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第24話 温もり

「ねえ…」早苗の声は、少し震えていた。目に涙が滲んでいるのが分かった。

「ねえ、私たち…もう本当にこれで終わりなの…?もう逢うことは出来ないの…?」


早苗は、必死の思いで尋ねた。

二年間の後悔と抑えきれない想いが溢れ出た切実な願いだった。



鈴木は、早苗の潤んだ瞳を見つめ言葉を失った。

早苗の気持ちが痛いほど分かり、自分もまた同じように感じていたからだ。

このまま別れてしまうのはあまりにも辛い。

「終わり」という言葉を言えば、時間が経っても楠木は前を向いて歩けるかもしれないという気持ちと、言ってしまえば今後元に戻ることはできないだろうという哀しみで、すぐに答えることができなかった。



二年半、早苗を待たせてしまったことへの罪悪感。

一時帰国は出来るようになったが、再び彼女を傷つけてしまうかもしれないという恐れ。

様々な感情が彼の心を支配していた。


第24話 待ち合わせ のコピー

二人の間に、長い長い沈黙が流れる。

早苗は、胸が張り裂けそうになった。沈黙の時間がとてつもなく長く感じ苦しかった。

掴んでいた腕も力が抜け、離し俯いてしまった。



鈴木は、そんな早苗の姿を見てようやく口を開いた。

「…楠木…」優しく早苗の名前を呼んだ。しかし、どこか遠く届かない場所から聞いているようだった。

「…今は…まだ…分からない…」



『まだ分からない…は、私たちの関係?それとも今の世の中の状況?でも…終わりと否定するわけでもないんだよね…』


鈴木から返ってきた言葉は、霧の中で彷徨っている中でぼんやり微かに見えた物陰のように、形はあるが実体が分からなくらい曖昧なものだった。そして、早苗の心をさらに不安にさせた。



早苗は、何も言えなかった。ただただ涙が自然と流れてきた。

その涙は、悲しみだけでなく不安そして少しの希望も混じった複雑な涙だった。

手が顔を覆うように泣いた。これ以上、鈴木に泣いた姿を見せてはいけないと思った。



鈴木も、そんな早苗を見て何も言えなかった。

苦しく切ない表情をしながら、静かに彼女の肩に手を置いた。その手は優しく温かかった。


早苗は一瞬、肩に乗った鈴木の手に目をやったが涙でにじんでよく見えないのだろう。また手で顔を覆い、隠した。そして指先を目の周りを拭き終えたあと、鈴木の手に自分の手を重ねた。


二人はお互いの手をじっと見つめている。再び沈黙が訪れた。


しかし、その沈黙は先ほどのものとは違っていた。お互いの気持ちを確かめ合っているような静かで深い沈黙だった。



二人の関係は、まだ終わっていない。しかし、この先、どのような展開を見せるのかは誰にも分からない。ただ、二人の間には再び繋がりが生まれた。その繋がりが、今後どのような形になっていくのか、それは、これからの二人が、どのように向き合っていくかにかかっているだろう。この時はまだ、誰も知る由がなかった。



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