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第63話 ルナの特異日







 ―――そう、その翌日は満月。ルナにとってそれは特異日だった。




 人体、特に女性の精神メンタル等への満月が及ぼす力は有名な話だ。潮汐力が原因とも云われるが、ルナは常人の何倍もの物理フィジカルがある為か、極端に影響を受ける。


 この異世界ではその日は妙に女らしくなり、戦闘力も激減、情緒も安定せず、故に完全オフの日にしている。


 日中からスカートなどをは穿き、鼻歌を歌って料理やら菓子を作り、ルカとノエルにまかなう。


 普段は家事をルカにやらせ放題のルナ。まあ、ノエルと遊んであげてる訳だが―――とにかく特異日では甲斐甲斐しくなる。


 そして一段落するとルカ達を連れて街にショッピングに出る。ルカとデート気分で服選び。交互に試着して感想を。



 気分が高揚しているルナは何軒も渡り歩き、行きつ戻りつシコタマ買い込む。



 甘味処カフェで一休みして物珍しい異世界スイーツ等を注文しまくって仲良くおしゃべりしてオーダーを待ちつつノエルもポシェットから呼び出す。と、お昼寝を叩き起こされ、幽体ミニノエルがホワリとアクビしながら肩越しに現れる。



『なあに、ねえね……あっ!!』


 山のようにオーダーしたスイーツがやって来た。


 その攻略を三人で開始。切り分け合って前世に無かった様々な味をお試ししながら『こんなの無かったよね~』なんて感想を交わす。 ノエルも大満足でニッコニコ。



 ルカもそんなひと時を実は楽しみにしている。

 いつ迄も続いて欲しい幸せな時間が穏やかに流れてゆく。


 そこへ突然ルナがプレゼントと言って渡してきた包み。慎重派な分、優柔不断なルカが迷って買い逸していた服を内緒でゲット。ポロポロ泣き出すルカに



『そんな大した事してないでしょ』


 とその泣き上戸を呆れ笑いで慰めるルナ。


 更にノエルポシェットから大量の包みを取り出して渡す。ルカに着て欲しかったルナ見立ての服の山。両手一杯で大泣きのルカ。



「ふえぇぇぇ……ル……ルナァ――……(こんなのズルいよ……やっぱ大好きだよ!)」



 普段から自分への態度をハッキリしてくれない分だけこんなサプライズは反則。


 うれしいときわ、ないたらだめなんだよ~、とノエルに小言をもらったルカであった。


「だって女子になったら却ってルナに放っとかれて……。ならなきゃ良かったかなって」


「ちがっ、そんな事ない! むしろ……てゆうかそれ以上可愛くなられたら……困る……」


 思わず想いが溢れる二人。


「え……(キュンッ)ルナったら……あれ ?! またお互い男子になっちゃったかも……」


「ヒッ! 何かまた部分的に主張が! ナニこれ、ルカ助けて~ もうこんなジェンダーやだよ~」



 思わず真赤になってオープンカフェの椅子に身を縮こまらせるルナ。



「フフ、大丈夫! 第一、このWダブルのジェンダーはさ、この世界での拠り所を求めてわざわざゲットしたんでしょ、余興でも無駄でもなくて、いつか活かせる日も来るよ!」


「え~この世界の目的、衆生救済と理解者獲得がこんなんでなれる~? ナハハハハ」



 ―――クスッ、と柔らかく笑むルカ。



 にしてもルナ、少し変わったかな。あの喪失への神経質ナーバスな所が陰を潜めて……。それにノエちゃん来てからあの訳わからんナンパもしなくなったし……


 いい傾向かな。


 ただ、今日のルナ、何かやたらと見つめて来るんだけど、……ちょっと視線が痛いんですけど……


 これって……?!



   * 



 その後もルカに粘り着くルナの視線。


――――そして夕暮れ時。薄明の空に満月が顔を出す。



 ルナは夜空に満月が登るとやたらソワソワして髪を触ったり服の裾を意味もなく直しては胸元に手をやり、衿元のすきを妙に意識してみたり。


 寝る前の部屋着は普段のトレーナー的な物でなくネグリジェ風を着ているのも何時もと違う。そして妙な事を考え始める。


 ああ、ヤバイ……ルカが何時もよりもっと可愛く見えるぅ~……

 ああ、洗った髪からそこはかとなく漂うこのハ―ブの香り……髪を乾かす仕草……

 こ、今晩一緒に寝てもいいかな……

 はあ、はあ……

 いや、こんなボク想いのルカなんだ、もう何しようと勝手だ!



 あ、今ルナはまたヤラシイ目で私を見て! 満月の日の異世界発情してる! よしよし、なら可愛いリボンバレッタでも付けてみるかな、胸のボタンもひとつ外して……


 はうぅ~ルカ~、イイネそれ、キャワイィ~! もうムリ~っ! これはやっぱ今襲うしかないか?……

 い、いいよね、これ、合意だよね、

 はあ、はあ、はあ……あ――っ、このままじゃ抑えきれない――っ、って誰か止めて――っ!……


 そうだ、こんな時は!


「ノエルちゃん! 今日一緒に寝よっか。抱っこしてあげるよ~っ!」


「やった~、のえる、ねえねとねるの、しゅき―っ。 にしし」


 ガク――ッ……

 もうちょっとのところだったのにぃ~



 その火照りを冷ますため窓全開で夜風を取り入れノエルを抱いて眠る。空から煌々と照り付ける月光を直に浴びる二人。


 だが満月の光はこの妖精にとって無意識領域の開放……



 皆寝静まって夢の中……のはずが、隣の部屋からの妖しい声。


「あん、ダメだよ~ノエちゃん!……そんなのくすぐったいよ~、クスクスッ、も~……」


 隣室で寝入りばなのルカが飛び起きる。サイ遠隔知ではルナの意識は寝ている。


 何この甘ったるい声! ホント寝言? ちょっと気になるし……もう透視で覗いてやる!


「あ、それはちょっと、はっ……クスッ……て……あん……だめだってェ~……」


えっ、なんかおかしくない?


「え、……ノ……ノエ、ああっ、そ……それは、はっっ」


 えっ! それに少し暗くてよく透視出来ないけどノエルも何かヘンじゃない?


「はあ、はあ、アッ……ノエ……ひゃんっ……くはっ……はああぁっ」


 もう限界っ!!

 ――――ダダダダッ、ガチャッ



「二人でナニやってんのっ!……えっ?!」



 ルナにかぶさり唇同士が触れそうな状況でこちらと目が合う同年代の美少女。そして幼女ノエルはいない。だがその特徴的な髪型からしてどう見てもノエルが少女に変身していると直感。

 元々天使のように愛らしいノエルだが、その可愛さを保ったまま15才くらいに成長した正に妖精のツヤッぽさも合わせ持つ妖しくもキワどい美しさ。


 ルカの叫び声でポヤポヤ目を覚ますルナ。部屋入口で唖然とするルカを寝ぼけ眼で見つける。

 上からの吐息を感じてそちらを向くと、被さる美少女と鼻先を触れさせて目が合う。


「キャアアアアアアアアアア――――――ッ」







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