「リザンテラ?
何ですか、それは……」
アリサは聞いたことのない名前を口にしたリュウに問いかけた。
「こいつは厄介なんだよな。
前に戦った時も倒すのに時間がかかった……
こいつらじゃ無理だ」
「リュウは戦ったことがあるのですか?」
「……じゃなくて、勇者の文献で見た。
勇者が苦戦した魔物だ」
「えーっ!」
驚いたあまりに尻もちをついたアリサはそのままポカンとしている。
「まずはあいつらを止めないと。
このまま引き寄せられてしまえば、やつの獲物になっちまう」
リュウは危険を顧みずに二人を止めに入った。
「力ずくじゃ無理だったな。
ボイド・アルーリング!」
リュウは二人に魔法をかけて、正気を取り戻させた。
「!?」
「……!?……」
目の前にいる巨大なリザンテラを見上げる二人。
言葉が出てこない。
「ここは俺に任せて、お前らは逃げるんだ」
リュウは剣を抜き、リザンテラに向かっていった。
「……リュウ?」
「……マネージャー……」
ポカンとしている二人のところに、アリサが合流する。
「二人とも大丈夫?」
「あっ、あぁ……
あたしは何をしていたんだ……」
「二人ともどんどんと先に進んじゃって……」
アリサが泣きながら状況を説明した。
「で……で……
リュウが……リュウが……」
「マネージャーは逃げろって言っていたけど……
ボクたちの所為だし……
リュウも一緒に帰らないと……」
サラは決心をした顔で新作アイテムを手に持った。
「だな。
リュウだけに美味しいところ、持っていかれるかー」
勝てるかどうかわからない相手にロマリアは心が燃えた。
「……うん、そうだね。
みんなで……みんなで帰らないと……」
アリサも涙を拭きながら、みんなの気持ちに答えた。
◇
そのころヒロアクキャストTVも大騒ぎであった。
新フロアに巨大な魔物がいたことが広がっていき、視聴者がますます増えていった。
と同時に、送られてくる映像も途切れ途切れになっていた。
普段はこんなことが起きることがないヒロアクキャストTV。
何かが干渉しているようだが、その原因は不明だった。
事の重大さに気づいた国は、精鋭を集め、討伐部隊を編成し、新ダンジョンに向かわせた。
ただ王都からは少し離れた位置にあるダンジョン。
最下層到着までには時間がかかっていた。
◇
「フレイム!」
ロマリアは今まで使わなかった魔法をリザンテラに放った。
「お前らなー!
逃げろって言ったろ!」
リュウはアリサたちを叱るが、相変わらず聞いていない。
「リュウ、みんなで帰るのです!」
アリサも剣を抜き、リザンテラに立ち向かっていった。
「……ファイア・ボム……」
複数のアイテムをばらまき攻撃をするサラ。
いくつかはリザンテラに辺り、火柱があがる。
「お前らのレベルじゃ無理だ。
俺なら、こいつの弱点はわかっている。
俺が何とかするから」
リュウはリザンテラの対処方法を知っていた。
なぜ知っているかと言うと、直接戦っていたからだ。
正確に言うと、前世での戦いだった。
そう、リュウ自身は前の
そのことを隠して今は、マネージャーとして三人を育てていたのだった。
「俺自身、戦うことはないと思っていたんだけどな……
三人を守るためだ、仕方ない」
ボソッとつぶやくと、リザンテラの花の下に向けて一直線に向かっていった。
リザンテラもリュウが向かってくるのを察知し、足のような茎を動かし、防御態勢をとる。
「おりゃーーーー」
茎をなぎ倒しながら、弱点の花の下へ向かうリュウだが、あと一歩のところで届かない。
あとから来た茎がリュウを薙ぎ払う。
「ぐぅっ……」
「リュウーーーー」
三人が一斉に叫ぶ。
地面に打ち付けられたリュウは少し動いているものの、立ち上がることが出来なかった。
「チックショー……
フレイム・ランス!!」
いくつもの炎を広げ、とがった棒状にして発射するロマリア。
茎や花に無数の火の手が上がる。
しかし、致命傷にはならなかった。
リザンテラは茎を伸ばし、ロマリアを吹き飛ばした。
「グハッ……」
「……ポイズン・アロー……」
サラは複数の弓のようなアイテムを展開して一斉に発射し始めた。
当たった茎や花は枯れていったが、すぐに再生してしまう。
「……何、あれ……」
みんなが太刀打ち出来ない光景を目の当たりにしたアリサは、どうすることも出来なかった。
「……私……私……」
すると、アリサが謎の光に包まれ始めた。
◇
『……こそ……力……放て……』
光の中に入ったアリサに、どこからともなく声がする。
『何? 何? 聞こえないよ。
ここはどこ?
みんなを……みんなを助けないと……』
『今こそお前の中の力を解き放て』
今度ははっきりと声が聞こえた。
『力?
私に何か力があるの?』
アリサは声の主に問いかける。
声の主は続けて伝える。
『まずは儂にお前の体を貸せ。
そこでやり方を見ていろ。
あいつに……あいつに今死なれては困る』
声の主はアリサの体を乗っ取り、リザンテラの方へ向かっていった。
アリサの心は体にあるものの、自分自身では体が動かせなかった。
◇
リュウは起き上がると再びリザンテラへ立ち向かおうとした。
しかし、その前にアリサが割って入る。
『お前はここで待っていろ。
儂があやつを倒す』
「……アリサ……?
アリサじゃないな?」
『儂だ、儂。
気にするな』
「儂?
……ひょっとして、お前、女神か?」
『こいつの身体は
ちょいと使い方を教えてやろうと思って。
この場はそれで切り抜けさせてやるから、ありがたく思え。
後は、お前がきちんと教えてやれ』
そう言うと、アリサを乗っ取った女神はリザンテラへ向かっていった。
女神が乗っ取ったアリサは圧倒的なスピードとパワーでリザンテラを切り刻んでいく。
抗うリザンテラをあざ笑うような力で。
放たれる茎は一瞬で細かく刻まれる。
花から放たれる魔法もボイド系の魔法で相殺された。
「あいつにあれだけの素質があったのか……」
リュウはアリサのポテンシャルに驚きを隠せなかった。
アリサに声をかけた時、他の二人と違って何か感じるものがあった。
もしかしたら、それは
そう感じざるを得なかった。
神々しい光を放ちながらリザンテラを圧倒するアリサ。
最後に核となるコアを破壊すると、瞬く間に朽ち果てていった。
リュウの前に降り立ったアリサは、ニヤリと笑った後、バタっと倒れ込んだ。
女神が帰っていったのだろう。
「アリサ、大丈夫か?」
リュウはアリサに近寄り、抱え込んだ。
「……はい……」
アリサはいつもの笑顔で答えていたが、戸惑いも隠せていなかった。
「あれは……あれは誰だったのですか?
私の体を使って……」
「気にするな。
今はしっかり体を休めろ」
リュウにそう言われたアリサはそのまま眠りについた。