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第88話 妖精の森、そして兄妹の真実






 連邦政府 作戦指令室―――――


 敵数約千倍。何億という軍勢を前にあと何十日、何百日戦い続けねばならぬのか、或いはそこまでつのか、長官の焦躁が司令室全体の空気となって重くのし掛かる。とそこへ


「長官、現場各方面指令部隊長から不思議な報告が次々と入っております」


 苛立つ様に、何があった? と嫌な報告を警戒するが如くエアウインドウを見やると、


「押され気味の全ての部隊を含め、何故か敵が追撃を止めて戻るような動きがあると」


 腕組みで後追いすべきかいぶかって戦局を伺う長官。そこへ四天星の副隊長からも報告が。


「敵に明確な撤退の号令が出たもよう。急いで引き上げて行きます!」


 一体これはどういう? ……と、顎に手をやり沈思する。すると更にそこへ決定的朗報が舞い込む。


 そう、長たる四天星から直々に――――



「長官。 我々は特別任務の完了、及びこれの成功を報告申し上げます。

 特務隊は目的を達し、敵の鉄壁の守護魔・スーパーラヴァの殲滅を果たし、ギガダンジョン第一、第二層を攻め落とし、無防備な状態にまで持ち込むことに成功しました!」


「なんとっ! 百年ぶりに第二層を……しかし千倍もの敵が一気に引くのは何故だ?」


「ファスター隊長は妖精界とも交渉していました。

 そして彼らさえ完全に諦めていた『地獄の門番』をもし攻略した暁には、取り返しを狙っていた妖精族の親や戦士等、魔力ステータス10万以上を有する使い手の八千体を超える大軍勢を整え、一気に奇襲する事を密約していました。

 今それが一斉に動いたのです。そのため敵も急遽戻って仕切り直さざるを得ないのです。―――――作戦勝ちです!!」



「おおお、遂に先に進めるというのか、いや、実によくやってくれた!」

「妖精族は友軍誤撃とならぬ様、少なくともひと月は手出しせぬよう要請しています」


 敗色すら感じていた司令室の重い空気は一変し、笑顔が飛び交う司令官達の面々。そして長官が高らかに宣言する。



「ではこれより我が軍は、一度戻って陣を整える。

 ――――― 全軍、撤っ収ーっ!」




 地上防衛戦の勝利。




 その情報は各方面へと一斉に駆け巡る。浸食地域も取り戻し、更に待望の第三層への扉を開いた。


 新境地の幕開けに全大陸から歓喜の声が沸き上がる。




  * * *



 その頃、宮殿の医療施設に到着するファスター


 爆発をまともに身に浴びて満身創痍のファスターとルナ、ルカ。

 力尽きて昏睡する二人をそっと寝台へ下ろす。


 だが深刻な二人の症状を見て、自分の治癒を後に回す。


 急ぎ、手かざしのサイ治療を始めるファスタ―。




 サイ治療を始めるファスタ―の目に映る二人。

 超オーバーラップによる大爆発の手ひどい傷、更に闘いながらの治癒魔法での粗雑な修復、無茶な体の使い方等、二人に凄まじいダメージを残し意識を失っていた。


 必要箇所をサイキック視で探し出し、一つ一つ丁寧に治癒を施してゆく。

 いつもの優しい眼差しに戻ったファスター。


 ルナの頬の涙を指の背ですくい取り、ひそめた眉を手かざし治癒で解きほぐしながら心の中で優しく語りかける様に見つめてつぶやいた。



 最後の一瞬、相方にかばわれて……

 そんな辛かったのかい。

 あの日の事、許しておくれ。


 ルナ……


 ……また逢えて嬉しかったよ。ピアスのデザイン、探られたのに気づいて変えてしまってゴメンよ。


 今はまだ、訳あって立場は明かせないから……




 そう、あれは……





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 ―――約二年前、妖精の森・最深部―――

『伝説の勇者』の隠遁いんとんする砦にて



  * *



 朽ちかけた妖精族地下宮殿で、かつて世界救済を成した妖精の勇者が若者を前に佇む。その齢は悠に百歳を超えて尚、決して老いて見えず。

 その白く峻厳な美しき面持ちと冷徹な双眸をむけ歩み寄る。


「ファスターよ、この修行もいよいよ大詰め。皆伝かいでん後は人類と我ら妖精との橋渡し、そして大いなる権限を与える」


 意思を引き継ごうとする若者を前に、仄かに光を纏ったその妖精の師は厳かに言い渡し、そして続ける。



「お前なら人とも協力しあって偉業を成し遂げてくれる事だろう」



「お前を召喚した時には自分の召喚力をどうかと思ったが、よくぞ耐え抜いた……お前はワタシの希望だ。 果たせなかった地下魔界の完全討伐、お前にならきっと託せる……」


 勇者は感慨深げにそう漏らし、修了時に授けられる戦士のピアスへ施す意匠デザインの要望をファスターに尋ねる。


 と共に、だがこれだけは伝えておかねばと、その強大なサイによるをファスターに告げた。

 それを耳にしたファスターは思わず確かめ直す。


先生マスター、本当にを予知したのですか?」


「間違いない。 お前もサイの力がそろそろワタシに追いつく頃だ。同じ予知を感じぬか?」


「何となく。只、まさかと思ってたので……でもどうして……折角助けたのに……」


 ファスターは信じたくなかった。命を救ったはずの大切な存在が死してこの世界へやって来る事を。


「少し先だが恐らくお前の様に大いなる徳をもってこの者はこの世界にやって来る。その尊厳のたまものだ。決して悔いのある結果としてでは無いだろう……」


「だと良いのですが……」

 憂いを秘めた瞳で呟いたファスター。


「心配ない。 しかし本人次第だが、お前と同様この世界にとって重要な役割を担う事となるだろう。さすればお前も相当な覚悟が必要だ。それは恐らく過酷なものとなる……」


先生マスター……この世界が平和に、そしてここへやって来る『妹』が幸せになれるのなら、私自身はどんなに過酷であろうが一向に構いません!」


 流し目の如く冷ややかに白い瞳だけを若者へ移す。




「なら早速だが前世の立場を明かしてはならん! 」



「……」



 僅かに瞑目するファスター。ゆっくり瞼を上げた。


「……逢うことも、許されませんか?」


「そうは言わぬ。が、お前をこの者、決して冷静になれぬし心を隠す事も出来ず、サイに長けたジャナスに悟られ人質に……

 さすれば地上最大戦力かつ軍師としてのお前は封じられ、全ての計画、しか感じぬからだ。

 どうだ? 隠し続ける事など本当に出来るのか?」


 コクリ、と微かに喉を鳴らし真っ直ぐに見つめ直すファスター。皆と、そして妹の為なら……と。


「全てを覚悟します!……ならば先生マスター、最後の手ほどき、この命にかけて全力をもって邁進まいしんします!

 ―――――限界までお願いします! 」


 その覚悟、受け止めた! と刮目と共に力強く言い放つ勇者。更に厳しい念押しが添えられた。



「くれぐれもおくのだぞ」








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