「競争?」
「そう、競争だ。競争を生む必要がある」
フォルトゥリアの活動が始まって一週間が経過した。
ルート構築に関して説明したからと言って劇的に魔術、ひいては魔法が上手くなったわけでもない。
あえて言うなら特に苦労せずフォルトゥリアへと参加してもらえたユニアが魔力をちゃんと感じ取れるようになった程度か。
そのユニアは訓練を頑張りすぎたのか獣人の習性か、ソファの上ですやすやとお眠りタイム。
「なるほどね、成長には競争が必要だ。ルージュが言うのもわかる。わかるが、どうやって競争を生むんだい? 現状、向上心を持った人間はそれほど多くない。同じ学院と言う舞台に在っても、心は別に在る状態だと僕は感じているよ」
詩的にちくちく言葉をのたまうクルス王子には思わず苦笑いしてしまうが気持ちはわかる。
「現状、フォルトゥリア内では競争が生まれ難い状態だらかな。どうやっても外、学院の生徒に求めなくちゃならない」
「え? あ、あたしルージュ君にもクルス君にも追い越してやるぞーって気持ち持ってるつもりだよ?」
「もちろんルルの努力とかやる気を認めていないわけじゃないけど。俺に教わっているって時点であまり対外的な説得力ってのは証明できないな」
「まぁ、そうだね。ルージュは教師じゃないし、外から見て身内で遊ぶクラブ活動みたいなものと言われても、気持ち以外で否定する材料はないね」
しょんぼりしたルルと、少し面白くなさそうなクルス王子には申し訳ないが、実際否定できるかどうかどころか事実に近い。
学院性の中でも特に貴族連中は目が肥えているのだ、私兵として家で雇ってるだろう魔法使いはそれなりに優秀だろうから、学院性の上澄み程度では驚かないだろう。
「俺たちがフォルトゥリアという調査隊として公的に認められたのは、ただその場にいたから。これはその通りだ。何か目立った実績を挙げたわけじゃなければ、飛びぬけた実力を示したわけでもないからな」
「その通り、だけど」
やっぱり説得力というものが示せておらず、足りていない。
だがこの状況は使える。
今のフォルトゥリアは実力や家柄なんかを別として公的に認められた組織だ。
つまるところ、誰もが属す権利、あるいは支配する権利を持っている状態。
「だから示す。誰もがは難しいかもしれないが、俺たちだからフォルトゥリアとして認められたんだっていうものを」
「調査実績を挙げるってこと? でも、都合よく調査対象が見つかるわけでもないし……森の調査だって国の調査が入ることになったし」
「いやいや、その前段階だよ。平たく言えば喧嘩するんだ、在校生相手にな」
「は、い?」
公的に認められた組織という価値は高い。
にもかかわらず、今回認めますと宣言したのは極水だ、そりゃあもうとんでもない価値を持っている。
それこそ以前に組織されていた調査隊なんか足元にも及ばないだろう。
ちらりとクルス王子を見てみれば小さくなるほどなんて呟いているし、わかってくれたみたいだ。
「……不満自体は確かに聞くものだし、自分のほうが相応しいなんて思っている人間もいるだろう。実力の程は別として、効果のある訓練にはなるかもしれないね」
「え、えっと? どういう、こと?」
「僕たちは力を示していない。それどころか新入生だ。上級生からすれば面白くないのはもちろん、僕たちでなれるのなら自分たちだってと考えているだろう。ならば証明する場を設けようじゃないかと言えば、多くの人間が挑戦しようとするんじゃないかな」
「つまり、学校の同級生や先輩たちと戦う? そ、そんなの先生が認めないんじゃないかな?」
認めないかもしれないが、認めざるを得ない。
「ルル。俺たちフォルトゥリアは教師の許可を必要としない組織だ。バックに国っていうか、極水様がついたわけだからな。だから、教師に対して求めるのは許可じゃなく、協力になる。許可なんてものはある前提だ」
これが権力の使い方である。
良いか悪いかは……おっと、ルルは眉をひそめてあんまり好きではなさそうだけど納得してもらうほかにない。
「協力……う、うーん。なんだか改めてあたしたちの置かれている立場ってちょっと怖いね」
「怖いと思えるなら良いと思うよ。権力を握って変わる人間は多いのだからね」
おっと、好き嫌いの部分を気にしたわけじゃないか。
なんだかんだでスピアード家の娘だし、その辺りは割り切れてる、のかな?
まぁこのあたりの問題はエンリが顧問に就いたこともあって障害なくパスできる。
だから問題はこの件が広まった後、ちゃんとルルとクルス王子にユニアが相手を凌駕できるかという部分になるだろう。
いざとなれば俺が上手いこと戦いの内容を調整して勝つことも可能だろうが、そうした場合目立つのはルージュだけになりかねないしな。
「争いというかどういう競争にするかは考えるとして。何の動きも見せないってのが一番良くない。権力の上にあぐらをかいたお山の大将なんて評価まで行きつくのは避けたいだろう?」
「そう、だね。うん、わかった。自信は無いけど、これも凄い魔法使いになるためだし、あたしがんばるよっ!」
「流石だねルル。僕も一層の精進に励むとしよう」
なんとか乗り気になってくれたようで何より。
仕事としてエスペラート魔法学院全体のレベルアップも考えなきゃならなくなったんだ、フォルトゥリアを学院全体に影響を及ぼせる組織にしなければならないのは確かだ。
何より。
「こういう動きを見せて食いつく奴もいれば、苦虫を噛む人間もいるはず」
レベルを折角落としたのにと思う存在がいるはずだ。
どういう動きを見せてくるかまでは想像がつかないが、何とか釣らないとな。