一つ、いい意味での誤算があったとするのなら。
「剣もやるじゃないか! 王子様!」
「それは僕のセリフだよっ! コレの何処が嗜み程度だって!?」
クルスが思っていた以上に剣達者だったことだろう。
隠されていたと思うよりは披露する機会が無かったと思うべきか、パティアの森の時は持ってきてなかったし。
「く……」
「う、むむぅ、です」
チラリとユニアとルルの状態を伺えば膠着状態と言えるか。
魔法となる前に圧倒的な魔力をぶつけて消すという技術を身に着けたルル相手は、ユニアじゃ少し荷が重い。
獣人ならではの身体能力でルルを翻弄するという手段がユニアにはあるが、動いていないところを見るに無駄に終わると判断しているのかね。
「そこっ!」
「お、っとぉ」
「よそ見とは釣れないじゃないか、親友」
「いつの間に親友に格上げしてくれたのやら、光栄だよ」
俺自身の余裕は、そりゃもちろんある。
あるけれど、学生離れをしないって範疇を超えられないことが厳しい。
抑えた実力の中でユニアをキャストしつつ、クルスの剣捌きを凌ぐのは……あぁ、ちょっとやりすぎだな。
「とは言え、クルスも気がそぞろだぞ?」
「見抜いてくるね、流石だよ」
「お互い同じこと考えているだろうからな」
「はは、違いない」
この状況を打破するにはどうしたらいいかという一点をお互い考えている。
周りで見学しているクラスメイトの口がひらきっぱなしなのはまったくもって関係ないのだ、うん。
「良いんだぞ? 魔法、使っても」
「冗談、さっきからキミだって狙ってるだろう? 使った瞬間に、これを巻きつけてくるつもりだよね?」
「バレてら」
「バレないでか、ってね」
剣の呼吸から魔法の呼吸に移り変わるにはどうしても隙が生まれる。
もちろん剣の心得が無い人間にとっては掴めない小さな隙だが、俺もクルスもそんなのは見逃さない。
結局のところ。
「――同じタイミングで判断するなっての」
「それも、僕のセリフだよ」
二人揃って間合いを離した。
揃ってしまっただけに考えていたより距離が遠い、これじゃあ完璧な仕切り直しだ。
「光栄だね」
「何がさ」
「今の僕でも、キミに迫ることが出来るかもしれない武器を一つでも持っていたことがさ」
「……こちらこそ、だよ」
剣のことを言っているわけじゃないだろう。
恐らく言っているところは判断力。あるいはタイミングを測る力とでも言うのか。
「ルル」
「ユニア」
二人揃って相棒を呼ぶ。
そろそろ俺たちだけが楽しいってのも、なんだかだよな。
「ごめんなさいです、ルージュさん」
「いや。よくやってくれたよ、多分その勘は正しかっただろうから」
驚くべきはルルとクルスの成長の速さ。
ルート構築と魔力感知、まだまだ足りないのは確かだがかなり伸びている。
それは獣的な危機察知本能を持つユニアの足を止めるほどの。
「じゃあ、そろそろ置き去りにしてやるか」
「っ! はいですっ!」
ルルとクルスを見れば完全にパラレル・キャストの構え。
魔力を視るに風魔法か、クルスがそう言えば得意だって言ってたな。
――だいじょーぶ。
――しってるよ。
ちらりとアイネに目を向ければこの程度の魔法なら問題なしと口を動かしてくれた。
「……この程度、か」
「ルージュさん?」
「いや、なんでもない。しっかりお披露目してやろうか」
「おまかせください、ですっ!」
クルスとルルは問題ない、なら俺たちは?
あぁ、そうだな。
これもついでだ、俺以上に研究しがいのあるやつがいるぞってのも、教えてやろう。
「「サイクロンッ!!」」
クルスとルルが選択したのはやっぱり風魔法で、中々に大きな竜巻が襲い掛かって来た。
「ユニアッ!!」
「はいですっ! ブーストッ!!」
向かうはユニア。
まだちゃんとコントロールできない身体能力強化を、俺が全力でアシストする。
突っ込んでいくユニアを見て、クラスメイトの誰かが悲鳴を上げた、危ないと大声で叫んだ。
見てろっての。
「……ブースト、アップ」
ぱちりと自分の視界にスパークが奔った。
やっぱり、まだまだ未熟だ。
それも仕方ないだろう? こんなもん、極炎の時だってやったことないんだから。
でも、回復魔法と同じく、これもいずれ完璧にやってみせる。
「――は?」
さて、その呆気に取られたかのような声は誰のモノだろうか。
「……参った、なぁ」
「うぅ……し、信じられないよぅ」
迫っていたサイクロンがキレイさっぱり無くなって。
「そこまでっ! 勝者、ルージュさーーーーん、ユニアペアッ!」
クルスとルルを押し倒し、喉元に爪を突き付けるユニアがそこにいた。
……あとエンリ、お前はもうちょっと俺を呼び慣れなさい。