「よーし、次の『
リュウは大きな声を出して、ギルドハウスに入ってきた。
「次は何ですかー?」
リュウにも負けない大きく元気な声でアリサが聞いた。
「今度はダンジョンの調査だ」
「えーっ!」
不満でいっぱいの声を上げたのはロマリアだった。
「……新しいダンジョン?
何か新しい素材あるかな……」
アイテムの素材に使えるものがあるかもしれないとサラは目を輝かせている。
「新発見のダンジョンだ。
ただ
そこまでの強い魔物はいないようだ」
リュウは『
新たに見つかったダンジョンは、王都エスタトアより少し離れたところにある山岳地帯。
大雨が続き弱った地盤が崩れて、入口が見つかった。
一度先遣隊が入って最下層までは到達していた。
その時の調査では特に高レベルの魔物が出ていないことは確認されていた。
今回はさらに詳細な調査を進めて、地図を作成してほしいとの依頼だった。
「新しいダンジョンってワクワクしますね!」
アリサはいつもの笑顔がさらに弾けている。
「うんうん」
いつもは控えめなサラも今回は乗り気だ。
新しい素材が手に入るかもしれないと思っているようだ。
「こう強い魔物を討伐するような依頼を受けてくれよー」
話を聞いてより不機嫌になるロマリア。
ヒリヒリした戦いを望んでいるようだった。
「ロマリアはいつも不機嫌ですね!
『
ロマリアに対してアリサは笑顔を崩さずに言った。
「わかってるよー
でも、それをアリサに言われたくないな―」
ロマリアはそう言うと、照れたように笑い出した。
アリサもつられて笑い出す。
ギルドハウスの中は和んだ雰囲気になったが、リュウがその雰囲気を締める。
「楽しくやるのは大事だが、気を抜かないようにな。
先遣隊も確認済みだから、そう大した魔物はいないとは思うが……
それでも万が一ってことがあるからな。
撤退することも視野にいれながらの調査になるはずだ。
各々その心構えで臨むように」
「はーい!」
「おっす」
「……ラジャー」
三人同時に返事はするものの、統一感がない。
リュウの耳には三人が何を言ったのかわからなかった。
「タイミングは息があっているのにな……
まぁ、いいか、息があってきたなら……」
◇
ギルドハウスで準備を進めた4人は新たに見つかったというダンジョンに向かった。
「先遣隊の調査だと4階が最下層だとのことだ。
慎重に調査を進めるぞ」
1階をくまなく調査を始めた4人は時折遭遇する魔物をこともなく倒していった。
「今回は順調ですね!」
いつもの笑顔でアリサがリュウに話しかける。
調査も順調に進んでいってご機嫌のようだ。
「そうだな。
新ダンジョンの調査ってこともあって、ヒロアクキャストTVの視聴者も多いぞ」
――視聴者数:319人
それだけ王都の人たちも新しいダンジョンに興味があるのだろう。
この調子で行けば、大幅に
リュウは手ごたえを感じていた。
「あたしの華麗なる戦闘が目を引き付けているんだろ!」
ロマリアはドヤ顔をする。
魔法使いなのに、ボコスカと物理で殴るさまはある意味目を引かれて話題にはなっている。
「あのなー、相変わらず俺のオーダーは全部無視しているんだけど」
戦闘ではそれほど問題になっていないが、ロマリアは相変わらず話を聞かない。
大柄で魔法使いらしくない鍛えられた肉体であるロマリア。
確かに物理攻撃でも力を発揮できているのだが、肝心な魔法をほぼ使っていない。
リュウが嘆くのもよくわかる。
「あたしの魔法はこんな弱い奴らに使う必要なんてねーよ」
「ロマリア、たまにはリュウのオーダー、聞かないと……
アンジュドシエルを追い出されちゃうよ!」
アリサはロマリアに釘をさしているが、笑顔で話しているのであまり効果がない。
「大丈夫、大丈夫。
上手くいっているんだからさ」
「ロマリアばっかりズルい……
ボクだって新作アイテム使いたいのに、我慢している……」
サラは先日リュウに怒られたこともあり、ここまでは忠実にオーダーを守っていた。
でも内心はアイテムを使いたくてうずうずしているようだ。
「サラの新作アイテムも絶対に使う時が来るって!
それまで、我慢しようね!」
アリサは子供に接するような口調で話し、サラの頭をなでなでしている。
サラもまんざらではない顔をしている。
「ホントにどっちが年上なんだか……
ほら、1階の調査は完了したから、次のフロアへ行くぞ」
「はーい!」
「……承知」
「うっす」
リュウの呼びかけに三人は同時に反応する。
ただ相変わらずの返事の揃わなさだ。
2階、3階と調査は順調に進んでいく。
先遣隊の報告通りに変わった魔物なども出現することなく、三人も特に苦戦はしなかった。
強いて言うと、フロアが進むごとに、魔物の数は多くなっていったことぐらいだ。
おかげで三人の戦闘経験も多く積めているし、レベルもスキルもアップすることができた。
そして、最下層4階に4人は降り立った。
ここでも大きな問題も起きずにフロアのほとんどの調査が終わっていった。
「この調子なら、もうすぐ終わりそうですね!
レベルもスキルも上がったし、この『
さすがリュウが選んできた『
アリサは特に真面目に取り組んでいたこともあり、一撃で倒せることも増えてきた。
アリサ自身も手応えを感じていて、より懸命に取り組むようになっていた。
「今回一番頑張っているのはアリサだからな。
お前が一番伸びているよ」
リュウが褒めるといつもの笑顔がなお一層綻ぶ。
「はい、ありがとうございます!」
「アリサばっかりズルいよなー。
あたしだって頑張ってるのにさ」
リュウがアリサを褒めているのを見て、ロマリアは大きな声で愚痴を言い始めた。
「ロマリアもサラも頑張っているよ。
ただロマリアはもう少しオーダーをだな……」
「一言余計だって。
褒めるときは褒めて終わればいいんだよ!」
リュウがオーダー無視のことを言いはじめたところで、ロマリアは言葉を遮った。
蒸し返されたくないことを言われて、慌てたのだろう。
ふくれっ面になりながら、歩く速度をあげた。
しばらく歩くと、調査が残っていた一区画に辿りついた。
「あとはここだけですね!」
アリサは元気よく走り、区画内の調査を始めた。
残りの三人も散らばり、調査を進めていった。
ここも特に変わったものもなく、調査を終えた。
四人が集まり、調査した内容を伝え合う。
リュウはそれを記録に取っていった。
「よし、これで終わりだな。
少し休憩したら、帰るか」
「うーん、疲れたー」
ロマリアは大きく背伸びし、壁に手を当て寄りかかった。
その時……
――カチッ
「なんでしょう……
今の音」
アリサが何かの音に反応した。
その瞬間……・
――ゴゴゴゴゴゴーッ
壁が崩れ始めると、そこに通路が現れ、下へと続く階段が現れた。
「……新エリア?
ワクワク……」
サラは未知のアイテムがありそうと心躍った。
「ちょっと待て。
報告がないフロアだ。
俺たちだけで行くのは危険だから、一度引き返そう」
冷静に判断したリュウは、引き返すことを提案する。
しかし、ロマリアやサラは衝動を抑えられずに、先へ進み始めた。
ヒロアクキャストTVも未発見エリアが見つかったと大騒ぎになっている。
未踏のエリアのワクワク感もあり、視聴者がさらに増え、先へ進ませようとするコメントで溢れかえっていた。
「おいおい、まずいよ。
もし強い魔物がいたら、お前たちだけでは対処できないぞ」
慌ててリュウとアリサが追いかけていくものの、ロマリアとサラはどんどんと進んでいく。
「大丈夫だって。
いざとなったら逃げればいいだけだって」
ロマリアは楽観的に考えていた。
リュウは今までの経験から、この先にあるただならぬ空気を感じていた。
だから、引き留めていたのだが、ロマリアとサラは話を聞かない。
「二人が全然話を聞かないですね!」
アリサも二人の異変に気づいたようだった。
「ちっ……
これは確実に魔物のせいだな。
二人が引き寄せられている」
「どうしましょー」
アリサは慌てふためていた。
二人を懸命に止めようとするが、一向に止まらない。
どんどんと歩を進める速度が上がっていく。
リュウとともに止めに入るが押し切られてしまい、そのまま二人についていくしかなかった。
しばらくすると、大きな空間に行きついた。
そこには大きな花が一輪咲いていた。
その姿を見たリュウは驚いた。
「あれは……
リザンテラか……」