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第4話「魔法と魔術」

「おさらいになるとは思うんだけど、確認しておくぞ? クルス、魔法と魔術の違いってのは何だ?」


「自分の魔力を体外に何らかの物質、現象として放出する技術のことを魔術と言って、放出された物質、現象を魔法と言う。で、あってるかな?」


「そう。単純に言えば魔法を生み出す過程を魔術と言って、放たれたものを魔法というわけだ」


「子供のころに教わる話だよね。凄い魔法を使いたいなら魔術の腕を磨こうねっていう」


 この辺は常識と言って良い話だろう、ユニア自身もふんふんと興味深そうに聞いてる風味だが、ラナもこの辺りは伝えているだろう。

 そうとも、この国どころかこの世界に生きる人間であれば物心がついたならすぐに教わることだ。


「じゃあもう少し突っ込んでいこう。ルル、魔術の四行を答えられるか?」


「えぇっと。強化、放出、変化、操作のこと?」


「正解。基本的に魔術の腕を磨けってのはこの四つを磨けと言われていると同義だ。魔力の密度を高めて魔法化することで威力が強化される。ルルで言えば一度に多くの魔力を放出するという魔術に長けていると言えるだろう」


「ルージュ君は操作するって魔術に長けているわけだね?」


 頷きを返しておく。

 極炎的には不正解ではあるが、ルージュとしては正解だ。


「強化と変化、放出と操作は裏表の関係にある。ルルで言えば放出する魔術に長けている分操作が苦手であるのはある意味当然と言えるだろう」


「はいですルージュさん。どうして裏表の関係になるのです?」


「いい質問であり当然の疑問だな、ありがとうユニア。強化とは魔力を固めることで得られるものだが、変化はその逆で魔力を軟質化して望みの形状にする。同じように放出量に優れている、すなわち多くなればその分一度に操作しなければならない魔力が多くなり至難となるのは当たり前。ルルは実感としてわかるよな?」


「うん。ルージュ君に言われて改めて実感できたことではあるけどね」


 なるほどーなんて頷くユニアはまた別だが、とりあえずいいとして。


「ならばルージュ。僕はどうなんだろう? 一応、苦手な魔術はないつもりだけど」


「言葉は悪いが、全ての魔術が小さく纏まっているだけと言える。まだ得意も苦手も判別がつかないって域だな」


「……自分で聞いておいてなんだけども。もう少し手心というものを頼むよ」


 ショックなら聞くなってのはまさにそうだが。

 言葉とは裏腹にイイ笑顔してるのは明確にまだまだだと言って欲しかったんだろうな、マゾ王子め。

 ならちょっと仕返しとして。


「ならバランスの良い魔法使いと言っておこうか。実際、上位ランクの魔法使いに多いのはそういうタイプの人間だし、あらゆる状況に対応できるって意味で重宝されると思うぞ」


「まったく……喜んでいいのかわからないね」


 ちょっとは効いたのか口元を引きつらせながら肩を竦められた、やったね。


 ただ宮廷魔法使いの連中、八割型を占めるのはそういうタイプの人間だったのは事実だし、重宝されると言うのも正しい。

 そこから適性を見極め、更に特化練達し、極魔の何処かに入隊できるようになるわけだが、それは汎用性というものを犠牲にするわけだからな。


「わたし、えと、じゅうじん、であればどうなのです?」


「ラナ先生にも聞いたかと思うけど。獣人の特徴としてそもそも魔力を放出できないというものがある。だから今日の授業で魔力を上手く魔法化できなかったわけだな」


「じゃ、じゃあわたし、まほう、つかえない、です?」


「放出できない代わりに魔力を体内で魔法に変えることが出来るはずだ。そもそもモンスターとは動物が魔力を取り込んで体内で変質させた存在のことを言う。だからユニアで四行や魔術を言うのなら身体の外で行うか、内で行うかの違いになるだろうな」


 もっとも、一般的な獣人と同じであれば組織とやらに目を付けられるはずもない。

 まさかモンスターを従えられるというだけじゃないだろう、もちろんそれだけでも十分脅威ではあるが、ユニアという獣人だからこその特性があるとは思う。


「なるほどね。それでルージュ? 具体的に魔法を、いや魔術を磨くための自主訓練方法というのは何だい?」


「ルートの構築さ」


「ルート?」


「そう。自分に一番合った魔法の具現化方法を探るとも言えるな。例えば人によっては放出した魔力を順次魔法化していくことが得意な人間もいれば、予め魔力だけを放出し、一度に全てを魔法化するほうが合っていると感じる人間もいる」


 やや言っている意味がわからないのか、きょとんとされてしまったね。


 実演した方が早いか。


「例えば――よっと」


「わっ、ぼーぼーもえてるのです!」


「これが放出した魔力を順次魔法化していってる状態で……こっちが」


「……すごいな、揺らめきすらしない。これが、後者のやり方かい?」


 どちらも同じファイア・ポイントという指先で火を生む魔法であるが、違いは如実だろう。


「保有魔力量にもよるけど、俺の場合になるが魔法を維持する時間で言うなら前者のほうが長持ちする。けど、威力って面を見れば後者の方が高い。もちろんこれだけじゃないぞ? 自分に適した詠唱方法を見つけ出すだけで、一つ上の魔法使いになれるだろう。魔術を本格的に磨くのはそれからの方が良い」


「つまり、あたしたちがまずやるべきことは詠唱方法を探し出すことで」


「見つけた詠唱方法をモノにすること、か」


「なるほどです! やっぱりごしゅ――ルージュさんはすごいのです!」


 よせやい照れるじゃないか。

 けど、こんなもん初歩も初歩だ。少なくとも宮廷魔法使いで自分なりの詠唱方法、つまるところ詠唱術を見つけられていない魔法使いはいない。


「ミソ、と言えるのは多くの魔術、詠唱術を身に着けていると同じ魔法でもよりその場その時にマッチした魔法に出来るってことだな」


「というと?」


「例えば俺の得意なフレイム・ウィップだけど。予め魔力を放出している形でやれば、目に見えない炎の縄が知らぬ間に自分を拘束しているなんて使い方もできる。もちろん、魔力自体を気取られないようにする工夫は必要だけどな」


「ほへー……奥が、深いんだねぇ」


 感心してる場合じゃないぞって話だし、改めてどうしてここまで魔法使いの常識が劣化したのやらって話でもあるが。


「フォルトゥリアでする日課はまずこれにしようか。それぞれが考えてきた詠唱術を持ち寄って検討する。上手く形に出来たのなら、調査という名目を使って実戦、実践だ」


「うん、そうだね! なんだか急に目の前が拓けた気分だよ!」


 皆様やる気になってくれたようで何より。


 まぁそれはそれとして。


「はー……素晴らしいです、ルージュ様……」


 静かだなと思ってたけどさぁ? エンリ、お前ってやつは。 


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