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第78話 ルナ 最前線に加勢す






 最前線の陣営控えに到着し、やや遠巻きでも分かるその乱戦ぶりに息をのむ三人。


 既に『魔法映像中継板リフレクスパネル』でその光景を見てはいたが、地空を揺らし轟かす炸裂音と大火焔、夥しい乱気流の絶えまない応酬が繰り広げられている。


 当初は楔形くさびがたで驀進し激突した両陣営の前線は急速に拡幅・散開し、両脇へと展延した距離は10km超にもなっていた。

 圧倒的な数の不利を近代兵器等の火力、膨大な数のジャミング機、転生者等の大魔法で対抗していた。



 その中でルナ達は早速ケガ人を連れてくる競争を開始。以前ならルカの10倍の速さで動けるルナが圧倒的に有利だったが、この競争は互角だった。



 その理由、ルカはサイキックが30万を越えたあたりで訓練して来た瞬間移動テレポートが遂に可能になったからだ。

 但しまだ連続多用はおぼつかないが、それでも力を溜める時間さえ有れば『連れテレポート』も可能だ。



 ルナは万倍パワーで軽々同時に何人も担いで戻って来る。開始から僅かな時間に二人共が数百人ずつ救助して連れ帰って来た事で、ひしめく野戦病院のテントから溢れ出る程の戦傷病者。




「救助、追いついちゃったよ。暫く連れてくる人あまりいないね」

「じゃ治癒の方に回ろうか、ヒドイ怪我人も多かったし」


「それならねー、のえるがこのホースでやってるからねー、もうすぐみ~んななおっちゃうよー。しゃばばばば~~~~」


 例のホースから豊富な量の光る魔威をそこかしこの戦傷者に振りかけて治癒して廻る。 シャワーモードにして天へ向かって勢いよくスプラッシュ。


 治ってゆく人の笑顔が嬉しくて「ニハハハハ……」と走り回って降らしまくるノエル。 周囲も釣られて皆笑顔。


「う~ん、やることないし。じゃあルカ、ノエちゃんを見てて。ちょっとだけ加勢してくる」


 ドシュンッ……


 カッ飛ぶルナへ慌ててテレパスで叫ぶルカ。


《あ、コラ! ルナァッ! ちょっと、私達あくまでも裏方なんだからね――っ!》

《え~、じゃあ遠くからやるから~》


 既に姿は遥か先へ。



「もう、ルナったら……」



  * 



 乱戦個所から5km以上離れた空。

 そこに爆速で現れてホバリングするルナ。


 千倍拡大視で狙いを定める。

 日頃から鍛練し、更に倍率も増え、著しくパワーアップさせてきたヌンチャク技を炸裂させる。


〈ハイパーレールガン!〉



 戦乱をつんざく大型レーザービーム砲の如き猛威と閃光。

 百km先をも瞬時に往来する超金属ロッドの一撃で百程の敵をも吹き飛ばす。

 その両脇のダブルヌンチャクで左右次々と数十発ブチ込む。


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッシュ―――――ン


 押され気味エリアを一気に引っ繰り返す。ルナの最速狙撃スキル。



〈ホイルカッター!〉


 一撃で遠隔の多数を狩る回転投てき技。

 摩擦で光る円盤と化し回転速度マッハ千超のそれは、長距離弧を描いて敵の群れを切り裂き続ける。


 ビュオォォォォォォォォォォォ―――――ッ



 更に殆どの遠隔魔法を跳ね返してきた頑健な大型魔獣の首でさえアッサリ飛ばし、尚も飛翔して行くそれは危険過ぎて止められない。



 千倍視で少し脇に目をやると超音速怪鳥にアタック攻撃される味方達。宙からの魔法戦を繰り広げていた味方魔法師の数人が死にそうになって苦戦している。


 だが今や超音速さえ遥かに上回って空を滑走・跳梁出来るルナは


「もうちょっとだけ行っていいでしょ~」


 と早くも後方支援という事を忘れる。



 ……そもそも魔物たちも魔人もこんなフィジカル出会ったことないみたいだし~、目で追うのも難しいボクなら狙い撃ちされる前に動き回って的から外れちゃえばいいんだよね!


 飛び交う敵・魔導師の目も追い付かせず縦横無尽に空を駆り、音速怪鳥の頭上に『万倍速』。

 さながらテレポート的速度で出現、10体以上の群れへとほぼ同時に――――



 ドゴゴゴゴゴゴゴッッッッ!!



 見えない速さの正拳突・掌底打ち、貫手突き、廻し蹴り・手刀、膝蹴り、後ろ廻し蹴り、肘打ち・踵落しそしてブラジリアンキックで瞬間撃墜。

 この間わずか0.0001秒。



 魔法など発動出来る筈もない。


 更にその勢いのまま味方達の苦戦する巨大炎を撒き散らす百五十M級の超巨大獣へと突っ込み


「頑丈で遅くてデッカイの得意!」


〈バーンアウト・メテオッ!〉



 周囲の空気さえ燃える超回転ヌンチャク廻しで数万倍速の突撃をして軌道上の全てを滅却する。

 隕石さえ燃え尽きて消滅する摩擦速度での不可視の激速突入と亜光速のヌンチャクハンドミキサーで通過後に何も残さない。


 バフォッッッッッッッッッッッ!


 はたから見れば巨大獣の体躯に大きな穴が突如理由もなく数十箇所も瞬間発生。 あたかも自壊した様に見える。断末魔さえ上げる間もなく崩壊してゆく巨大獣。


「え?……ああ…… ?!……何が起こった?……」


 魔物どもだけでなく味方達すら圧倒、唖然。



 多くの転生者がそれぞれの特異な性質で常人に無い能力を有するが、その殆どが憧れの魔法力を転生時に希望し、それを有するに足る条件を手にする。


 電撃系魔法のエマが電気に耐性があるのも神から許されたステータス評価のたまものだ。


 同様にフィジカルに長けた前世を生かし、更に今世で高めた物理超偏重と徳倍率のルナ。


 結果的に神から許された恐るべき摩擦熱や衝撃への耐性は投石や火焔も跳ね返し、巨獣すら肉弾戦で制し戦局を覆す。



 一部始終を千里眼でチェックしていたルカが呆れながらテレパスを飛ばす。


《ちょっと、ルナやり過ぎ! そんな目立ったらファスターさんに怒られるよ! それにどっちにしても今、隊長から例の特別任務の召集が掛かった! 直ぐ戻りなさい!》


「イヒヒヒ、ちょっとスッキリした~! じゃ、みんな、後は頑張って~」


 そう言って状況を俯瞰ふかんするため高高度へと上昇、



『なっ!……』



 言葉を失う。遥か彼方ギガダンジョンまでの敵軍勢の大行列がその松明とかがり火によって浮かび上がる。


 前線での衝突エリアに備える後方の控えの軍勢の余りの数の差。


 約千倍の群れを目の当たりにして、勝利どころか一体いつまで保つのかと不安に陥るルナだった。






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