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第11話「条件付きで前向きに検討することを善処します」

 クルスの頬についた真っ赤なもみじと同じものが俺にも……解せない。


「だ、大丈夫ですか? ルージュ、さん」

「ユニア、俺悪くないよな?」

「あ、あははー……に、人間さんのこと、わたしまだよくわからないです、ごめんなさいです」


 あ、目を逸らされた、わからないこともないってか? こやつめははは。


「はぁ、まあ良いよ。それじゃ、ユニア」

「はいですっ!」

「始めるぞ」


 ともあれクルスとルルに訓練をした後。

 改めて夜中にパティアの森へと二人でやって来た。

 理由はパティアの森を再調査するためと、もう一つ。


「パラレル・キャスト」

「……う」

「大丈夫か? 気分悪くなったか?」

「い、いえ、だいじょうぶです。初めての感覚で、ちょっとヘンな感じなだけ、です」


 俺とユニアが魔力的に繋がれるかどうかの確認をするためだ。

 つながった瞬間ちょっと顔をしかめていたけど……うん、顔色も悪くないし大丈夫そうか。


「わかった。けど無理はするなよ? 獣人はやっぱり人間と違う部分が多いし、俺もそこまで詳しくない。なんでも気になったら言ってくれ」

「はいですっ!」


 改めてユニア、というより獣人は魔力を体外に放出するという形で消費することが出来ない。

 代わりに体内で身体を強化するという形で消費することが出来るというものが王国内で見つかった特徴だ。

 帝国程獣人に関する研究は進んでいないから、俺の知らないことがあるだろうと今回は色々実験してみたいんだよな。


「じゃ、早速授業で教わったファイア・ポイントを使ってみてもらって良いか?」

「はいですっ! えーと……ふぁ、ふぁいあ・ぽいんとっ! です!」


 ぐっとユニアの身体を巡る魔力を注視する。

 手のひらの先から出そうとしたのだろう、ぐぐっと魔力が手のひらへと集まっていくが。


「……あうぅ」

「大丈夫、気にするな」


 ぽしゅんと情けない音を出しながら、てのひらから煙が上がった。


 正直、魔法へと至るプロセスには何の問題も見当たらない。

 手のひらから放出される寸前で魔力だけがなりそこないみたいな感じで漏れ出る感じになってしまってる。 


 魔法として魔力を顕現できない理由は一体何なのだろう。

 獣人は皆こう、なのかね。だとしたらどういう理屈でだ?


 いや、考え込んでる場合じゃない。


「じゃあ次だ。ラナから身体強化の仕方みたいなのは教わったか?」

「えーっと、おかあさんから魔力の使い方は教えてもらったですよ」

「……つまり具体的な強化の仕方はわからないと」

「ご、ごめんなさいです」


 しゅんとしょげながら尻尾を丸めるユニアは可愛いね、思ってる場合でもないけどさ。


 実際、人間にとって魔力で身体能力を強化するっていうのは理解の外にある魔法だ。

 ただ、回復魔法に関しても元々は理解の外にあったものだし、こうした真面目な研究をしていけばやがて人間にも使えるようになるかもしれないもので。


「もしかしたら、帝国はそこにも目を付けたのかも知れないな」

「はいです?」

「いや、なんでもないよ」


 獣人を研究するって言うのは禁忌的ではあるけれど、蓋を開けてみれば多くの価値があるんだろうなと。

 流石にユニアへ向けて言う言葉ではないだろうが……極魔にいる研究者気質な連中の前には出せないなこりゃ。


「ユニアは人間と同じような魔法も使えるようになりたいんだよな?」

「はいですっ! おかあさんみたいな魔法! 使いたいのですっ!」

「ラナと同じ魔法か」

「む、むずかしいの、です?」


 そりゃ難しいが。

 身の程を知れと言った意味で苦笑いしてしまったわけじゃない。


「難しいのはもちろんだ。けど、ラナは恐らく水属性に強い適性を持っていた魔法使いだからな。けど、俺が教えられるのは火属性だけだから申し訳ないと思って」

「そ、そんなことないのですっ! わたしは凄い魔法使いになりたいって思っただけなのですっ!」


 凄い魔法使い、ね。

 確かにラナはそう言って良い魔法使いだろう、後少しの研鑽があれば極魔で肩を並べていてもおかしくはなかった域に在った存在だ。


 苦笑いの原因。

 クルスとルルを見事な氷の氷像に、それも本人たちが実感することなく仕上げた魔法の腕は称賛に値するレベルのもの。


 極水がみたらスカウト間違いなしだっただろうから。


「なら良かったよ。じゃ、今度はパラレル・キャストを通じて俺もアシストするから同じようにもう一回、ファイア・ポイントをしてみてくれ」

「はいですっ!」


 そんなわけでもう一度。

 獣人……いや、ユニアという存在を理解するためにも頑張るとしようか。




 ユニアの訓練に見せかけた俺の魔法練習になってしまったパティアの森から帰って来てみれば。


「お帰りなさいませ」

「……いやエンリさん? なんでどうしてそこにいる?」


 スケスケネグリジェに身を包んだエンリがいらっしゃいませとベッドの上で三つ指をついていた。


「そろそろかと、思いまして」

「何が」

「ナニが」

「……帰って下さいお願いします」


 ほんとお前、お前って奴はさぁ?


「膝枕などオススメ致しますよ?」

「……」

「いやん。熱さも過ぎれば冷たさになるとはその目で御座いますね? 素敵です、抱いて」


 いや、そう言うことじゃない。

 だってお前さ。


「目、笑ってねぇぞ」

「……」

「どうした。メジール・パラトリス、だったか。何か掴めたか」

「はっ。ご報告致します」


 どうにも、余程腹に据えかねているらしい。

 着ていた上着をエンリに投げ渡せば、躊躇することなく羽織った後床へと膝をついて。


「教師の参加を強制としたバトルロワイアル調練なら認めると」

「……はぁ?」


 中々に意味がわからないことを口にした。

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