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第14話「いい機会」

 アイネの協力を取り付けることが出来て、学生としての日常が再びやってくる。

 エンリにアイネのことを伝えたら何故かものすごく嫌そうな顔をされた後に私は負けませんからなんて言われた。いやほんとよくわからない。


 まぁそんなわけで、だが。


「アイネ・クラムリー、だよ……じゃ、まずは近接魔法戦、見せて」


 魔法練習所に集められたうちのクラスの面々を前に、あくびをしながらアイネは言った。


「き、きんせつまほうせん?」

「え? 近距離で魔法を打ち合う、ってことよね? だ、大丈夫、なのかしら?」

「というか、誰? あの人」


 戸惑うのも無理はない……いや、主に俺が戸惑ってる。

 百歩譲ってアイネのことを知らないのは納得しよう、表に出るようなポジションにいたわけでもないし。

 けど、アイネも言ってしまえば英雄と称えられておかしくない人間なんだがな……ジレンマだ。


 それより。


「……近接魔法戦のカリキュラムもなくなってたのか」

「ルージュ? どうしたんだい?」

「いや……クルスは近接魔法戦が何か知ってる、よな?」

「あ、ああ。武器を持って、得物が届く距離での訓練だろう?」


 良かった、知ってるヤツいたよ安心した。

 いやいや、帝国の人間であるクルスが知ってて王国の学生が知らないってのは不味いんだけどさ。


「……」

「は、ははは……はぁ」


 学生たちの様子を見て、アイネがじっとり、これマジ? みたいな目を向けて来た。

 ええそうです、俺が深刻に捉えざるを得ない理由を理解してくれて何よりです。


「はぁ……えと、あー……めんどくさい。いいや、コレつけて、皆で戦って、以上」


 残念、近接魔法戦の説明を投げ出したアイネは置いてあったイスにふかーく座って後はしらねモードに入ってしまった。


「る、ルージュ君」

「言いたいことはわかるけど。とりあえず近接魔法戦だ。あの人がつけろって言ったこの指輪にはどうにもレジストがかかってるみたいだし、大怪我はしないと思う」

「え、っと……近距離で魔法を打ち合うの?」

「まぁそれでいいんじゃないかな」


 事前に配られた指輪をはめてみれば……うーわ、やる気なさそうにしてたくせに本気出してくれたんだな、ありがたい。


 他の皆は何をどうしろってんだと言わんばかりの困惑っぷりか。

 じゃあ折角のフォルトゥリアだ、率先してこうやるんだよってのを見せてあげますか。


「ルル、クルス。二人で俺とユニアのコンビとやろうか」

「えっ!? あ、うん……けど、ほんとに大丈夫?」

「……ふむ。まぁルージュが言うんだ、大丈夫なんだろう。ルージュ、思いっきりでいいのかな?」

「もちろん。あぁ、パラレル・キャストも使って良いよ。折角だし言葉のまま思いっきりやろう」


 ルージュが言うなら、で本当に納得したのだろう未だに困惑から抜け出せていないルルを連れて離れて行く。


「ユニア、おいで」

「はいですっ!」


 思いっきりの言葉をそのままにするためにも、こっちも少し打ち合わせをしようかね。


 おいでと言われて嬉しかったのか、ぶんぶんと尻尾を振って近寄って来たユニアの頭を撫でた後に。


「この間の練習通りに」

「はいですっ! おまかせくださいですっ!」


 そうだな、まずはクラスメイト達に見せつけてやろうか。


 極水公認のフォルトゥリア、その実力と。


「……」

「わかってるよ」


 俺たち極魔から全幅の信頼を集めた、アイネが作ったマジックアイテムの真価を。




 フォルトゥリアのメンバーがまずはやるらしいと、クラスメイト達は周りに散って戦えるだけのスペースを作ってくれた。

 他の学院生に比べたらまだイヤな目を向けられている感じはしない。

 それは少なくともルルが極炎のような魔法を使ったことを目撃している人が多いからだろう。


 ならこの場を利用して、俺たちの実力と、ユニアをペット扱いするおバカさんの認識を改める。


「はじめっ!!」


 開始の合図を出したのはエンリ。

 合図と同時にまずはクルスが前に出てきたが……まだルルとは繋がっていないらしい。


 油断、慢心。

 いや、クルスならそういうことはしないだろうが。


 まぁいい、こっちからお披露目、させてもらうぞ。


「ユニアッ!」

「はいですっ! フレイム・ポイントッ!!」

「なっ!?」


 パラレル・キャストで既にユニアとは繋がっている。

 もっとも、直接手を握ったりはしないで、かつてルルをスーパーヒロインに仕立て上げようとした時と同じように、魔力パスを使って、だが。


「えぇいっ!!」

「くっ!?」


 吶喊してこようとしたクルスに向かって青白い炎・・・・を纏ったユニアの蹴りがあたりそうになる、が。


「わわっ!?」

「ぐ、ぅ……助かったよ、ルル」

「……こういう形で魔力感知の練習が役立つとは、思わなかったなぁ」


 なるほど、ルルの圧倒的な魔力でユニアの炎が消された。

 単純にクルスは蹴り飛ばされただけだ、多少は痛いかも知れないがレジストも効いているだろう大きなダメージにはなっていない。


「考えたな」

「魔力そのものにアクションをかける、ってね」


 思えば感知能力に関してはルルの覚えが良かった。

 入学前から魔力といつも真剣に向き合ってきていた証拠だよ、素晴らしいね。


「それより驚いたな。ユニアは魔法を使えないはずだけど?」

「ごしゅ――ルージュさんの、おかげなのですっ!」


 対するユニアの魔法行使だが、少しだけズルをしている。

 ユニアは魔力を体外に魔法として出力できない、出来ないが魔力を身体に巡らせることは可能で、魔法化するという作業さえアシストできたのなら、ご覧の通り。


「青い、炎……?」

「きれい……」


 まぁクラスメイトの反応も理解できる。

 炎が青いのは獣人だから人間と当然魔力の質が違うわけで。

 なんとかかんとか俺が波長を合わせた結果こうなっただけである。


「これなら遠慮はせずに済みそうだね」

「遠慮してたのか?」

「ふふ、強がり位言わせてくれたまえよ。だが……」

「あたしたちだって! まだまだ一杯できることあるからね! ルージュ君っ!」


 なら、楽しめそうだ。


「……ふふ」


 ちらりとアイネを見れば何が琴線に触れたのか、ちょっとだけ楽しそうだ。


「じゃ、全力でかかってこい! ルル! クルスッ!」


 いい機会、だからなっ!


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