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第10話「王族的にはオッケーです」

 さて、改めてだが。


「な、何も見えないよ?」

「目隠しをされたのなら当たり前だというものだね! はっはっは!」


 ユニアは見学、少し離れたところで楽しそうに尻尾を振っている。

 こっそりこういうことをするんだよなんて先に教えたらいつもの流石ご主人様ですとか言われたよね、困る。


 ともあれ目の前には目隠しをしているクルスとルルがちょっと困惑気味に立っている。


「何も見えない? 本当に?」

「う、うぅ……ほんとに、見えてないよ?」

「僕もだ。これじゃあズルのしようもないほどにね」


 いや別に見えてないかを確認したのはそういう意味じゃない。


「違うって。むしろ何かは見えてないとダメなんだよ」

「え?」

「どういう、意味だい?」


 ただまぁ全力とまでは言わないけど、学生離れしてる実力を披露することには変わりない。

 わざわざパティアの森まで来て、周辺をエンリに警戒させて、更に目隠しまでしてと……俺、何やってんだろうね。我に返ったらなんだか落ち込むや。


 いやいやともあれだ。


「今、二人を魔力で拘束している。触れない程度の位置で、だけどもな」

「なっ!?」

「……うそ」

「感じられなかった? なら俺も練習した甲斐があったよ」


 驚いたのはクルスで、絶句したのはルル。


「驚きも落ち込みもいらないと思う。けど、危機感は持った方がいい。二人を拘束してる魔力をこの間教えた詠唱術でフレイム・ウィップへと変えたら、とかな。まぁ、俺の出力じゃ大した怪我にはならないだろうけど、見えてないと不味いって言うのはそういう意味だよ」


 厚い信頼を賜ったもんだと嬉しく思うべきか、未熟を嘆くべきか。


 二人にあえて言うつもりはないけれど、仮にラナ・マシューであれば即座に気づいていただろう。

 要するにAランクに認定されている魔法使いなら気づけるというレベルで、更に言うなら過去の学院生なら気づかなくちゃならないというレベル。


「えと、その……本当に?」

「少しだけ魔法にしてみようか? 火傷しない程度に」

「……ううん、ごめん。大丈夫、続き、教えて欲しいな」


 この辺りの切り替えは成長だよね、嫌みじゃなくそう思う。

 魔法使いとしてのレベルが落ちたとしても、人間的なレベルはそうそう落ちないもんだ、何よりうれしいよ。


 そうとも、今できないなら出来るようになればいいだけの話なのだから。


「魔法を磨くことつまり魔術を磨くこと。そして魔術を磨くための第一歩が魔力を操作することになるらしいけれど、魔力を操作するためには魔力への感度を高める必要がある」

「感度を高める……つまり、魔力そのものをもっと感じ取れるようになる必要があると」

「その通り。どれくらいのレベルでってのは正直俺もわからないけれど、俺が今二人を拘束しているくらいの濃度と量は感じ取れる必要があるんじゃないかな」


 操作だけならず魔術の四行、すなわち強化、放出、操作、変化をそれぞれ磨く上でも魔法化しない魔力の感じ取りは非常に大切で、基礎力と呼べるものの一つだ。

 逆に言えば基礎力が身についていなければどれだけ応用技術を身に着けようとも伸びないと言うわけだな。


 基礎の基礎ではあるが、マスターできるようなものでもない。

 極めたと言える上限がそもそも存在しないし、何なら俺こと極炎であっても魔力感知に関しては極土に届かない。あれは最早化け物と言って良いレベルだから。


「いやなんで二人して絶句してるかな」

「何故と言われても、ねぇ? ルル」

「ルージュ君の当然って、アテにならないよね……」


 そんなことはない、断じてない。

 まだ意図的に魔力を感じ取れないように隠そうとしたりもしていないし、何なら魔法化できるかギリギリのところまで薄めた程度でしかない。


「考えよう、としか言えないな。仮にクルスとルルが言うようにこの量の魔力を感じ取れないことが普通・・というのなら。逆に感じ取れるようになれば他の学院生という普通よりも抜きんでるということになるんじゃないかな」


 はっとしたような顔になる二人だ。

 実際、予想でしかないけれど感じとれる学院生は全体の一割か二割といったところだと思う。

 教師連中でも危ういかも知れないな、魔法使いとしてのレベルはそこそこに維持されていても基礎力を疎かにしている教師は多かった。


「派手さばかりが魔法使いじゃない、ということだね。悪かったよ、ルージュ。どうすれば感じ取れるようになるか、教えてくれ」

「ごめんねルージュ君、確かにその通りだと思っちゃった。あたしも頑張るよっ!」


 うんうん頑張ろうね、是非とも頑張って欲しい。


 クルスが言ったように魔法とは派手さを競うようなものじゃない。

 そんなコンテストがあるわけではないし、環境のことを考えれば大々的に私はバカをしてますとひけらかせるようなものだから。


「じゃ、納得してもらったところで早速やろうか。俺が魔力を伸ばして二人に触れようとするから、その方向を感じ取って避けてくれ」

「単純なんだね?」

「基礎力を磨く訓練なんて派手さも複雑さもいらないもんだと思うぞ。けどまぁそうだな、もしも気づけることなく触れられたらちょっとだけ痛い思いをした方が良いか」

「い、いたいおもい!?」


 だいじょーぶ大丈夫、ちょっとチクっとしますねーって感じ。


「じゃ、行くぞー」

「も、問答無用だ―!?」

「はぁ、諦めようルル。なんだかんだでルージュはこういうところ、強引だねぇ……」


 うるさいよっと。

 ぶっちゃけ俺もこのテの訓練を極風直々に施されたけど、あんときは全部が隠匿ハイドされた致死性の威力を持った魔法だったんだからさ、だいぶこれでも有情だぞ。


 とりあえずぐっと構えてくれた辺り大丈夫だろう、まずはルルに――


「……? ここ、かな?」

「へぇ?」


 細くゆっくりと伸ばしていった魔力の糸が避けられた。

 ちょっと意外と言えばそうかも。

 さっき二人を拘束していた魔力よりはわかりやすくしたけど、これで感じ取れるか。


 んじゃ、次はクルスに。


「わちゃっ!?」


 対してクルスは見事に気づけず、触れた瞬間の文字通りチクっとした感触へ大袈裟にびっくりして。


「え? え? きゃあぁっ!?」

「……えー?」


 近くにいたルルを押し倒した。


「まだ昼だぞー? そういうの、良くないと思います。というか王子様があげる驚き声にしてはちょっと品がないと思います」

「いやいやいやっ!? こんなのわかるわけないじゃないか!?」

「い、いいいい、いいからあたしの上からどいて!? いやちょっとそこはってきゃんっ!? エッチいいいぃいっ!!」

「わわわっ!? ごめっ――へぶっ!?」


 あ、ビンタ。痛そうですね、ご愁傷様です。


「ま、とりあえずこんな感じの訓練をルート構築と並行して練習していこう。頑張ろうな」


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