目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第16話「正しい言い訳」

「やっぱりさぁ! 絶対さぁ! ルージュ君って絶対凄い人だよねぇっ!?」

「それほどでもない」

「あっ!? あーっ!? 何それ何それぇっ! 最近あたしの扱い雑っ! 雑だよルージュ君っ! いつもみたいにちゃんと煙に巻いてよねっ!」


 えぇ……? どういうことなの? ちゃんと煙に? うぅん。


「そ、そんな目で僕を見ないでくれたまえよルージュ。正直、キミに驚くことはもう無いと、何されても驚かないと思っていたつもりだったんだ。だが、先の件を考えるとね、うん」

「だよねだよねっ! ルージュ君実は極魔の人とか!? そう言われてもあたし納得するし、納得しかないよっ!!」


 ちょっとルルのテンションが危険で危ない。

 肝心のユニアは疲れたのかぐっすりモードになっておられるし、孤立無援とはこのことかぐぬぬ。


「ルル」

「なにっ!?」

「凄いのは俺じゃなくてユニア。そういうこと」

「そっかーユニアちゃんがすごいのかーそうだよねーあたし納得――するわけがないっ!!」


 まぁ、うん。

 多少、そうだ多少ね? 多少は本気モードになったかもしれないけどさ? ほら、まだ髪の色とか戻ってないしさ。完璧百パーじゃないんだって、ほんとほんと。


 ……なんて、言えたらなぁ!! あーもう!


「じゃあ、そうだな。まぁ一旦落ち着こう。ちゃんとお話するから」

「あ、うん」

「……急に落ち着かないでくれたまえよルル、僕だってキミが驚いていなかったからこそ落ち着けていたと言うのに……ふぅ。それで? ルージュ、何を話すというんだい?」

「ほんとに凄かったのは二人だってことさ」


 こういう時は事実で攻める、学んだよね、俺ってば。


「……」

「いや、ちゃんと煙にまけっていったのはルルだしさ」

「ぶー」

「むくれるなっての」


 あたし、遺憾の意を表明しますと顔に書いているけど気にしないようにしようね。


「先に言っておこうか。驚いたのはこっちのセリフだよ、あのサイクロンはもちろんだけど。何よりも魔力感知とその応用、凄かった」

「そ、そう? えへへ……頑張ったかい、あったなぁ。ありがとう、ルージュ君」

「ちょっとルルの感情の上下についてはいけなくなってきた気がするよ……だが、赤本もあったからね」

「こういう時は素直にありがとうで良いと思うぞクルス。重ねて言うが、凄かったのはルルとクルス、二人ともだ」


 謙遜は止めろとまっすぐに言ってみればクルスは何処となく照れたようにそっぽを向いた。

 実にレアな表情だが、イケメンは何やってもサマになるから羨ましいよ。


「あのサイクロンを見てクルスがどれだけ操作に磨きをかけたのかはわかるし、ルルは感知するための感覚を磨いたのかもわかる。特にルルは少し世界が変わって見えるようになってきたんじゃないか?」

「う、ん……ちょっと大げさかも、だけど。少なくともその人が魔法を使おうとしたら、なんか、わかるようになった、かな」

「大袈裟なわけない。そういう域に達したから俺のアシストなしのユニアを完封できたんだろうし、誇ると良いよ」

「も、もーやだなールージュ君はあたしをおだてるの上手すぎるなーもうっ!」


 ルルが嬉しそうで何よりですね。

 クルスもうんうんと頷いているし、フォルトゥリア結成からで考えれば伸びしろを着実に身に着けているのはルルだろう。


「今の学園でコンビ……上手くパラレル・キャストを実戦的に扱えるのは二人だけと言っても過言じゃないと思う。個々の実力がしっかり身につくまでは当面二人セットで考えようか」

「あぁ、そうだね。個々の実力が身につくまではと言ってくれて嬉しいよ。まだまだ未熟だ、自惚れてはいけない」

「う……そ、そうだよね。まだちょっと珍しいことが出来るようになった普通の魔法使い、だもんね」


 うん、魔法的な意味だけじゃなく二人の相性は悪くない。

 並行して魔法使いとしての腕を磨いていくことで、素晴らしい魔法使いを目指せるだろう。


「で、だ。そろそろユニア君とルージュが何をしていたのかを教えてくれてもいいんじゃないかな?」

「あ、そうだよそうだよ。あたし、やっぱりびっくりしちゃって。最後なんか、ユニアちゃんの動き、目に映らなかったもん」


 まぁそりゃ知りたいよな。

 と言っても、俺自身まだまだユニアと呼吸を合わせると言うか……何が出来るか出来ないかをちゃんと全部知れてない。


 だから話すと言っても本当にあの場でだけのことになるけれど。


「獣人は魔力を魔法として内効的に消費することが出来るって話はしたよな?」

「体外に魔法として放出することが出来ない代わりに、だよね?」

「そう。代替手段と決まったわけじゃないんだけれどな」

「まぁ、そうだね。魔法を放出できる獣人を見た事が無いというだけで、決まったわけじゃないか」


 実際、放出できる可能性は高い。

 本当に可能性が絶無だと言うのなら、俺がパラレル・キャストでユニアが魔力を集中させた箇所で魔法を発生させるなんてことは不可能だろう。


「俺は魔力や魔法を操作するのが得意だ。炎を拳や脚に纏わせたのは俺が魔法を顕現するって部分をアシストしたからで、勝負を決めた時のは身体能力向上っていう獣人ならではの魔法をより効率的に出来るようにユニアの体内魔力を操作したのさ」


 さらっと言ってみるテスト。

 実のところ多分極魔クラスじゃないと無理な芸当ではあるからなぁ。

 あんまりとっても凄いことなんですよって風味を出すのはよろしくない。


「そんなこと、可能なのかい?」

「可能だからこその結果だよ」


 あんまり通用しなかったらしく訝しげな視線をクルスから頂いてしまったが。


「……操作とか、魔術を磨けばいずれあたしでも出来るようになる?」

「もちろんだ。逆にあのサイクロン、俺がルルとパラレル・キャストをしても今は絶対できないが、いずれ。ってのと同じだよ」


 サイクロンじゃなくてファイア・ストームなら出来る、なんてのは野暮が過ぎるけれど。


「そっか、ならいずれあたしもユニアちゃんと一緒に頑張るね!」

「……ふぅ。本当にルルからは見習わないといけない姿勢ばかりだ。ルージュ、僕もきっといずれその高みに至ると約束するよ」


 うん、上手く煙にまけたってことで一つ。


 あとは。


「俺も負けないからな? って言うような競争だけど、そろそろ」

「うん? そろそろ?」

「……アイネ・クラムリー。稀代のマジックスミスがいる理由、だね?」

「クルスは知ってたか。俺も、初めて見るけど噂はかねがねって感じだよ」


 クルスと頷きを交わし合う。

 いまいちルルはピンと来ていない様子だけれど。


「そろそろイベントが始まりそうだ、ってことだよ。いつでも大丈夫なように、仕上げておこうな」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?