4月、新年度が始まった。
桜並木が続く遊歩道を歩いていると、新しいスーツに身を包んだ初々しい新入社員たちとすれ違う。
希望に満ち溢れた彼らの表情を見ていると、早苗もまた新たな気持ちでこの一年をスタートさせようという気持ちになった。
『もう新年度か……。会場入るとき、緊張したな。浩太は、特に何もしていないのに見た目で目立っていたな。懐かしい。』
滝は、半年の試用期間が終わり無事に正社員登用されることになった。
「ふーー。良かった。これで安定した収入を確保できる。」
「滝さんなら大丈夫だと思っていた。おめでとう。これからもよろしくね。」
「はい、よろしくお願いします。あ、上司にはまだ話をしていないんですけど入籍することになりました。」
「そうなんだ!おめでとう!!」
「GW空けに報告して、7月の彼女の誕生日前に籍を入れる予定です。いつにするかって話していたら誕生日前の若い方がいいって。そんな変わらないと思うんですけど……。」
女の1歳は大きい。
滝の彼女は26歳だが、5の倍数の20代前半と後半、20代と30代に変わる瞬間、実際は変化がなくても、どことなく感じ方が違う。
友人たちも20代で籍を入れたいと29歳の時は、入籍報告が多かったのを思い出した。
「今、新居とか探していて見つかったら入籍前でも一緒に暮らそうかって話しています。うちの会社って社宅とか補助あります?」
「うーん。どうだろう、異動を伴う辞令なら補助の対象だけど滝さんの場合、配属先も変わっていないから難しいかも。」
「やっぱり難しいですよね。困ったなー。しょうがない、彼女と仕事頑張るか」
困ったと言いつつも、滝の表情は明るい。滝の幸せそうな笑顔を見ていると早苗もまた温かい気持ちになり、門出を心から祝った。
鈴木は新プロジェクトに邁進していた。
このプロジェクトが上手くいけば海外出向が成功と評価されるため、なんとしても結果を出すと張り切っていた。
早苗は、そんな鈴木が眩しかった。
しかし以前のような自分と比べ卑下するような気持ちはない。
仕事に打ち込む姿がかっこよく輝いて見え、純粋に頑張ってと応援したかった。そして、そんな鈴木が改めて好きだと思った。
早苗は窓の外を見上げた。
空は青く澄み渡り、桜の花が美しく咲いていた。 新しい季節が始まった。
鈴木と一緒にこの新しい季節を歩んでいきたい。春の訪れと同じく、早苗の心も希望に満ちていた。