽閉できるそうですわよ」


「そうとう厳重ということか、厄介だな」

 四郎はこれまでの難敵たちを想像した。


「アルクビエレ・ドライブがない現状だときついのではないですかな」


「転界に没収されたままだ、取り返すというならどのみち奴らとの対峙は避けられまい」

 指摘する太田に、当然していた想定を語る。

「いざとなれば、奥の手もあるがな」


「なにそれパパー、クルスにも教えてくれないのぉ?♥」

 ホムンクローンが創造主に抱きついてくる。


「まあな、それでこそ切り札だ」

 どうにかごまかす四郎を羨ましそうに眺めながら、オタクは言及する。

「いちゃいちゃはほどほどにして欲しいでござるが。にしても、生命携挙ライフ・ラプチャーも使ったことがないからどうやったら発動するのかいまいちはっきりしないのですよね」

 太田は紅茶を飲み干して席を立った。

 なんたら戦隊やら仮面なんたらやらのポーズをしながら、「〝生命携挙ライフ・ラプチャー〟」と唱えている。だいたい全ての魔法は使う意志がなければ発動しないが、それでもモノがモノなので四郎は案じた。

「焦るな、慎重に臨んだほうがいい。では、攻め込むに当たって最後の準備を――」


 ちょうど、太田は魔法少女っぽいキモいポーズをしながら詠唱した。


「こうやって、〝生命携挙ライフ・ラプチャー〟。とかですかね、ふひひ」


 途端、屋内の家主とオタクの足下にだけ見覚えのあるでたらめ魔法陣が出現。

「「「「あっ!」」」」

 というカルテットの声を最後に、男たちだけを呑み込んで消滅した。

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