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第12話「極炎サマよりこんにちは」

 メジール・パラトリス。

 学院の教育カリキュラムを精査する部門である、指導管理部で働く魔法使いだ。

 学院内で働いてはいるが、在籍は国の管理する魔法ギルドにあって、そこからの出向という形になっている。


 そんなわけでやってきましたエスペラートの魔法ギルド。


「ちょっと良いか?」

「あん? 何だ? 学院生か? 今日は学生に回せる仕事なんて――ごっ、極炎様っ!?」


 極魔所属証を見せれば反応は劇的で。思わず人差し指を口に当ててしーっなんてジェスチャーをするはめに。


「あぁいや、急に悪いな。少し急ぎ確認したいことがある」

「い、いえっ! ――おいっ! すぐに一等応接室を開けろっ! ギルド長を呼べ! ……何? 釣り? 馬鹿野郎っ! 極炎様が来ているんだぞ! さっさと連れて来いっ!!」


 うーん、申し訳ない。

 学院の休みが日曜日なもんでな、そりゃ世間もお休みだよね。

 月月火水木金金なんて戦時中だけで十分だ。あれ? そう言えば俺の休みっていつだろう? 一人戦時中だったりする?


 ……忘れよう。


「構わない、俺が出向くよ。アイネは……釣りって言ったか、相変わらずだな。いつもの釣り場にいるのか?」

「は、はっ! 恐らく、ですが!」

「ありがとう。出向く前に管理書庫に寄らしてもらって良いか?」

「もちろんですっ! すぐに開けさせます!」


 こういうことになるからあんまり極炎として外に出るのは微妙なんだよな。


 肌に合わない、性に合わない。

 畏まられる姿を見るのは、ルルと行った店のときも思ったけど背中がかゆくなって仕方ない。


「ええと、その」

「うん? あぁ、少し魔法学院に関して気になることがあってな。あんまり騒ぎにもしたくなくてさ、こんな格好してちゃわかんないよな。重ねて悪かったよ」

「とんでもありませんっ! 先ほどは大変失礼致しました!」

「だから騒ぎにしたくないって……いや、俺が悪かったって」


 でもこんな扱いをされるのも後数年くらいだろう、それこそちゃんと戦後を正しく過ごせばの話だが、そうするために今こうしているわけだし。


「お待たせしました! 準備が出来ましたのでこちらへどうぞ!」

「あぁ、ありがとう」

「……その、私事で大変恐縮なのですが……握手して頂いても?」

「は、はは……ヨロコンデー」


 英雄扱いはガラじゃないし、ファンサービスなんてわけわかんない。


 はぁ……やっぱ、極炎として外に出るのは金輪際止めよう。




「――それでは、私は表で控えておりますので」

「ありがとう。また終わったら声をかけるよ」


 失礼しますと、管理書庫を開けてくれた解放司書さんが外に出て行ったのを見送って。


「さて、と」


 目当ての書類を探し歩く。

 入ってしまえば小さな図書館みたいな広さの場所だが、ここに立ち入れるのはギルドマスターか極魔、それに極魔に認められた魔法使いだけだ。


「メジール、めじーる……この辺り、だと思うけど」


 つまり厳重な管理がされている。

 解放司書なんて、ここを開けるためだけに魔力修練をした人間がいるくらいで、更にその司書さんでも中に立ち入ることは出来ない。


 魔法ギルドの管理書庫にあるのは基本的にギルドに登録されている人物の目録であったり、近隣の魔力災害……つまりそこに住んでいる動物がモンスター化するといった記録と言ったものが主になる。


 その程度と思うことなかれ、魔力災害の記録一つとっても詳細なデータから見直せば、意図的に悪戯ですまない人災を起こすことだって可能なのだから。


「あった、か」


 手に取った資料集には確かにメジール・パラトリスのデータが記載されたものがあった。


 ……正直、無い方が話は早かったし、嬉しいとも思っていたんだよな。

 これで要するにメジールは自分の意志で学院のカリキュラムを弄っていることが確定した。


「……教員参加のバトルロワイアル、ねぇ?」


 真意は定かではない。

 エンリが身分を明かして詰めよれば吐かせることは可能だろうけど、そうするくらいなら極魔による介入調査までやってしまった方が早いし正確、かつあっという間に適正なものにまで持っていける。


 けど、そうしたらいつまで経っても戦争中と変わらない、生活が続くことになってしまうわけで。


「考えようによっては安全性を高めるためってのは正論なんだけどな」


 メジールの主張はもっともらしいものだ。

 生徒だけで行うには危険で、教員が参加し戦闘するかどうかは別に事故の予防が必要だと。

 実に真っ当で教師という立場にいる者なら考えて当たり前の部分だ。


 しかし。


「果たして何の事故予防なのか」


 はっきり言って、今の学院生同士が魔法的にぶつかり合ったところで大怪我をすることはないと俺は思う。

 そもそもちゃんとした手加減というものを学んでいない人間は、普通の感覚を持っているのならまずまともな魔法を相手にぶつけられない。


 縮こまった魔法、それこそ初級魔法にすらならないだろう。

 はっちゃけて思いっきり魔法をぶっ放すなんて人間は一昔前にならいるかもしれないと言えたが、今は間違いなくいない。


 なら考えられるとすれば、学院内で魔法合戦が起こることで別の事故が起こるかもしれないと危惧している。


「……考えすぎ、か?」


 もちろん深読みが過ぎるかもしれないし、あるいは極魔の世界に慣れ過ぎて感覚がおかしくなっているってだけなのかもしれない。


 資料から読み取れるメジールという男は、危険を冒さないこと、安全性を重視してという考えを持ってカリキュラムの変更に携わって来たようだし、バトルロワイアルなんて聞くだけで危険だとわかるようなことを認めたくないだけと言われて頷ける。


 それでも極水がいるせいで、学院の質を訴えなければならないと言われてしまったが故にしぶしぶこうであれば認めると言っているのかも。


 そう言う風にだって考えられる。


「そりゃ安全に、危険のないようにとカリキュラムが過去からゆっくり変更していくならこうもなるわけで」


 少し、なんとも言えなくなってきた。

 平和が見えたのなら過剰な武力を持つ意味合いは薄くなるわけで。


 けど、どうにも腑に落ちない。


「はぁ、やっぱアイネの力を借りる他ないか。やだなー、何言われるかな……気が重い」


 仕方ないね、まぁ精々血を採られるくらいならオッケーってことで。

 ギルドマスター、アイネに会いに行くとしますか。


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