「ありがとう、話を聞けて助かったわ」
サクラはひと通り兵士から稀人についての話を聞くと、勢いよく立ちあがった。
──武器と防具で相手のビルドはわかった。
正直なところ、サクラとの相性が良いとは言えない。むしろ最悪の部類に入る。
だからこそ、そういった相手に対する場合の立ち回り方法は心得ている。
ゲームをしていると、たびたびビルドという単語を耳にすることになる。
ビルドとは、プレイヤーキャラクターの能力を決定する構成要素のことである。
ビルドと聞くと、キャラクリ時に選べる職業によってだいたいは決められてしまうと思っている人が多い。
ビルドとは、ゲームをどうやって遊びたいか、どのように攻略していきたいかという点で最も重要なことであるのだ。
ただし、このゲームにおいて、その認識は間違っていると言える。
このゲームには多種多様な武器種、武器が存在する。
そのそれぞれの武器を、どのように派生強化させていくのかで、多彩なビルドを作ることができるのだ。
プレイヤーキャラクター自体の職業が同じで、ステータスが似通っていても、持つ武器の組み合わせや派生によって、立ち回りがまったく異なる。
プレイヤーキャラクター自体のレベル差が圧倒的に開いていたとしても、武器の派生強化、組み合わせ次第によっては、勝敗がまったく読めないほどなのだ。
「お待ちください。まさか、城へ向かうおつもりですか?」
サクラが立ち上がると同時に、兵士に声をかけられた。
「ええ、クロビスのことが心配だからね。少し様子を見にいこうと思っているの」
「婚約者のことが気になるのは理解できますが、いまは危険すぎます!」
「大丈夫。私ね、けっこう強いから」
にこりと微笑みながら答えると、兵士は呆れた顔をした。
兵士は改めて、サクラの姿を上から下まで確認するようにじっくりと眺める。
どこからどう見ても、戦える格好には見えないだろう。
「戦が長く続いているので、流浪の民の中には武装する者もいるとは噂には聞いておりましたが。まさかサクラさんはそのお一人なのでしょうか……」
兵士は頭を抱えて、なにやら小言でぶつぶつと呟いている。
「……あの軍医殿が傍に置くことを許しているのだから、信じていいのか……?」
「用件がないならもう行くわ。いくら回復したからって、あなたも無理はしないでね」
「お待ちください! そのまま行かれても、城の中に入れないかもしれません。私がご案内します」
失礼、そう言って兵士はサクラの腕を掴んで走りだす。
「ありがとう。私としてはすごく助かるけど、あなたはここを離れてもいいの?」
「私がこうしてサクラ様と出会い、命まで救っていただけたのは、巡り神の加護あってのことでしょう。でしたら、サクラさまの望みを叶えるのは信徒としてのつとめです」
誇らしげに語る兵士の様子を見て、サクラの心がちくりと痛んだ。
──さっきのヴァルカさんを見てても思ったけどさ。この街の人って巡り神信仰の人が多いのかな。完全に見た目の可愛さ重視で選んだ装備だけど、実はコレ大正解だったやつなの?
このゲームの世界は北欧神話をベースにしているだけあって、さまざまな神が存在する。
巡り神というのも、その一柱だ。
そして、流浪の民は巡り神の血を引いた一族とされている。
流浪の民である旅の踊り子の衣装を身につけているサクラは、巡り神の信徒にとっては神の使いに等しいのかもしれない。
「稀人が二日も続けて襲ってくるだなんて未曾有の危機です。そんなときに巡り神の眷属の方がいらっしゃるなんて、偶然ではないのでしょう」
兵士の声が弾んでいる。
ちらりとサクラを振り返った彼の目が、きらきらと輝いている。
「ようやくこの地にも春がくるのですね!」
「あ、あはは。そうだね、そうなるように努力します」
期待されている。
サクラはとんでもない希望を背負わされた気がした。