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第52話 エマの過去と未来





『キェ――――ッ』

 と鋭い怪鳥音と共に猛然と加速。


「あ、めっちゃ速くね?……ハハハッ……

 音速超えそうじゃん……」


 キ――――ン……バゴオオオォォ―――ン


「あ、ソニックブーム……ンフッ、越えちゃったよ、こりゃ末恐ろしい魔法使いだな……」


 必死さ故に無意識で上達してゆく三人。


 やがて全員マッハを軽く超えて、その速さで乱高下、大旋回、空を駆けずり回って怯え叫びまくる姉二人に狂喜乱舞のノエル。


「ヒハハハハハ! ねえね~、まてまてぇ――ぃっ!」


 悶絶絶叫、死に物狂いの半泣きで逃げ惑う姉二人。

 そしてついに……


「あああ~! ボクたちの大事なコスチュームが~! 洗わないと~!」


「クッサ―イ! ノエルひっど~い! もお~っ!!」


「ニシシシシシシシ……ねぇねたち、ウンチだらけ~」


「ハーッハッハッハッ、腹いてぇ―っ! な、涙が……

 ククク、 どうだぁ、この才能の開花ぁ! 

 教え方上手すぎ~! お前ら感謝しろよ!

 ク―クックックッ!」


「「全っ然感謝出来ませんっっ!」」


「はぁ? 全くこのバカモノォ! 魔法でバリアくらい張れぇ。 それにそんなクリーニングくらい魔術で何とかしろぉ!」


「は~い。でもお陰でたった1日でみんなこんなに速くなるなんて……」


「だろ~。ま、十分なステータスは有ったが突出し過ぎた特意が逆に邪魔してたんだよ。ケド基礎だけはちゃんと出来てた。その首飾りのお陰かもな。


 これでとりあえず実用レベルだな。……でもな、まだ先は長いぞ。ガンバレよ」


「はい。でもその先……どんな工夫をしたんですか、エマさんは?」


「アタシは前世で電気系の技師だったから電気の性質を色々知っててな。電気そのものになりきろうと魔法にとり入れたのさ。……そういう自分なりの工夫がこの先の道ってこと」


「ナルホドー。今日は本当に勉強になりました。

 ……もう一生忘れません、この感謝と屈辱を!」


「ア~ハッハッハッ。ん~、なら良かった。じゃあまたな! 」



――――ピシャアアン!




  * * *





「エマさん! こないだは有難うこざいましたぁ!」


 エマのお陰で自在かつ超高速で空を飛べる様になり、魔物退治の効率も上がるルナ達。近場で活動しているが故に程なくして再会。


「大分慣れて自分のモノになって来ましたよ。お陰で更にスッゴク速く飛べる様になって、ステータスまで爆上がりデス!」


 良かったな、ニオイも取れたか~! と相変わらず憎めない屈託のなさ。苦笑するルナ達。


「でもここはボク達が先に魔物片付けちゃって、スミマセン、もう出番はありません」


「そっか……なら今日はヒマだから今からランチなんかどうだ~。おごってやるよ」


 ルナ達はこの前の恩があるからと、遠慮はおろか逆にお返しさせてと申し出たが「いいって事よぉ」といつもの気っ風の良い姐御肌。

 気に入ると滅法面倒見の良いエマなのだ。


 丁度昼時でノエルを含む4人で近くの評判の良い老舗へと入り、注文と支払いを済ませて席につく。


 と、ノエルが大事そうに手にするそれを見たエマは、種類のてんとう虫を持ってる事を不思議がるが、ノエルの手のひらの中でそれは消えた。


 まだいていたこともありアッと言う間にオーダー品がまかなわれて、早々に御子様ランチにありつけてゴキゲンな様子で大人しく食べ始めるノエル。

 それを横目に質問するルナ。


「そう言えばこの前、前世で電気技師って言ってましたよね」


「まあな、こう見えて理系なんよ、その技師の仕事自体は嫌いじゃなかったんだけどこの美貌だろ~、その上オカマだったからスカウトされてオカマバーのお姉さんに転身さ」


「オカマバー! 前世は男! (ナルホドそれで女装男子風に見えたわけか!)」



「あ、今は転生時に希望して本当の女にしてもらったけどな。いや~前世はモテモテだったなぁ、チトいい思いしたしな。

 ただある日オカマヤクザ同士の痴話喧嘩を止めに入ってさ、身を挺して客を守って死んじまってさぁ、つまらん命の落とし方をしたもんさ……」


「それで転生……何だか……」

 と、どう言って良いやら僅かにたじろんでいると、


「笑えるだろ!……人助けなんてガラじゃなくてさ……でも報奨の倍率いっぱい貰っちゃって……ハハハハッ」


 一緒に笑むルナ。


 ……でもこの人、良い事しても自慢気にしたりしないんだよな……


「あと何か姉御肌とか言われて慕われてさぁ、後輩や客によく相談のってたら、ホラ、ジェンダー的にも悩んでる子が多くてさ、よく自殺防いだりして。

 自分も男に生まれた事が超~苦痛だったから何かほっとけなくてな。したら徳の倍率も沢山貰っちゃって」


「私も性別トランス越境者ジェンダーでずっと女になりたかったのでスッゴイ共感です! いつかゆっくり話したいです!、それにしてもその頃から面倒見が良かったんですね! フフフッ」


 その点でルカとは話しが合いそうだ。



 とそこへ隣の席の噂話が。四天星が倒したとか。


『中央地区に出た魔人だろ、四天してんせいの一人がやってくれたか。やっぱ頼れるのはそこか』


「エマさん、四天星って?」


「政府直属の魔法師の頂点の四強の事さ。魔法属性の四元素それぞれを得意とする魔法使いのリーダー。

 火、水、風、土のグループがあって各千人以上の魔法使い集団を率いている」


「魔法の実力があって正義漢なら多分グループへの勧誘がくるけどアタシの特性はそのどれにも属してないってのもあって誘われてないね。

 ン? 性格のせいかな、フッ。

 ……ま、アタシ達みたいなフリ―でも強い転生者は『ハグレオオカミ』なんて呼ばれてるのさ」


 さらに噂話が聞こえてくる。


『南方では爆裂ブラザーズが大物をやっつけたってよ、やっぱスゲエな……』


「エマさん、それはどんな戦士?」


「レイメイ兄弟だよ、知らないの? 結構有名だゾ。フリーなのに政府御用達だからな」


「えっ、それなら知ってマス! でもそんな異名があったのかぁ」


「……彼らはマジ強い。だがそれに満足せず普段はニガ手を克服する為に『不得意ワザだけ』で戦ってるからな、滅多に本気を出さない!」


「そ! そうなんですかぁ!?」







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