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第51話 恐怖の遊び心






「音速の数倍……走るなら出来ますが……」


「プッ、そっちが異常にスゴイが、超高速で自在に飛べないのは今後の救助や戦いであまりにも不利だ。例えば今日の様な敵には超音速の鳥や怪物もいる。だから速く飛ぶ方法を教えてやるよ、要するにそれは得意を生かしきるってことだ」


 今最も喉から手が出る程欲しいエマの速さ。あの白い戦士と戦える最大の可能性。 もしやこの人なら勝てるのでは、と思いを巡らしつつ助言を貰える事に前のめりのルナ。


「例えばルナはヌンチャク得意だろ、人より上手く行くともっと鍛えて更にって。そうやって人並み以上になっていく。


 つまりその訓練のたまものだろ。で、オマエらそれぞれ飛び抜けたステータスがあるよな、それをもっと生かすんだ。敢えて聞くが得意は何だ?」


「今はっきりそう言えるのはフィジカルと最高レベルの治癒魔法かなあ……」


「こないだ衛兵魔人の暴れたあと街の修復をしたって聞いた。治癒魔法を物体にもやれる程なんだろ、だったら例えばそのとんでもない蹴りやパンチで空気に真空作ってみな」


「え……流石にそれはムリですよ」


「多分お前の考えてるのは絶対真空の事。ではなく物凄く早く空気を押すと疎と密になる。音波やこの前巻き起こしてたソニックブームもそう。


 で、その急に出来た密度の違う空気を全速で魔法修復してみな。瞬時に戻ろうとした空気は大きな圧力を生む。蹴った空気を同時に極限まで早く修復して戻せば蹴れる程の足場になる。それをやってみ」


「蹴って、瞬時に直す! 超極限スピードで、直す場所も見ず、さらに足から治癒魔法を出すなんて!……う……でも……空気を蹴れる! 押し返してくれる! おおお!」


 その繰り返しで大きくなって行くストローク。スピードスケートのように大きな動きで空を蹴ってるうちにどんどん速くなり猛スピードで大空を闊歩かっぽし出すルナ。



 バシュ――ンッ、バシュ――ンッ、バシュ――ンッ……



「こ、こうか……ふふ、なになに、これ楽しい~~~~!」


「はっや……」


 その高速空中跳躍を地上から眺めるルカとノエルも瞳を爛々と輝かせて応援していた。


 空を嬉々として疾走するルナヘ地上から指示するエマ。


「おーい、ルナァー、最初はそれでいいがそれはきっかけだー。今のお前は空気の疎密を操れたって事だー。

 次に、蹴りを弱めて疎と密を連続で作って足元に見えない上昇床、エレベーターを作ってみろー」


 少しずつ蹴るのを減らし空気圧を操る。

 ギュオオ――――ッ!と上昇して行く。


「それを徹底的にやれ、どの方向にも動けるように全身で魔法を出せ。いずれ空気の疎密や蹴りで飛んでる意識が無くなるまで……

 今は物理現象を利用してるが無意識に出来るようになった時、最早もはや現象を使わずただ想念で飛べてる自分がいる。それが大事なんだ!」


「はいっ!」



「そっちの子……ルカとかっていったな。サイキックステータスがスゴイじゃん。テレパスや千里眼とかの知覚系だけか?」


「いえ、念動力サイコキネシスも使えます」


「だろうな。そのステータスなら。じゃあ、あの廃屋、動かせるか?」


 ググググググッ

 何とレンガ造りの二階建て一軒屋を丸ごと念力で大きくズラすルカ。


「やるじゃん、相当だな。なら飛ばずに魔法を浮遊だけに使って得意の念力で思いっきり自分の背中を押してみな! アタシが魔力で押さえつけて邪魔するから負けるな!」


 浮遊魔法して念力の溜めを作る。

 押し負けぬ様に全力のサイでドギュンッ

 『ギャッ』

 自分の超加速Gに仰け反るルカ。


「ほ~ら速い! ま、押さえるってのは嘘。フフ……

 これも最初はこの方法で飛びまくって、そのうち魔法だのサイだのっていう意識が無くなった時、本当に飛べてる自分に気付くんだ」


「はい!」


 最後はこの子、魔法ウィザードリィステータス50万……アタシの魔眼が久々に反応してらぁ……


 ん? なる程そのポシェットか……この莫大な魔力が暴走しない様に誰かが亜空間ごとリンクして封じた……

 で、本人の無意識にアクセスして空想イメージの自動アイテム化と必要時だけ詠唱無しに引出せる仕組みに……


 これを考えて実現した奴は天才だなぁ……



「ン~、そうだな、おまえ向きの教え方は……」


 のえるはとべないの。シャボンだまにはのれるの、と不安そうな下がり眉で訴える。


「うん、それでいい。じゃ、あのお姉ちゃんたちと鬼ごっこやろっか」


 キリキリッとした姉御を前に緊張していたノエルもこの一言で『ニシッ』と笑み、勢いよく右手を突き上げて


『やる――っ!』 っと小躍り。


「フフ、じゃ、そのポシェットの中にお姉ちゃんたちの嫌がるものないか? キモい虫とか」


「あるよ~。ウンチ~! ホースからいっぱいでるの~! ねえねとってもいやがるの~」


「ンフッ、いいねぇ。じゃ、追いついたらタップリとぶっかけちゃえ!」


「うん! エヘヘヘヘ、ねえね、かけちゃうゾ~」


 ホースを掲げ、かける気マンマンのイタズラ眼。

 まさかやらないよね、と言おうとした二人に息つく間も与えずヒュンッ、シャボン玉にのって勢いよく発進。


「ひゃっ……やめっ、シャボン玉ってこんな速かった?!」


「ニハハハハハ~~~~」

      ―――ビシュン……


「キャ―――ッ」


「イシシシシシシシ」

      ―――ギュオオオォォォ……



「ヒエェ―――ッ、うそでしょ~、やめて―っ!」


 爆速のバブル球から逃げ惑い、必死の形相で空を疾走するルナと飛翔するルカ。


「思った以上に上達してくなあ! やっぱスパルタより遊び心が大事だな。 我ながら上出来じゃん。

 くふふ……必死で逃げてらぁ……暫く遊ばせとくか」


 近くの岩に足組みして座り、高みの見物のエマ。

 何やら取り出した異世界の菓子、大好物のショコレッツを口に放り込んで、一瞬乙女のように『オイシ~イ』 とご満悦。


 魔法で取り出した熱々のティエをすすり、んはぁ~と一息。一人だけ寛いで過ごす。

 空は3人のジェット風切り音と阿鼻叫喚あびきょうかんで騒がしい。


 ふあぁっと猫のように伸びと欠伸あくびをして、


「……さあて、大分速くなってきたなぁ、ん~じゃ……

 お~い、ノエル~っ! その魔法ポシェットに速い鳥さんとかいないか~っ?」


「いるよ~! とりさんにのる~! みにのえる~、はやいとりさんおねが~い」


 魔法の鳥に乗り換えるノエル。

 それがただの鳥なら良かったが、光焔こうえんほとばしる伝説の巨鳥、ファイヤーバードだった。


『キェ――――ッ』

 と鋭い怪鳥音と共に猛然と加速。








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