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第2話 吾妻宅

  綾人と凛がタクシーから降り家の前に立っとそこには、茶色いコートを着た40代ぐらいの男性が家を見上げていた。

「あの·····うちに何か御用ですか?」

 凛が男はゆっくり振り返るとツカツカツカと歩み寄ってくると胸元から警察手帳を取り出した。

「高西警察署の志鷹したかです。ご家族のことでお話を聞きたくて·····そちらは?」

 そう言うと志鷹は綾人をまるで怪しい人物を見るような鋭い視線を向けた。その視線にムッと綾人はするが、すぐに笑みを浮かべると1歩前に出た。

「どーも。はじめまして。月見里探偵事務所 所長 月見里 綾人です。以後お見知り置きを」

 そう言い志鷹に手を差し出した。しかし、志鷹はその手を取ることなく話を続けた。

「探偵がなぜここに?」

「すみません。私が依頼をしたんです」

 凛は綾人と志鷹の間に入ると志鷹を見ながら慌てて言った。

「おかげでこんなもん見つけたぜ」

 綾人はニヤリと笑うと光輝の部屋の鍵をブラブラと志鷹の前で振って見せた。志鷹は一瞬、鬱陶しそうな表情を浮かべたがすぐにまた鋭い瞳で綾人を見た。

「そうですか。それはすごいですね。で?それは?」

「たぶん光輝の部屋の鍵です。今から見に行こうと話になって」

 綾人の代わりに凛が控えめに答えた。

「なるほど。なら私もご一緒しても?」

 すると凛はチラリと綾人を見た。目が合った綾人は肩を竦めて見せた。

「どーぞ」

「どうも。では行きましょう」

 志鷹は スタスタと家の方へ歩いて行った。その背中を追い綾人は志鷹のあとに続き凛と家へと向かった。

「お邪魔しまーす」

 凛が鍵を開け部屋に入ると、綾人は靴を脱ぎ家の中に入った。主を失った家の中は時が止まったようにシーンと静まり返っていた。

「光輝の部屋は2階です」

 そう言い凛は2階にある光輝の部屋に案内した。

 光輝の部屋は、勉強机と本棚、そしてベッドがあるが、どこか殺風景な印象を受ける。

 「男子高生にしては片付いてるな」

綾人はそう言うと辺りを見渡した

 「色々探させていただいても?」

 「はい。どうぞ。私は下で待っていますので」

 凛は志鷹に言うと、一礼すると部屋をあとにした。

 志鷹はスっと入口近くの本棚のほうに歩いて行った。その背中を見ると綾人は光輝の使っていた勉強机に歩み寄った。机の上は綺麗に片付き、ポツンと「緑葉高等学校」と書かれた生徒手帳が置かれ、本立てには教科書やノートが立てかけてあった。本立てをサッと見た綾人は引き出しを引き出した。中はやはり綺麗に種類別に引き用具が入れられていた。

 (·····こうゆうのは)

 綾人が文房具が収められている収納ボックスを外しコンコンと叩くと空洞があるような音がした。引き出しの底をスライドさせ外すとそこには、新たな空間ありそこには1冊の本が入っていた。

 (ビンゴ)

 ニヤリと笑い綾人が本を取り出し中を見ると、どうやら日記のようだった。そこにはいじめらていたことが毎日のように綴られていた。しかし、数日後からその内容は一変した。


 11月26日

今日も沢辺や宮下に殴る蹴るの暴行をされた。でももう今までの僕とは違う。廃神社で「カタシロさま」から紙人形をもらった。呪えるのは1人っていうのは残念だけど、これであいつらに復讐ができる。


11月27日

なにを食べても美味しくない。まるで砂を食べてみるみたいだ。これもアイツらか悪いんだ。早く!早く!カタシロさま、アイツらに罰を


11月28日

ずっと誰かが耳傍で話している。うるさくて寝れない。あー!うるさいうるさいうるさい!うるさいうるさいうるさい!

うるさいうるさいうるさい!


11月29日

なんでだろ。お父さんお母さんが美味しそうに見えた。食べた・・・。食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい


11月30日

気がついたら外にいた。僕がおかしくなってる?あとちょっとあとちょっとだ早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く


 途中から殴り書きされていた日記はそこで終わっていた。

 (薬でもやってたのか?·····カタシロさまってなんだ?薬の名前か?)

 綾人が髪をクシャクシャとかいていると、背後でガタンと何か硬い物が落ちる音がした。振り返ると、志鷹が額に手を当てその場に片足をついていた。

「おいおい。大丈夫か?」

 綾人が声をかけると志鷹はフラフラと立ち上がった。

「あ·····あぁ。大丈夫だ」

「そっかぁ?·····で、そっちはなんかあったか?」

 綾人が志鷹の手元を覗くと、その手には和紙のような紙を切って作られた白い人形ひとがたが入っていた。その人形の腹には朱い文字で「呪」と書かれていた。

「なんだそれ」

「俺が知るか」

 綾人が志鷹を見ると、志鷹は慌てたように「んっんん」とわざとらしい咳払いをした。

「そっちはなんかあったか?」

「あったぜ」

 そう言いニヤリと綾人は志鷹に日記を見せた。日記に目を通している志鷹の顔が怪訝そうな表情になった。

「薬でもやってたんか?」

「····私も詳しくはないが、こんな症状が出る薬は聞いた事ない。·····署で詳しく聞いてみるか」

「頼むわ」

 すると、志鷹が眉間に皺を寄せて綾人を指さし苦味潰したような声で言った。

「なんで情報がお前に行くと思ってる」

「えっ、くれないの?」

 ひょうひょうと言い放つ綾人に志鷹の眉間にますます皺を寄った。

「警察の情報をお前にわたすわけないだろ」

「なんでー。あんたが何を調べてっか知らないが光輝が両方の事件に関わってるみたいなんだぜ。なら協力したほうが出る情報も多いだろ。ここは協力といこうぜ」

 綾人が手を差し出すと志鷹は「ふん」と鼻で笑いベッドを見に行った。

「つれないの」

 綾人は呟くと肩を竦め自分もベッドを見に行った。しかし、ベッドには何の情報も得る物はなかった。

 調べ終わった2人が1階におりると凛が玄関に立っていた。

「ありがとうございました。私はこれで」

「すみません。なんのお構いもできずに」

 凛はパタパタと靴を履く志鷹と綾人にかけより頭を下げた。

「ご報告は結果が出てからお伝えいたしますね」

 言うと綾人とはニコッと凛に微笑み志鷹のあとに続いて玄関を出た。

「では、私はこれで」

 そう言いは暗くなった街に消えていった。綾人も寒空の下、帰路に着いた。



「·····て⋯ぇ⋯お·····て·····よ」


夜中、綾人が寝ているとどこからか途切れ途切れに、女性の今にも泣きそうな声がする。

 (誰·····だ?)

 声の主を確認しようと目を開けようとした。しかし異様なほどの眠気に襲われた。

 (やべぇ·····ねみ·····い)

 綾人は勝てず再びそのまま眠りの闇に飲まれていった。

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