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第54話 それぞれの生き様






「お~っ、エミ―じゃないか!」


 どうやらかなり親しいらしい事はその愛称呼びでわかる。が、エマは他所行きの声で、


「レ、レイさんお元気でしたか? 私……忙しかったものでご無沙汰してしまいまして」


 は? エマさん?!……なんか声まで乙女になってますケド?


「あ~! なんだエミ~、ルナちゃんともお友達だったんだ! 知らなかったよ」


「えっ、レ、レイさんもお知りあいだったんですか? ルナちゃんと」


……ちゃん……って


「うん、最近何だかんだでちょくちょくね、な、ルナちゃん、ルカちゃん!」


「ハイッ! お世話になってマス! こっちで一緒に食べましょう。ボク達エマさん側の席へ行くので、こちらの席へどうぞ」


「じゃ、一緒に失礼。……マスター、いつもので……」


 常連らしく、マスターと目配せひとつでオーダーを済まし着座するレイメイBROS。


「レイさんはね、 私が小さくてか弱いころ、人拐いから身を挺して守って下さったのよ! 少年なのにとっても強くて……それ以来心配してよく見回りに来てくれたりも……」


「さすがレイさん、その頃から紳士だったんですね……」


「フフ、よく見回りに行った。エミ―は小さい頃から飛び抜けてキレイで可愛かったから人一倍連れて行かれそうな気がしてね」


「まぁなんて事! 私なんかそんなぁ……」


 照れ隠しにヒジでルナをズン、ピシャアンと一閃。



 ルカ、ノエルまで真っ黒コゲに。



「今は俺より全然素早いから心配の必要がなくなったけどね」


「でも私なんかまだまだ弱いからもし捕まってしまったら……その時は私を捕まえに来て、コホン、た、助けに来て……くれます……か?…………」


「もちろんさ」  ズキュン!


 はうぅっっ!! ……


 フシュ――――ッ、と蒸気の上がる音が聞こえて来そうなくらい真っ赤に茹で上がるエマ。ルナに耳打ちして



「だめ……もうもたん、話題を変えてくれ……」


 もっと見ていたくて「自分でふった話題じゃ……」

 と言いかけるも「いいからっ!」


 ジ卜ッと半眼のルナ。そして鼻から溜め息。ま、でも世話になってるし、と助け舟。


「そう、さっきまで前世の話をしてたんです! レイさんたちの前世はどんなでした?」


 ちょっとアタシはお化粧室へ……と逃げるように席を外すエマ。



「うん、どうぞ。前世か……ハハッ、オレは女だった。プロダクトデザイナーっていって色んな製品のデザインをやってたんだ。ある日脳出血で倒れて半身動きづらくなった……そしたら当時の恋人が『そんなのと付き合えるか』って言って去って行った……あれ程愛してるとかって言ってたクセに男気ぐらい見せろよって……

 生まれ変わったら絶対男になって男の生き様は自分ならこうする! なんて思っちゃってね。それで転生では男に」


 BROSのオーダーはさながらサラダ風パスタの様な物で、盛り付けまでオシャレな彩りで、前世が女子だった時の食の趣味を伺わせる。


 麺を巻くフォークを持つ手の小指も少しだけ立っている。そもそも美しい手だ。その手に少し見とれるルナ。


「だからあの頃臓器ドナーとかにもなってツラい人にこそ何かしてあげなきゃって……そしてある日駅のホームで落ちそうになった人を引き戻して自分が転落して人身事故……やっぱり半身動きづらいと上手く行かなくてね。でもその徳で転生者に。メイは……」


「僕はその時のドナーを受けて数年長く生きれたんだ。だから僕も見習って誰かの為に役立てたんだ。 


 で、延命の感謝で転生時に兄さんの所へと希望したんだ。僕も女だったけど体が弱いのを知った彼氏はまるで兄さんの前世の彼の様だった。


 それで共感して意気投合、以来ずっと一緒さ。実際ここでの兄さんの生き様も最高! 兄さん、一生ついてきますっ!」


「クスッ……なんか色々いい話ですね!」


 その瞬間、メイへの見方が変わったルナだった。



 にしても皆それぞれに大変な想いをして来たり、その人なりに大切にしてる事が有るんだな……


 僅かに柔らかくなるルナの表情。だが直ぐにその笑みに陰が差す。


 ――――それにしてもボクだけが。


「エマさん、レイメイさん、ルカまでみ~んな、転生をきっかけに『異世界のジェンダーチェンジで人生リベンジ』 出来てるんだなぁ……しっかりと」


 沈むルナをすかさず造り笑いでフォローするルカ。


「うぅん、私は女になれたからじゃなくてルナと一緒だから人生リベンジ出来てるんだよ」


 確かにルナのお陰でもある。そこへレイも柔らかい表情で調子を合わせて来る。


「うん、俺も前世の記憶があったから納得しているんだよ。男になれたからじゃない」


「前世の記憶……のお陰?」


「そう。 大抵の男は女をうらやんだり妬んだり、そして女は男にズルイとか思って生きてる。 俺も両方経験してみて男の大変さとか思い知ったけど、でも転生で自分で選んだって事を覚えてるからこそ納得できてる。

 忘れてたらきっとまた不満を漏らしてるよ。

 そしてこの事は性別だけじゃなくて人生の全てに言える事じゃないかな。その境遇を自らが選んだ自覚があるなら文句も言えないし結果はどうあれ納得するしかない」


「じゃ、もしボクが今を納得してないなら、自分で選んだっていう自覚が無いって事?」


「かも知れないね。実際人生なんて選べぬ不可抗力な事ダラケだしね。

 むしろそこに『自分のいる意味』を見出せない時、納得出来ない人生となる。

 例え結果が望みと違ったとしても『自分のいる意味』を強く感じられて悔いなく行動出来ればきっと納得出来るものになる……

 そう、『自分を肯定出来る』筈なんだよ……」



  !!!  







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