目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

侵入 プレイヤー

第1話

 城門が完全に消えて無くなっているため、サクラは城の正面入り口から堂々と敷地内に足を踏み入れた。


 門があった場所を抜けたその先、広場に向かう道中を警戒しながら歩く。

 襲撃者は城門を消し飛ばしてしまうほどの、強大な魔法を使用した。ならば、その魔法を発動させるために消費したMagic PointマジックポイントMPエムピーを回復するために、侵攻ペースを落としている可能性があるのではないかと思ったのだ。

 いつ襲撃者と出くわしても対応できるように、周辺の様子に注意をしながら広場に向かう。しかし、道中には襲撃者である稀人の姿はおろか、ここを守っていたはずの兵士たちの姿もない。


「……城門を突破するための高火力魔法で一緒に消し炭になってしまった。そう考えるべきかな? いや、それとも……」


 襲撃者は一人だ。

 攻略に時間をかけると、領内の各地に散っている戦力が城へ集まってきてしまい、単独での対処が難しくなる。ゲーム内と同じ場所に軍の野営地が存在していると仮定すると、中隊規模が一時間以内には駆けつけてくるだろう。

 襲撃者はそう考えて、短時間で城を落とすつもりなのかもしれない。


 ここはもうゲームではなく現実だ。

 ゲームではどれだけ時間をかけて攻略をしていても、援軍など来ることはなかった。しかし、一般的に考えてみると、城を落とされそうな状況になれば近くの味方に頼ろうとするのは十分に考えられる行動だ。


「……だからってさ。ダンジョンの入口からこれだけの魔法を使って、大ボスまでMPが持つのかな?」


 サクラが首をかしげていると、案内をしてくれている兵士も、この様子に怪訝な顔をしている。

 そんなとき、どこからかうめき声が聞こえた。


「…………ぅ、あ…………」


「ディーデリク!」


 声の方角を見ると、フルプレートのアーマーを身につけた兵士がいた。

 壁に背中を預け、がっくりと項垂れている。

 サクラと一緒にいる兵士が、大声で名前を呼びながら駆け寄っていく。


「おい、意識はあるか? ディーデリク!」


「……あ、うあ……うう……」


 声をかけられた兵士、ディーデリクは頭をあげた。

 彼はなにかを訴えているが、言葉にはなっていない。

 もぞもぞとからだは動くが、それだけだ。


 なぜなら、彼には片側の腕と足がない。

 指先までのフルプレートのアーマーを身につけていただろうに、肘と膝から先がさっぱりと無くなっているのだ。

 そんな状態だというのに、傷口からは血が流れていない。よほどの高温で焼かれたのだろうと推察できる。

 やはり襲撃者は高火力の魔法で兵士たちを蹴散らしていったのだ。純魔法ビルドで時間をかけずに城を攻略しようとするのならば、サクラでもそうするかもしれない。


「なあ、落ち着けってディーデリク。サクラ様、こいつどうにかなりませんか?」


 サクラ

 いつのまにか、からへ、兵士がサクラを呼ぶ敬称が変わっている。


「ディーデリクってさあ、名前を呼ばないでよ。固有名詞まで知っちゃったら無視できないじゃん!」


 サクラと一緒にここまできた兵士が、ディーデリクの兜を外す。

 中から現れたのは、きのう城門のところで出会った兵士のひとりだった。


「もう、ますます放っておけないじゃないのー」


 サクラはアイテム鞄から回復瓶を取りだして、ディーデリクに飲ませた。

 正直、腕や足まで治るとは思わなかった。

 ひとまず命を繋げることができればそれでいいと思っていたが、想定以上の効力だ。


「……おれの、腕が、足も……。元に戻った?」


「サクラ様が貴重な回復薬をわけてくださったんだ」


「サクラ、さま?」


 手足の確認をしていたディーデリクが、空になった回復瓶を持ったサクラに視線をむける。


「……め、女神、さま?」


「女神様じゃなくて、サクラです。人間ですー」


 キョトンとした顔で女神と言われて、サクラは脱力した。

 神の眷属でもぎりぎり許容範囲だったというのに、神とまで言われてしまうのは、さすがに居心地が悪すぎる。


「サクラ様、ありがとうございます!」


 ディーデリクが泣きそうな顔でサクラの背中に手を回してきた。力強く抱きしめられ、何度も礼を言われる。


「ありがとうございます! 救っていただいた命、必ずや巡り神への奉仕という形でお返しさせていただきます。もちろんサクラ様へも全力でお仕えさせていただきたく……」


 そこまでディーデリクが話したところで、兵士が割って入ってきた。

 兵士はディーデリクをサクラから引き離して、謝罪の言葉を口にした。


「申し訳ございません。こいつは一時的に取り乱しているだけだと思うので、無礼を許してやってもらえませんか?」


「そんなのまったく気にしてないから!」


 サクラは慌てて両手を振るが、兵士とディーデリクの二人は何度も頭を下げてくる。


「恭しくされると恥ずかしいから、もっと気楽にお願いしたいかな。とか呼ばれるのもすごく嫌なの」


「しかし、我々は命を救っていただいた身です。そのようにおっしゃられましても」


「お願い!」


 サクラが手を合わせて頼み込むと、兵士とディーデリクの二人はしぶしぶ頷いた。


「よし、この話は終わり! さっさと進みましょう。この先って……」


 ロークル様が守っている城門広場よね、サクラがそう尋ねようとしたときだった。




 ──ドオオオオン!




 轟音が辺りに響き渡った。

 それと同時に、まばゆい光が城門広場の方角で発生したのが確認できた。

 途端、ディーデリクがガタガタと震え出す。


「ああ、これは……!」


 ディーデリクの顔が怯えきっている。彼は頭を抱えて縮こまってしまった。

 サクラには見覚えのある輝きだった。

 城門を跡形もなく消し、ディーデリクの仲間たちを遺体すら残さずに殺した魔法だ。


「……ここからはひとりでいくわ。あなたは残ってディーデリクさんについていてあげて」


「しかし、いまの光はあまりに危険です。お供させてください」


「大丈夫だから、ね?」


 サクラはそう言って微笑みかけると、二人に背を向けて走り出した。


 青白く輝く光。

 それは純魔法ビルドが使える最強の攻撃魔法。

 発動には時間がかかるが、たいていの大ボスはこれを2回か3回当てれば倒せる。


「最初に出会う中ボスなんて、一発あてれば十分すぎる。お願い、生きていてロークル様」


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?