「えーこの度、2020年3月より行われてた入国制限を一部緩和することといたしました。これは感染者の減少と感染力が弱まってきた…」
スマートフォンに表示されたニュースが目に入り、政府発表時の動画を流しながら早苗は朝の身支度をしていた
緩和されることをずっと切望していたので、喜ばしいことだったが早苗は素直に喜べなかった。
『もう少し早く分かっていたら…』
鈴木のことが頭をよぎる。海外出向中だった鈴木との遠距離恋愛だった。
3か月に1回は帰国できる予定だったが、この影響で一度も帰国できていない。そして、そのことが原因が私たちは別れた。
『鈴木は元気にしているだろうか…』
コーヒーを口にしながら、青く澄んだ空を眺め異国の地にいる鈴木のことを想った。
『もしかしたら…帰ってくるのかな…また会えるのかな…』
飲み干したマグカップを洗い、キッチンマットの上に伏せた。
玄関で靴を履く。玄関先の小物入れにはあの時の合鍵が置かれたままになっている。その合鍵に少し微笑みかけ、早苗は会社へと向かっていった。