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第5話「ふえぇ」

「ラナ・マシューは全てを話したか」


「とは言っても、組織とやらの情報に関してはほぼ無いも同然でしたが」


「極土がこれ以上はないって判断したんだろう? ならそれで全てだよ」


 皆とのなんちゃって訓練が終わって。

 国からラナへの聴取報告書を読みながら、エンリの補足を聞く。

 自分で言っていた末端って言葉は真実だったらしい。あのレベルにあって末端だというのなら中枢にはどれだけのバケモノがいるのやら。


 聴取を担当したのは極風ではなく、極土。

 お願いはちゃんと聞いてくれたみたいでありがたいよね。


 ラナ自身の扱いに関しても乱暴なものではなく、監視付きとは言えそれなりに自由が与えられているみたいで何よりだ。

 さっさと条件付きでも良いからエスペラートに戻って来て欲しいものだけど、まぁまだまだ時間がかかるだろう。


「ひとまず組織についてはいい。気になるのはユニアに関するものだ」


「はい。改めて驚きました、獣人を使ってモンスターを制御……この場合は統率と言って良いでしょうか? そんなことが可能なんて」


「同感だ。一番最初にこの発想に至った奴は間違いなく鬼畜だよ」


 王国生まれだからか、やっぱり俺も基本的には獣人に対しては保護的な考えを持っている部分は否めない。


 モンスターに無理やり子を産まされ、あまつさえその親子を使うなんて非人道的に過ぎると思ってしまう。


「ですが、可能であるならば」


「あぁ。それなり以上の戦力を揃えるための、最高効率なやり方と言える」


 王国の獣人保護施設にいる獣人たちを思い出すに、ユニアと同じレベルで意思疎通が図れる存在ってのが希少どころの話じゃないけれど。

 モンスターを統率する才能みたいなものが獣人には先天的に備わっていると考えるのなら、かなり大きな話になってくる。


「帝国の獣人に関する扱いが気になるな」


「極風様が既にその方向へ動いておられるようです。ここにきて条約が邪魔になるとはとへそを噛んでおられましたが」


「乱暴な手段は取れないか、当たり前だよな」


「かといって正式な手順を踏んでも、見たいものを見せてもらえるとは思えませんが」


 動き方を考えるのなら裏からの動きになるだろう。

 もっとも、暗部で動いている組織ってやつが王国側帝国側関係なく手を結んでいると考えられる現状、裏から手を回そうとしても徒労に終わる可能性が高い。


「ルージュ様」


「わかってる。だから俺なんだろう? クルス・ハレオル・パラドーラから何とか聞き出せないかってわけだ。そのために危ない橋もいい所のユニアって存在を渡してきた」


 ユニアが学院に編入した時点でそこまではわかるよ。

 確かにクルス王子の極水へ向けていた視線には気になるものがあったし、平和条約を結んだからと言って全てが解決するわけじゃない。


 むしろ言ってしまえば学院連中のほうがおかしいんだ。

 ついさっきまで戦争していた国の王子をどういう意味であろうとも受け入れるなんて、中々どころかあり得ない。


「教師連中は?」


「申し訳ありません、調査は難航しております。しかしながら」


「難航しているってのが、組織とやらの手が学院に入っている証明でもあるわけだ」


「はっ。言い訳としても、ではありますが」


 申し訳なさそうなエンリだが、そもそも専門が違う。

 こういうのは疾風族が動く話だ、基本的にドンパチやる専門の獄炎隊が上手くやれるとは思ってない。


 何より俺自身、命令があったから従っているけど、ガラじゃないと常々思っているのだから。


「何にせよ、今のところ持ってる鍵はクルス王子とユニアだな」


「はい。如何なさいますか?」


 クルス王子とは上手い関係を築けられていると思う。

 ルージュの実力に対して気になっている点はあるだろうが、フォルトゥリアの活動でこんなことは当たり前のことだと示し続けていたのならいずれ疑念は消えていくだろうし、現状を維持しよう。


 問題はユニアだ。

 本人の気風とは別に、そもそもの存在がかなり大きな爆弾と言える。

 取り扱いには細心の注意を払わなきゃならんが……。


「やっぱり、フォルトゥリアへ参加してもらおうと思う」


「なるほど、功績を挙げる。あるいは実力を高めることで簡単に手を出せない存在だと示す方向性ですね」


「今のところ人気者になってしまってるからな。不特定多数に可愛い可愛いされてる間に妙な接触があってもおかしくない。何よりラナとの取引もある。ユニアにとっての幸せが何なのかまではわからないけど、自立するってのは必要だろう」


「仰る通りかと存じます」


 少なくとも自分の前に多くの選択肢があって、自分の意志でいずれかを選べる状態は幸せかどうかは別にして、満たされた状態だとは言えるだろう。


 ユニアが選んだ道の一つとして、俺や国と敵対するなんてものもあるかもしれないが、その時は責任を持って俺が処分すれば良いだけの話。

 ユニア自身が選んだ道だと言うのなら、ラナも納得できるだろう。選ばされた道だというのなら、まったくもって別だろうが。


「なんとかするさ。フォルトゥリアの活動に関してもまだまだ始まったばかりだし、動きを見つつ軌道修正していけるようにする。エンリは引き続き学院内部を探ってくれ、頼んだぞ」


「承知いたしました。時に、ルージュ様?」


「うん?」


「そろそろ一旦報酬と言いますか、ご褒美を頂戴したく思うのですが」


 あれ? これも基本国のお仕事だよね?

 俺から直接給料出すなんて今までも――っておい。服を脱ごうとするな服を。


「それがなきゃなぁ……はぁ」


「よく言うではありませんか、身体で払ってもらおうかぐへへと――あ、待って、待ってください無言で服を着せないでください、申し訳ありません調子に乗りましたから、ふえぇ」

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