「じゃ、もしボクが今を納得してないなら、自分で選んだっていう自覚が無いって事?」
「かも知れないね。実際人生なんて選べぬ不可抗力な事ダラケだしね。
例え結果が望みと違ったとしても『自分のいる意味』を強く感じられて悔いなく行動出来ればきっと納得出来るものになる……
そう、『自分を肯定出来る』筈なんだよ……」
!!!
目を見開き硬直するルナ。数瞬続く沈黙。
つい蘇ってしまう事故の光景。
「あ、ワルイ、説教っぽくて。これ体験談」
―――『あの日』……
何も出来なかったボクは自分の存在の無意味さに絶望した……だからこんなにも納得出来てないんだ……
もし恩返し出来てたら自分の存在理由を感じれたのに、でもその機会を与えて貰えなかった―――
ん!
もしやお兄ちゃんが最期に言った、「沢山くれてありがとう」って……『自分の存在理由?!』……
ああ、分からない……この先、この世界なら……ボクのいる意味を見出せる日が来るのかな……
「……ルナちゃんは時々何か凄く難しそうに考えてるよね。 でも少しは肩の力を抜くのもアリかもよ。ホラ、そこのメイみたいにさ」
「兄さん、僕そんなに能天気?
「いやホメたんだよ! いつもは能天気じゃん、あ、イヤ、気にするな! なっルナちゃん!」
「あハハ、ゴメンナサイ、いつも暗くしちゃって。でも確かにメイさんいつもアンニュイ」
一同ドッと笑う。
何故かメイさえも笑っていた。本当は余裕なのだろうかと思うルナ。
「そう言えばルナちゃん、コスチュームの調子はどう? 手直しとか調整は」
「バッチリです。とっても気に入ってますヨ。直すところは全くナッシングです」
「そう、その胸当のセンターに彫金した月と星のデザイン、それって何か想い入れのもの?」
「これは前世の兄の小学校の工作にあったデザインで……ボクの心の支えなんです……」
愛しそうに胸の象嵌に手を当て思いを馳せる。三日月の右上に小さめな星が一つ。
「いや、どっかで似た物を見た気がしてずっと思い出そうと……未だこの齢でボケたく無くてさ。したらやっと思い出せたよ。
確か髪が少し短かった頃のファスターさんの耳上部に妖精族が慣習でつける戦士のピアスをしてて、そこにソックリな彫金がされてたと思う。
どうして人間が妖精族のそれをつけてるのか……って印象的だったから覚えてたんだ」
『!!!!!……』
激しく息を呑むルナ。やっぱりあの人は?!
もしそうなら『私』は……きっとやらかしてしまうだろう、いや、絶対そうするに違いない……
しがみついて、大泣きして、喚き、責め立て、当たり散らして……
『こんなに苦しむことになるなら助けないで欲しかった』と。
情けない……もう別世界なのに。
未だ私を独りにした事を赦していないの?……
ううん、けどお兄ちゃんじゃないって否定された……そうだよ、あの人がもし本人なら隠す必要なんてある? 月と星のデザインなんて前世じゃ国旗ですら沢山あったし。
……ならやっぱり別人? それとも偶然? でも偶然にしては余りにも……或いは転生で記憶を喪失してるとか? いや、だったらデザインも覚えてないはず
……ああ、もう訳わからない……
ルナの眉をひそめた苦悶の表情に気付き、慌てて次の話に移すレイ。
「そうそう、ルカちゃんのはどう?」
「私のもスッゴク気に入ってますっ、合気の道着をそこはかとなく形に馴染ませてもらって、かなり動きやすいし感謝してます!」
「ルカちゃんのはスッゴク難しかったよ。元の『ワフウ』とか言うモチーフが独特過ぎて……結局ドレスからもヒントを得てそんなカンジになったんだ……」
「ドレス風のローブにも見えて、実は希望通り機能性は袴風にして貰えてサスガです!」
「気に入ってくれて安心したよ」
一息つき、レイも手洗にと席を外す。
ルカが『本当に仲が良いですね』とメイに振る。
「ま、僕らは転生で過去を見返したくて男になって意気投合した訳だけど、改めて自分がその立場になってみて、じゃ、どう在るべきかって。
そんで男性の良い所って何、って考えた時に『目的に向かってやり抜こうとする意思が強い』っていうか、『漢らしさ』に求めるのってそんな所って気がするんだ……」
それを耳にしたルナが一瞬固まる。
―――『漢らしさ』に求めるもの……
「で、そうなろうとするんだけどコレが案外簡単じゃない。でも兄さんは言い訳一つせず衆生救済に勤しんで……一貫してそう在ろうと努力して。
だからそんな諦めない人だからこそ、本気でついて行きたいって思えるんだ……」
その言葉はルナ達にズシンと響いた。
やがてレイが席に戻り、ハタと気付いたルナが、
「あれ? そう言えばエマさんが化粧室から戻ってこないね」
「フフッ、あの子は神出鬼没だからね、多分どっか行っちゃったと思うよ。いつもそうさ」
「なるホド~! 多分別の意味で消えた事だけは分かりました」
ルカと二人、ニンマリとした顔を合わせて笑い声をこらえるのであった。