「エンリ、進展は?」
「はっ。アイネ・クラムリーが学院へと正式にバトルロワイアルの開催を要請しました。もちろん、マジックアイテムの性能確認という名目で」
「メジールの反応は」
「目に見えて、というわけでは御座いませんが。心中穏やかではないかと」
ってことは教師連中の参加はナシで纏まりそうか。
結局本当に生徒たちの身を案じて故の話なのかは掴めないところだけど、どうなるかね。
「バトルロワイアル開催中、教師連中の動向観察を頼む」
「無論、心得ております」
「当日、俺もユニアと一緒にバトルロワイアルへ参加している体を取りつつ学院の背景を暴くように動くつもりだが……」
「暇があるか、ですね」
フォルトゥリアは目の上のたん瘤だ。
学生にとっても、教師連中にとっても。
「メジールの真意や思惑は別として、多くの意味で俺たちの鼻っ面をひっぱたく良い機会ではあるからな」
「別学年の講師も行いましたが、中々の気迫では御座いましたよ」
「ある意味火をつけられたのは確かってことだな」
「流石ルージュ様です」
火魔法を極めた男だけにってか? うるさいよ。
ぱちぱちと手を叩いてくれるエンリに苦笑いを一つ返しておいて。
「クルスとルルはセットで動ける状態を維持できるなら早々ヤバイ目には合わないだろう」
「私も同じ意見です。極魔、程とは申し上げませんが。二人で一つと考えた時Aランクには迫るかと」
「ああ。むしろ害を与えることが出来る人間が学院内にまだいるならそれはそれで良い事、と思うべきだ」
クルスとルルには悪いが、いい結果は残せても勝ち残ることは難しい。
魔法的な体力はもちろん、戦いに生きてきた人間じゃないんだ、作戦を立てても綻びはどうしても出てくるだろう。
「フォルトゥリアの名前に傷が、という部分の心配はしなくてもよろしいでしょうし」
「なんだかトゲを感じるけど? まぁ、俺とユニアなら何の問題もないのは確かだよ」
ユニアは俺の正体を知ってるし、赤髪にならなくて済む範疇を超えるのなら不味いけど、そうそうないだろう。
むしろ、どう手加減していい勝負を演じるべきか。なんて性格の悪いことを考えなきゃならない方が大変だ。
「……はぁ。何に腹立ってるんだ? アイネか?」
「うぐ」
「露骨に胸押さえてそうですって言うんじゃないよ」
「てへぺろ」
なんだコイツ、今度修行漬けにしてやる。
「俺としてはそこまでアイネが苦手? な理由が思い当たらないんだけど?」
「え……?」
「なんだよその驚き顔は」
「……自覚がない? いやでも……うーん」
何やら考え込み始めた、いやほんと何なのさ。
「その。ルージュ様?」
「何だよ」
「私だけならず、獄炎隊や極魔、特に女性魔法使いの多くはアイネ、様のことを苦手か嫌っておりますよ?」
「……はぁ? え、いやなんで? マジ?」
マジでなんでだよ? しかもめっちゃしっかりと頷かれた、本当らしい。
「ルージュ様は、ご自身の人気を存じていらっしゃらないのですか?」
「に、人気?」
「はい。市井からの人気は言うに及ばずではありますが、宮廷魔法使いたちからの人気は独身男性の中では上位どころか、なのですよ?」
「え? え?」
何それ初耳なんだけど?
「それこそ、独身であるという条件をつけるならまさしく第一席と言っても過言ではありません」
「……マジ?」
「マジです」
「……えぇ?」
ちょっとどころか信じられないんですけど。
俺ってば別に誰からも告白とかされなかったし、恋愛なにそれ状態だったんですけど?
「まぁ、ええ。極水様という目も御座いましたし? それは置いておくにしても、です」
「あ、はい」
「そんな人気のある殿方が、唯一頼られる女性。それがアイネ様です。そりゃもう私とてアイネのところに行ってくると仰ったルージュ様を何度血の涙流しながらハンカチ噛んでお見送りしたことか」
白い目向けてくるエンリから目を逸らして。
そんな事実が……う、うーん。
「でも俺って別に女の子ウケするようなこと、何もしてないはずだけど」
「……はぁ」
「ため息つくなよ!?」
「はぁ、はぁ、はぁ」
だからと言って鼻息荒くするなっての!?
「こほん。ともあれ、宮廷魔法使い、とりわけ極魔、獄炎隊の女性隊員からは最大級の強敵でありライバルと目されておりますし、私もそうです。どうか、ご容赦くださった後お気になさらず」
「は、はぁ」
うーん……別に俺、イケメンってわけでもないんだけどな。
ぶっちゃけただちょっと炎魔法を極めたって言われてるだけの魔法使いなんだが。
民間人からはともかく、同僚からそんな風に見られていたとは思わなかったよ。
まぁいいや、えーと、とりあえず。
「ば、バトルロワイアルが本格的に告知、開催される前にいったん極水に会っておきたい。頼めるか?」
「はい。そう言ったことであれば、よろこんで」
お話進めましょう、そうだね、そうだよ。