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二章そうだ調査隊を運営しよう

第1話「押し付けられ」

「う、うーん……」


「お帰り、ルル……って」


「なんだか難しい顔してるね? 極水、様から何を言われたんだい?」


 極水が今後の活動について話すためにと呼んだのはルルだけだった。

 てっきり三人揃って呼ばれるものかと思っていたけど、リーダーが伝えられたことを嚙み砕いて他のメンバーに伝えるって形を重要視したのかね。

 であればミューズもルルの成長を促す必要があると認識してるってことだろう、汲まないとな。


 でもそういう話をしたってわりには、ルルの顔が微妙だ。

 首を傾げてるあたり悩んでるのはそうだけど、どうしてこうなった的な……不服さ? みたいなのがにじみ出てる。


「難しい話だったことには違いないんだけど、内容が予想外の方向だったというか、おまけが本編だったっていうか」


「うん?」


 どういう意味だってばよ。おまけが本編?


「ねぇ、ルージュ君」


「何だ?」


「凄い魔法使いって、変――独特な人が多いのかな?」


「は?」


 いや余計に意味がわからない。

 おいクルス、俺を見て一理あるみたいな顔してんじゃないよ。


「うぅん、ごめん大丈夫。とりあえず、この教室は今後調査隊改め、フォルトゥリアの本部として使っていいんだって。生徒会と同じ学院内にある組織ではあるけど、運営と管理は一任されちゃったから、スジが通っていたのなら学則を一部無視しても構わないとかなんとか」


「大盤振る舞いと言って良い処置だね。けど、言葉通り過分な対処とも言える。僕たちに調査隊としてのノウハウもなければ実力も足りないというのに」


 内実を知っている俺としては過分もクソもない話ではあるが、クルス王子の言っていることはもっともなことだ。


 知らない人間から見れば、期待して地位や仕事を与えたというよりは無責任の放任と映って当たり前である。


「その辺りも込みの期待、ってところだろうな」


「込み、というと?」


「知っての通り事実上元から組織されていた調査隊は解散された。単純に隊員が俺たち以外にいなくなった点もそうだけど、実戦と実践を経験して新しくノウハウを積んで意義や意味の部分からの刷新を図ってるんだろうよ」


「それこそ、あたしたちなんかがって思っちゃうんだけど」


 極水は表に見せなかったが、悩んだ部分ではあるのだろう。

 悩んだ結果、俺に賭けるって結論は分の悪いギャンブルも良いところだと思うけど、それはいい。


「乱暴な言い方になるけど、期待通りか以上にならなければ俺たちの卒業を待って潰してしまえばいいだけの話でもある。その場合は学院のカリキュラムにある調査、フィールドワークって部分からのテコ入れになるだろうが」


「……学生主導組織ではなく民間、あるいは国からちゃんとしたノウハウを持った人間を派遣した上執り行う形になるわけだね?」


「あくまでも現状からの推測でしかないけどな。何にせよ俺たち次第って部分は変わりないし、苦労するのは明日からだろう」


「目に見えて大変そうだよねぇ……うぅ」


 しょんぼりルルに苦笑いしつつ、苦労の中身をどれほど察しているだろうかと心配が少し。


 フォルトゥリアは今、多くに認められていない。

 功績と言うよりはその場にたまたま居たから取り上げられたと思われているだろう、言ってしまえば悪目立ちしてるだけ。


 一つの組織として真っ当に成長させられたのならいずれ覆せるものではあるが、中々先の見えないものになるだろう。


「ルージュ」


「わかってる。最悪泥を被るのは俺だけでいい」


「……まったく、そういうつもりで目配せしたわけじゃないよ。言っただろう? 僕だって覚悟はしてきたつもりだと」


「ルージュ君? クルス君?」


 悪目立ちの原因として一番扱われやすいのがクルス王子という存在だ。


 国の決定としてクルス王子を大事に扱っているというアピールとしてこうなったと捉えられる可能性は高い。

 宣告しに来た人間が極水だ、言うまでもなく国の中枢にいる人間だったのも、そう言った部分への思考を加速させる原因の一つになるだろう。


 わかりやすい形で理解したい。

 そう言った心理の動きはあるものだし、何なら心の鎮静を図るためにフォルトゥリア、ひいてはクルス王子を必要悪として扱う可能性だってある。


「大変そうだって話だよ、ルル。一先ず、他の生徒に納得してもらえるくらいの功績は挙げるべきだろうからな」


「納得……うん、そうだよね、あたしたちだからこそって思ってもらわないとね! でも、なおさらだけどこれからどうしよう?」


「まずは人員を確保するべきだろうね。僕たちが魔法使いとしての力をつけることも急務だけど、それはある程度組織、チームとしての土台が出来上がってからのほうが効率がいい」


 王国が動いた以上、恐らくエンリがフォルトゥリアの顧問にあてられるはず。

 クセは強いが、獄炎隊の隊長を務めている人間だ。

 当然人を育てる能力だってあるし、組織を管理する能力だって……ある、うん、あるはず。


「人員かぁ。あたしたちが誘う、ってことだよね?」


「運営、管理にはそう言った部分も含まれているのではないかな? 予め決まっているのならこの場にいないのはおかしいしね」


「とは言うが、諸々含めて俺たちへの印象や、元々調査隊が持っていた価値みたいなもんから簡単には見つからないだろうな。志願をベースにして、志願者が居ればテストする。目に留まる生徒がいればこっちからスカウトする。そういう形がいいんじゃないか?」


「従来通りって感じだね」


 正直、学院のレベルをあげるって長期的な目標が出た以上人選はきっちりしていくべきだと思う。

 確かに今の生徒たちは中々にへぼばかりが目立つが、才能や素養までもが失われているわけではないはずだ。


 生来のものはそれこそ王国の歴史と共に積み重ねてこられたもので、10年20年で損なわれてしまうものじゃないのだから。


 つまりは才能や素養の伸ばし方、その部分が衰えてしまっていると考えられる。


「何にせよ、俺たちは普通の学生だ。学生の本分に励みつつ、出来る範囲で頑張っていこう。ルルは急がないから現状を改めて考えて、これからの方針だなんだを考えてみてくれ」


「う。り、リーダー、だから、だよね?」


「その通り。頼んだぞ、リーダー」


「僕たちも頑張るからね。これからもよろしく頼むよ、リーダー」


 とはいえ、人員をどうのと言う前に自分たちのレベルアップを考えなければならないわけだが。

 さぁて、どういう立ち回りを考えて行くべきかねぇ……。


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