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第9話

 サクラが兵士に連れられて城門にたどり着いたとき、すでに襲撃者が通過したあとだった。


「……嘘だ、もう城門が破られているだなんて……」


 兵士が跡形もなく城門が消えていることに絶句している。

 城門であった物が無理やり打ち破られてひしゃげていたり、崩れ落ちているというわけでもなく、ただただそこにあったはずの物が消えているのだ。

 現実として受け入れがたい光景に、肩を落とす兵士の背中をサクラはそっと撫でた。


「たしかにね。これはひどいわ」


 おそらく襲撃者は、城門を守っていた警備兵ごと消し炭にしてしまったのだろう。

 城門のあった場所は見事になにも無くなっているのだ。

 サクラは楽しそうに談笑していた兵士たちの様子を思い出して、唇を噛んだ。

 だが、ここでいつまでも悲しんでいるわけにはいかない。


 サクラは気持ちを切り替えて、ゲーム内における門を開ける方法を頭の中に思い浮かべた。

 この城の門を開けるには、いくつかの方法が存在している。


 たいていのプレイヤーは、門の前にいる警備兵を根こそぎ倒したのち、城門脇の通用門から城内に進入する。

 そして、門の脇にある小部屋の中に入り、城門の開閉装置であるレバーを動かす。


 もしくは、城壁をぐるりとまわって城の裏手側に回り、城の地下へと続く洞窟から敷地内に侵入する。

 遠回りにはなるが、城門前にいる警備兵を無視して、門の開閉装置のある小部屋に入ることができる方法だ。


 この二つの方法を、多くのプレイヤーが実行するだろう。

 しかし、城門を開けるには、もうひとつ方法が存在する。

 それは、単純明快、正面から城門をぶち壊すという方法だ。


 ──だけど、この方法をとれるプレイヤーなんて限られている。てか、できることを知っていたって、時間がかかりすぎるから普通はやらないのよ。


 城の正面入り口である城門。

 城内への侵入者を防ぐ、絶対的な関門でなければならない。

 当然ながら、その耐久値は非常に高い。


 サクラはステータスの中で筋力がカンストしている。

 物理攻撃力が突出しているビルドを組んでいるのだが、それでも城門を壊して通ろうとしたら、30分以上はかかるかもしれない。

 実際にサクラがゲーム内で門を壊そうと試したとき、100回ほど門を武器で叩いて諦めた経緯がある。 


 ただし、この城門にはひとつだけ弱点が存在する。

 それが、ということだ。


「それでもさ、普通は門を壊すなんてことは面倒だからやらないのよ。でも、実際に門は消し飛んで跡形もないのだから……」


 今回の襲撃者は、魔法攻撃力のみをカンストさせた純粋な魔法ビルドである可能性が濃厚だ。


 これはサクラにとって、想定していた中ではかなり良いほうである。

 兵士から襲撃者の特徴を聞いて、相手が魔法使いであることは把握していた。

 ただ、魔法使いとひと口に言っても、大きく二通りの系統がある。

 純粋なと、状態異常を狙った使だ。

 前者は「魔法」というステータス項目にのみ数字を振っていて、後者は「魔法」と「信仰」の二つのステータス項目に数字を振っている。


 ──稀人の襲撃を知らせる鐘の音が鳴ってから30分は経ってない。つまり、襲撃者はこの城門を短時間で壊している。ほぼワンパンでぶち抜いていると考えると、信仰補正はないと考えていい。


 信仰系魔法は「魔法」の項目のみにステータスを振った場合と比べると「信仰」に数値を持っていかれている分、魔法攻撃力が大幅に落ちる。

 それは信仰系魔法には特殊な状態異常、バフ・デバフが付与できる魔法が多いからである。


 たとえば、信仰系魔法には毒や出血の状態異常などを相手に付与するデバフ魔法がある。

 しかし、その魔法を使用したのであれば、血の通っていない城門が相手ではまったく効果が発揮されない。

 信仰系魔法は特殊効果が発揮されなければ、そこらへんにいるモブ敵ですらほぼかすり傷程度のダメージしか与えられないのだ。


 信仰系魔法でビルドを組まれていると、相手がどの系統の魔法を使うのか見極めなければいけないところだった。だが、純魔法ビルドならそれを警戒しなくて済む。


「単純にってことだからね」


 ステータスに振れる数字には上限がある。

 城門を短時間で壊せるほどの魔法攻撃力。

 魔法攻撃力以外の他のステータスに数字を少しでも振っていたら、武器の派生補正が付いていたとしても不可能であることをサクラは知っている。


「魔法攻撃力に極振りとはねえ。これはなかなかの変態さんとご対面できるんじゃないかしら?」


 サクラが不敵な笑みを浮かべると、兵士が不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。


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