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第3話「鍛錬方法とは」

「むむー……ふぁ、ふぁいあ・ぽいんとっ! ですっ!」


 選択授業における回復魔法を教える後任が決まっていない。


 ラナ・マシューが学院を後にしたことで、個人的に一番影響が大きかったと思う部分はこれだろう。

 回復魔法を使える教師はいても、教えられる教師がいないというわけだ。


 もう少し突っ込んで言えば、ラナと同じレベルで回復魔法を使える人間はいても、同じレベルで教えることができないのだ。

 ラナクラスを求めなければ良いと考えればいいのかも知れないが、肝心のラナがどの程度だったのかを少なくとも今は確かめられないし……やっぱりなんとも言えない深刻な人材不足と言う他に無いだろう。


 回復魔法はやはり特殊な魔法であり魔術だ。

 そう考えれば仕方ないと思うべきなのかもしれないが、最高峰と言われている学院でこれってどうなのとはやっぱり思ってしまう。


 結局、エンリが担当している選択授業、火炎魔法基礎論に時間つぶしを兼ねたユニアの様子を見るために参加してみたけども。


「ふむ。やはり獣人は人間と少し魔力の操作方法が違うようですね。ありがとうございます、ユニアさん。残りの時間は一旦見学という形にしましょう」


「は、はいです」


 炎魔法の初歩、指先に火を生むはずなのに、黒い煙を生んでしまったユニアのしっぽが力なく地面に垂れる。

 周りにいたクラスメイトが慰めるためにユニアを囲むが、何処となく優越感に浸っているような雰囲気があるのは気のせいじゃないだろう。


「ほら、ユニアちゃん、こうだよ、こう」


「わっ。すごいのです!」


 加えて素直なユニアが目を輝かせてしまうのだからいい気にもなってしまう。


 ラナがどこまでユニアに魔法のことを教えていたのかはわからないけど、見るに獣人としてのスキルを活かすことは教えていても、人間的な魔力の使い方は教えられなかったか、教えても身に着けられなかったかのどちらか。


 なんにしても、人間と同じ舞台にいる存在として見たとき圧倒的に格下だとわかる存在ってのは、健全ではないが安寧をもたらすとはいえる。


「ルージュさ――くん」


「はい、どうしました? 先生」


 いやぁ……もしかしたらユニアよりもへたくそなんじゃねぇのエンリってば。


「この後、ユニアさんを学院案内という形でフォルトゥリアへと連れていきますので、よろしくお願いいたし――お願いしますね?」


「わかりました。お茶でも用意しておきます」


 最低限の仕事は問題なさそうだし、お目こぼししておくか。




「ルージュさんっ!!」


「おおっと。お疲れ様ユニア、初日はどうだった?」


「たのしかったのです!!」


「そりゃ何より」


 何よりだけどルルとクルス王子の視線が痛い、助けて。


「ルージュ君?」


「説明はしてもらえるんだろうね?」


「も、もちろんだよ――って、ユニア待ってくれ、顔を舐めるな舐めるな」


「わ、わふっ。ご、ごめんなさいです」


 お茶の用意する前に言い訳の用意をしておくべきだったよね、反省しよう。

 教室に入ってくるなりダイブしてきたユニアを引きはがしながら、さてどう説明したものかと考える。


「パティアの森で俺が獣人を発見した。発見した獣人がユニアだってのはお察しだよな?」


「うん。わかるよ。わかるからどうしてそんなに親密そうなのか、というかユニアちゃんが懐いてるのか説明して? 早く」


「……あー、うん。ルージュ、僕のことは良いから是非ルルに説明してくれたまえ、頼む」


 いかんルルの目が据わってる。

 え? というかなんで? あぁ、ユニアを独り占めしてるのが悪かった?

 それともまさか……紅一点ポジションを奪われることを危惧してるとか!?


 さ、流石にそれは解釈違いってレベルじゃないぞ……。

 じゃあ何? 普通にちょっと怖いんだけど? 極炎様に冷や汗かかせるなんて相当だってばよ……。


「ラナ先生と一緒に事情聴取されてた時も一緒だったんだよ。言葉を選ばず言うならその時懐かれたんだ、聴取の時間以外でやることもなかったからずっと遊んでたんだよ」


「? は、はいです。ルージュさんはすごくてやさしいのです」


「……ふぅん?」


 冷たい目だ、かわいそうでもないけど明日の朝日は拝めないのねなんて思ってる目だ。

 いやほんとなんかわからないけど堪忍して?


「ま、まぁそこまでにしておきたまえよ。何にせよ折角見学に来てくれたんだ。何かやるべきなんじゃあ、ないのかな?」


 クルス王子が慌てて仲裁に入ってくれたけど……あ、大きなため息ですねルルさんや。


「はぁ。それもそうだね。と言っても、何かって何をする? 調査に関してはまだ何も決まってないし」


「わ、わたしは、このままおしゃべりでも、とってもたのしいのですよ」


 ユニアのフォローらしきものが身に染みるね。

 やっぱり、ユニアは人間的に見れば幼い部分はあるが、頭が良いし雰囲気もちゃんと読める。


 こういっちゃなんだけど、クラスメイトの振る舞いに腹を立ててちょっと本気で撫でるでもしてやればあの授業で血の雨が降っていた位には実力者でもあるんだし。


 ……ふむ。

 そろそろ調査云々の前にやることがあるぞってことで。


「わかった。じゃあ今でもできることの一つとして、自主鍛錬方法の研究でもしようか」


 調査隊、フォルトゥリアとしての活動はともあれ、強くなる必要はあるんだ。むしろある程度強くならなきゃ、スタートラインに立てすらしない。

 ユニアに人間向けの授業は効果も薄いだろうし、ルルやクルス王子の知識を確認もしたいってのもあるし、本腰いれるかね。


「そ、それってルージュ君が先生になってくれるってこと?」


「誰かに教えられるほど修めたつもりはないけどな。参考程度にはなると思うよ」


「いいね。僕としても学院に来るまでキミがどういう訓練を積んできたのか興味がある」


「はいですっ! わたしもたのしみなのです!」


 ほんじゃま、やりますか。


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