駅の改札前でのキス。二年の歳月を経て再び巡り合った二人の間には、言葉では言い表せないほどの熱い感情が渦巻いていた。鈴木のことを思って言った早苗の行動が結果的に鈴木が躊躇していたストッパーを外すことになった。
勢いよく抱きしめてきたので早苗は驚いて目を開けたままでいたが、久々の鈴木の匂いや感触、吐息にされるがままになっていた。
「鈴木…?」
聞こえているはずだが、鈴木は無言のまま早苗の手を掴み早足で歩き出した。
その後、二人は言葉を交わすことなく自然な流れで鈴木が滞在するホテルへと向かった。手の平から伝わる温もりが、失われた時を取り戻すかのように二人の距離を縮めていった。
ホテルのロビーを通り抜けエレベーターに乗り込む。階数が上がるにつれ二人の鼓動と緊張感は高鳴っていく。
ドクッドクッ……ドクッドクッ……ドクッドクッ……ドクッドクッ……
3階……4階……5階……6階……7階……8階
チーーーーン
エレベーターが8階でランプを灯し、到着を知らせる音と扉が開いた時には胸がはち切れそうになった。
部屋に入り扉を閉めた瞬間、二人の間に張り詰めていた緊張の糸がぷつんと切れた。待ちきれない、というように鈴木は早苗を強く抱きしめた。
そして、むさぼりつくように激しく互いの唇の感触を確かめ合った。
「んん…ん…んんっ…」
以前の鈴木は、ゆっくりと優しく丁寧に触れていた。
しかし、今日の鈴木は熟れた果実を果汁一滴の垂らさず頬張るように、力強く激しく早苗の唇を吸いつくしていく。二人の唇は、磁石のように何度も重なり、離れ、また重ねあい強く引き寄せ合っていた。
鈴木のキスは次第に野性的になっていく。
夏の暑さで汗ばんだ早苗の首すじを丁寧に舐め回していく。早苗も、普段なら恥ずかしさで止めていたと思うが、今はそんな事はどうでも良くなっていた。熱い吐息が早苗の肌を震わせ甘い痺れが全身を駆け巡る。
早苗はその快感に身を委ね目を閉じ深く息を吸い込んだ。
「あっ…ん…あんっ…あっ…」
鈴木の手は、早苗の服の中に忍び込み滑らかな肌を撫で始める。
背中、腰、そして、太腿。背中を壁に寄りかけ、優しく丁寧に撫でられるたびに早苗の身体は全身が震えそして熱く火照る。鈴木の指が動くたびに、早苗の体はびくりと震えて甘い嬌声が漏れていった。
ぴくりと震えながらも、鈴木のシャツのボタンを一つ一つ外していく。顎から首、鎖骨にかけてゆっくりと唇を這わせていく。
鈴木も小さく声を漏らしたかと思うと、早苗の服を勢いよく脱がしていく。あっという間に下着だけの姿になり、月明りで白い肌が照らされたように白く輝いた。
二人はキスをして抱き合ったまま入口から部屋に向かう。早苗はベットに押し倒すと優しく下着を脱がし生まれたままの姿になった。鈴木は上半身だけ起こしまじまじと早苗を眺めた。
鈴木に見られているだけで、視線を感じるだけで、早苗は電気が走ったように全身がゾクゾクしておかしくなりそうだった。
「ねえ……もっと……もっと近くにきて。」
鈴木の手を引いて身体を密着させる。
甘くささやくように言われたことで鈴木に火がつき、口や頬だけでなく、瞼や耳、首、手、指、足など全身の至るところにキスをして舌を這わせる。そして、早苗の敏感なところに指をいれて激しく搔き乱していく。部屋にはくちゃくちゃ…といやらしい音が響き渡った。ベッドのシーツも丸いシミが少しずつ大きくなっている。
「あ……ん……やっ……あ……」
声にならない声が続く。
早苗も、鈴木がしてくれたように全身を舌で這わせ敏感なところは丁寧に丁寧に舐めていく。
「んん……あ……ああ…」
鈴木が小さく喘ぐ声を出すたびに愛おしさが増した。感じている鈴木の姿を見るのが幸せだった。そんな姿をもっと見たくて早苗は丁寧に舐めていく。
「んん……もう……我慢できない」
我慢できないのは今後の関係なのか、今この瞬間なのかは分からなかったが、二人は今までとは違うお互いの熱と熱をぶつけ合うかのように激しく交わった。
寝そべっていた鈴木だったが、起き上がり今度は覆いかぶさるように早苗に抱き着いてきた。そして耳元で小さく一言呟いた。
「はぁ……はぁ……好きだ……」
初めて言われた好きという言葉。その言葉に早苗の目から再び涙が溢れた。
「私も……好き……好き……こうたが好き……」
「……早苗……早苗………ん……好きだ……」
早苗も初めて鈴木の前で下の名前と好きと言う言葉を伝えた。
別れを告げられた後に鈴木のアパートに行った時に直接、好きと伝えたなかったこと、照れくさくて下の名前で呼ばなかったことを悔やみ、冷たい床の上で一人名前を呼んでいた時は違う。今、二人はこれまでにはないほどの強い熱を持ってお互いに触れ合っている。
そのあと、二人はお互いの名前を呼び合いながら、深く、激しく体を交わらせた。
お互いの肌の温もり、息遣い、そして鼓動。全てが深い快感を生み出していく。二年間の離れていた時間を埋め合わせるかのような情熱的に、 失われたパズルのピースがようやく元の場所に戻ったかのように、二人の心と体は完全に一つになった。
激しい情事の後、二人はベッドに横になり手を繋ぎながら静かに抱きしめ合った。
「ん……こうた……好き」
激しく抱き合ったせいか眠気に襲われ、とろんとした目で早苗が囁いた。鈴木はふっと微笑み早苗の頭を撫でた。
「俺も好きだよ」そう言って耳にキスをして顔を見ると早苗は眠りについていた。
早苗のまつ毛の長さを感じながら鈴木は今度は早苗のおでこにキスをして目を閉じた。
お互いの温もりを感じながら二人は幸せな夜を過ごした。